*sweet Graduation*
【プロローグ】
あさっては、先輩の卒業式。
先輩には色々お世話になったなぁ、なんて思いながら、帰路をもくもくと歩く私。
そんな時に、後ろから声がかかった。
・・・声主はいつもの人。
「羽癒、また1人?」
「先輩も1人ですか?」
「まーな」
にししっと笑う先輩。
いつも先輩は、下校時になると私に声をかけてくれる。
「いやー今日も寒いなー」
「そうですね・・・。でも、この頃は昼間が少し温かいですね」
「そうか?俺寒がりだから、あんまわかんねー」
「その割りには、昼間外で走り回ってましたけどね?」
「あれは別だ」
「なんです、それ?」
くすくすと二人で笑いあう。
先輩は笑っていながらも、やはり寒いらしく、コートの襟の部分をきゅっとひっつけながら持った。
「はい、先輩」
「ん?あ・・・」
先輩の前にたって、少し背伸びをしながら先輩の首にマフラーをかける。
白いマフラーだから、恥ずかしくないはず。
「いや、これだとお前が・・・」
「大丈夫、私は元気がとりえですから」
「ははっ、なるほどな。そんじゃ、遠慮なく借りる」
優しく笑う先輩。
そんな先輩は、後今の下校と1日で卒業してしまう。
【1】
「んじゃ、代議員、よろしくな!」
「よろしくねーん!」
「頼むよ」
「・・・はいはい」
こう、どうして私はいつも頼みごとを断れないのだろうか。
これはどう考えても、押し付けられてるよね。
今は放課後。
私は、掃除をサボっていた班のペナルティの監視をしている・・・、否、していた。
その班は、まぁ普通にサボる班だけあって、用事だのなんだのと言ってさっさと帰った奴2名。1名は純粋に欠席。・・・そして、あとの3人は、ホウキでバッと一発はいたとたん、「あぁー」とか言って用事思い出したと言った。
・・・そして、掃除を私に押し付けてきた。
そしてそして、それを断れなかった私。
「・・・ほんと、だめだな・・・」
もう皆帰ってしまったんだから、やるしかない。
・・・今日は、ついていないことばかり。
というか、いやなことばかり。
今日は、彼氏である智也に振られた。
それはもうばっさりと、「お前はおもしろくない」と。
・・・トイレで涙がかれてしまうんじゃないかというほどに泣いた。
そして、トイレからでてくると、中庭のベンチで彼女だと思われる人と手を繋いで楽しそうに話している彼の姿。
私の心は、ばっさばっさと斬られていった。
それと、部活にいけなかった。
なぜか代議員の仕事でもないことを先生に任せれて、断れないままそのままやりつづけてしまった。
そして、そこからこのざまだ。
・・・ついてないどころの問題ではない。
「はぁ・・・」
深くため息をついたときだった。
「羽癒、なにしてんだ?」
階段から声が聞こえて、私は階段を上がった。
すると、一番上の踊り場にあるちょっとしたイスに座っている人がいた。
・・・先輩だった。
「あ・・・えっと、掃除です、掃除。先輩こそなにを?」
「俺?俺はなー・・・たそがれ」
そう言って、悲しそうに笑った。
その笑顔をみて、私はわかってしまった。
「彼女さんに振られましたね」
「ははっ・・・正~解。羽癒は相変わらず勘が鋭いな」
「お褒めのことば光栄です」
そんな会話をしても、先輩の顔はやはりはれない。
・・・あたりまえ、だよね。
「・・・私、先輩には笑っててほしいと思っていました」
「へ?」
「すみません、今から勝手な慰めのようなよくわからないことを話します。・・・けど、先輩はムリに笑いすぎです」
「羽癒・・・?」
「笑ってほしいとは思っていましたというより、今も思っています。・・・でも、無理やり笑う先輩を見ると、胸が締め付けられていたいんです。・・・私まで、勝手に悲しくなってきます」
「羽癒・・・」
「だから、先輩」
そこまで言って、私はホウキを置いて先輩の前に立つ。
・・・ごめんね、先輩。
だけど、今はこうさせてほしいの。
「泣きたいときは、ムリに笑わず泣いてください」
スッ・・・と、先輩を抱きしめる。
先輩のふわっとした髪が私の頬を撫でる。
ごめんね、先輩。
でも、これが、私なりの伝え方と、慰め方なの。
「・・・あり、がと・・・」
「・・・うん」
先輩は、私の服をきゅっと掴むと、静かに涙を流す。
そんな先輩が・・・今は、とてもとても愛しい。
あぁ、やっぱり、そうだったんだと確信する。
彼に振られて、元々あったけど、表には出なかった感情がバッと表れた。
私は、先輩が好きだ。
「・・・あのね、先輩」
「・・・ん」
「先輩は、人の心の痛みを知りすぎてるんです」
「・・・痛み・・・?」
「そうです。一見、その辺には鈍そうですけど・・・周りの、何十倍も何千倍も、先輩は人の心の痛みを知っています。むしろ、知りすぎているんです。先輩は、泣かなかったでしょ。・・・けど、その強がりの裏返しには、彼女の痛みが心にあったから。自分だけ泣くわけにはいかなかったから。・・・でしょ?」
問うと、先輩は「ははっ」とうっすらと泣き笑いをした。
「・・・確かに、そうかもな。強がりが5割・・・アイツが、別れ話をしてきたときの演技だと思う涙に5割・・・だろうな」
「ふふ・・・そんなことだと思いました。・・・先輩は、人の痛みを知りすぎてるうえに、優しすぎなんです。同情の仕方がふわふわで、優しくて・・・。私とは、真反対の人物」
たははと笑う。
・・・ちゃんと笑えてるかな。
「俺な、実は今日見たんだよなー」
「・・・何をです?」
この会話からすると、なんとなくわかった。
「羽癒が智也にばっさりと振られてるとこ」
「・・・やっぱり」
「はぁ・・・。羽癒こそ、泣けばいいものを、俺の慰めなんかにまわっちゃって」
「・・・いいんです、私は。もう、散々泣きました」
「羽癒の散々は散々じゃねぇと俺は思うんだけど」
「どういう、意味ですか?」
「言っても、2分程度でトイレから出てきたからな」
・・・そこまで見てたんだ。
少し、はずかしくなる。
「・・・私的には、散々泣いたんですけどね?」
「冗談。あんなもんで散々とか、人の涙をなめすぎだ」
「そういうものなんですか」
「あぁ、そうだ」
なんだろう、この会話。
・・・とても、温かい。
いまだに、先輩を抱きしめたまま話しているからだろうか?
「・・・羽癒。俺は今思った」
「何ですか?」
「お前が一番、無理やり笑ってる。一番、人の痛みを知りすぎてる」
「・・・は、はは・・・。私は、いいんですって・・・」
「よくない。ぜんっぜんよくない」
先輩はそこまで言うと、私の耳元でささやいた。
「さっきの言葉、付け足しありで返す。・・・泣きたいときは、ムリに笑わず泣け。・・・人慰める前にな」
「っ・・・」
胸が、とても熱くなった。
・・・これは、涙がこみ上げてくる前兆。
そうおもった否や、涙がぶわ・・・と溢れる。
「うっ・・・ううっ・・・」
とめどなく涙が流れる。
先輩は形勢逆転とでも言うように、私をひょいと抱き上げて、イスに座らした。
そして先輩は、私の隣に座る。
ぽんっ・・・と、私の頭に手をのせる。
・・・あぁ、温かい。
「せん、ぱい・・・」
「よく、我慢したな。えらいえらい」
肩を抱いて、涙を次から次へと溢れさせる私を自分の下へと引き寄せる。
「先輩・・・?」
「羽癒・・・。・・・、あした」
「ん・・・?」
「明日、卒業式が終わったら、俺の教室で待っててくれないか」
先輩の申し出に私は驚いた。
「どういう、ことですか・・・?」
「話したいことがあるんだ。・・・いいか?」
「・・・はい。待ってます」
それから、5分ほどその状態で、目を閉じていた。
・・・明日、私に何を話すのだろうか。
楽しみなような、寂しいような・・・。
【2】
「せんっぱーい!卒業、おめでとうございまーす!」
「先輩!第二ボタン、いただけませんか?!」
「どこの高校なんですか!?」
たくさんの声が、正門付近で飛び交う。
とても皆楽しそうだ。
そんな風景を、私は2階から眺めていた。
そして、さっきからずっと目で追っている人は、もちろんながら、先輩。
今日で、先輩の中学の制服を見るのは最後。
・・・相変わらず、とても似合っている。
惚れ惚れしてしまう。
・・・私も、もう少しだけ下にいたらよかったかな。
だけど、先輩の話が待ち遠しくて。
そんなことを思いながら、先輩を目で追うと、先輩は不意にこちらに顔を向けた。
私が見えて、少し焦った顔をする先輩に、私は手を振ってから、口パクで「まだ大丈夫ですよ」と言う。
先輩は口パクが見えたらしく、手を振り替えしてから、頷いた。
先輩、とても幸せそうだ。
それをみただけで、私の口元が緩む。
・・・今なら、誰にだって負けない自身がある。
先輩が、大好きだって。
******
「ごめん、遅れた!」
先輩が息を切らして、教室に入った。
少し身を乗り出し、外を見ていた私は、先輩の声にひょこっと後ろを向く。
「大丈夫ですよ。ここから、みんなの幸せそうな表情を見てるだけで、すごく楽しかったですから」
「そうだったのか」
「はい」
先輩は私が座る席の前に座る。
多分、自分の席だと思う。
「落書き、たくさんしてありますね。・・・これ、先輩が書いたでしょ?」
私が座る席の机にある、一つの落書きを指差す。
そこには、先輩の好きなキャラクターの絵が書いてあった。
「正解。よくわかったな」
「先輩、このキャラすきでしょう」
そんな他愛の無い話をする。
それだけで、とても幸福を感じる。
「・・・ふぅ。さてと、本題にはいろうか」
「あ・・・はい」
改まって先輩の顔を見る。
・・・相変わらず、カッコイイ。
「んーと・・・どう、切り出せばいいのやら・・・」
「え・・・?」
そんなに、重いな話なのかな・・・?
ホントは高校落ちました、とか・・・。
ち、ちがうよね?!
「ばさっと言ったほうが、すっきりするんじゃないですか?」
「まぁ・・・それもそうだな」
そういうなり、先輩は立ち上がって、私の目の前に来た。
机と机の間の狭い通路に、先輩が1人立つ。
私は通路側に出していた足を少しイスの下に引っ込める。
・・・なんだか、ドキドキしてきた。
さっきまでは、こんな感じしなかったのに。
先輩が、近いからかな・・・?
「あのな、羽癒」
「は、はい・・・」
私の表情は、今どんなだろうか。
変な表情じゃなければいいのだけれど。
・・・先輩を見れない。
どうしても視線をそらしてしまう。
「耳、かしてくれ」
「へ・・・?あ、はい」
いきなりどうしたのだろうか。
そう思いながらも、先輩の方へと少し体を前にする。
そー・・・っと、先輩の唇が私の耳元に近づく。
その少し遠慮した感じが、よけに私をドキドキさせる。
・・・そして、次の瞬間には、先輩の色っぽい声が、私の耳元で囁く。
『好きです、俺と付き合ってください』
・・・色っぽい声に、甘い台詞。
私の頬は、いっきに熱を持つ。
先輩の唇が私の耳元から離れた頃には、私は制服のスカートの裾をキュッとつかみながら、下を向いていた。
「ごめん、いきなり。・・・けど、今伝えないと、もう時間がないと思ったんだ」
「先輩・・・」
先輩は視線を下に落とす。
・・・違う。
こんな反応をしたいんじゃない。
私は・・・私は・・・
「羽癒・・・」
「先輩・・・。私にも耳をかしてください」
「へ・・・?あ、あぁ、うん」
今度は先輩が少し前に体を傾ける。
私は少しの隙間に立ち、イスを片つける。
少しだけ後ろに下がってから、先輩の耳元に背伸びする。
・・・ちゃんと、言わないといけない。
先輩が言うように、もう時間が無い。
これからはもう、合う時間どころか、電話で話すことさえなくなると思う。
だから、伝えよう。
先輩も、私に伝えてくれたんだから。
ギリギリ届いた先輩の耳元で、少しふらつきながら。
『私も、好きです』
その短い言葉に秘められた気持ちに、先輩は気づいてくれるだろうか。
・・・毎日下校時に声をかけてくれた先輩への気持ち。
私を優しく抱きしめてくれた先輩への気持ち。
・・・先輩の、毎日の、あったかい笑顔。
ほかにも、たくさんの先輩への気持ちがギュッとまとまった言葉。
耳元を離れて、先輩を見る。
すると、先輩は意外にも、顔を真っ赤に赤らめていた。
「先輩・・・?」
「・・・羽癒、見るな・・・」
ソレは・・・顔を見るな、ってことなのかな?
というか、それしかないか。
先輩の必死な隠しに、私は笑いが込みあげる。
「ふふっ・・・ははっ」
「・・・笑うな・・・」
少しムスッとした声で言う先輩。
そんな声でさえ、かっこいいと思わせる先輩。
ズルいなー・・・。
「さっ、先輩。帰りましょう?」
「・・・そうだな」
顔から手をのけて、やっと戻ったと一息つく先輩。
そして、くるっと教室の入り口の方を向くと、さっさとドアの方へ歩いていく。
私がその後ろをひょこひょこと追いかけると、急に入り口の前で先輩が止まった。
「わっ・・・。びっくりするじゃないですか」
「ごめん、大丈夫か?」
「あ、はい。どうしたんですか?」
「あぁ、いや・・・。その・・・」
少し言葉をにごらせる先輩。
不思議に思っていると、先輩が私の手をつかんだ。
「先輩・・・?」
「・・・行くぞ」
そういうなり、ギュッと私の指に自分の指を絡める先輩。
そんな行動が、とても嬉しくて、愛しかった。
「はいっ」
先輩の大きく温かい手に、私は1人少しはしゃぐ。
いつもの帰り道である田んぼ道でさえ、今は少し違う風景に見えた。
「先輩」
「んー?」
「私ね、先輩の棒高、すごくすきでした」
「へぇ・・・初めて言われたな」
「そうなんですか?先輩の棒高、すごく綺麗なのに」
「それも初めて言われた」
少し目を逸らす先輩。
私、なにか悪い事言ったかな・・・?
「・・・ありがとう、な」
「へ・・・?」
「初めて言われただけに、かなり嬉しかった。・・・ありがとう」
そういって、ふわっと笑う先輩。
あぁ・・・ズルい。
けど、やっぱり先輩には笑っててほしいと、改めて思った。
今日も、綺麗な冬空が広がる。
少しだけ赤みがかった遠くの空は、光の反射で輝いていた。
「先輩、改めて言います」
「ん?なんだ?」
一度先輩から離れ、先輩の目の前にひょこっと立つ。
とても不思議そうな顔をする先輩に改めて__
『ご卒業、おめでとうございます!』




