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#7

あらすじ☆ゴブリンをなんとか倒したルイーゼは、クライに弟子だと認められる。やる気のないルイーゼだが、クライに不正をネタに脅され……!

 リンドウ町は華やかだった。ひとつ森を隔てただけでこんなに変わるものか? ルイーゼは目を疑う。

 見たこともないようなキラキラと輝くネオン街が夜の繁華街に広がっているのだ。それに加え、人間の数も半端ではない。過疎化しているルイーゼの村など比較にもならないほど、肌を露出した娘たちが連れ立って歩いていたり、髪を染めた青年たちが女の子たちを手当たりしだいにナンパしていたりする。

 だいたいはどこの都会でも煮たようなものだが、賭博場や雀荘、カジノ、ラブホテルや売春婦などが裏通りに溢れているのが見えた。

 ふと隣を見ると、ネオン街にクライは食らいつきそうな楽しげな目をしていた。こいつ遊び人なんだろうなー、とルイーゼは冷静に思う。

「先生、おなか空きましたぁ」

「素直でよろしい。宿の食堂で人と待ち合わせをしているんですよ。そこに行きましょう」

 ふうん、と大して気にも止めずにルイーゼはクライについて道を進んだ。道を奥に入ったところの、少し光が抑えられたデザインの落ち着いた宿屋に着いた。

 扉を開け、ちらほらいる客の中に、ひときわ目を引く金髪の少年がいた。上流階級を連想させる流れるような細い髪を、伸ばしかけらしく、後ろで少量を束ねている。真面目そうな目つきの碧眼の少年だ。少年はクライの姿を見つけると、頬をぱっと紅潮させて、勢いよく立ち上がった。

 クライは何も言わず、笑顔ですっと右手を上げた。すると少年は、その場で深く一礼してクライを出迎える。顔を上げ、彼ははきはきと発言した。

「お待ちしていました、クライ様!」

「よしなさい、シーナ」

「ご無事で何よりです」

「本当に、きみは心配性ですね」

 クライと再会したことを無条件で喜ぶこの少年は一体……シーナと呼ばれた少年は、クライと言葉少なに笑顔を交わし、親しげな空気を発していた。なによりシーナがクライを全面的に尊敬していることが伝染するように伝わってきたので、ルイーゼは一歩引いた心地だった。

 ――なんだろ、この人。クライのお付の人かしら? まあ、従者のひとりやふたり、当然いるわよねぇ。

 それにしてはやけに若いような気がした。ルイーゼより多少年上の、15、6歳くらいだろう。

「ああ、そうそう。紹介しますよ。彼女は、ぼくの弟子になったルイーゼです」

 紹介され、ルイーゼはおとなしくぺこりと頭を下げた。さすがにシーナのように90度も下げることなく、近所の人に挨拶する程度に。

「あ、どうもー」

 その瞬間、シーナが刺客の気配でも捉えたかというくらいに険しい表情になって硬直した。ルイーゼは鋭く読み取って後ろを振り返ってみたが、怪しげな人は幸い誰もいなかった。って、この人が睨んでるのって、私か?

「で、ルイーゼ。この子はぼくの弟子のシーナです。つまりきみの兄弟子に当たる人だね。まあ若い者同士仲良くやってくれ。はははは」

 クライの発言は謎だ、なにが「はははは」なんだかよく分からない。だいたいそのセリフって見合いの場で親が席を立つ時に言うヤツじゃ……。

 シーナはさらにむっつりと押し黙り、なにやら俯き加減になっている。ルイーゼはとりあえず「こんなんですが、よろしく」と笑ってごまかした。

「ええ、よろしく……」

 シーナの声は震え、顔は青ざめてさえ見えた。全く歓迎されていなかった。神経がそうとう細かくいらっしゃるようである。極度の対人恐怖症なのかもしれない。

「あの、ひとつ確認しておきたいことが……クライ様」

「なんだい」

「この女が、クライ様の弟子?」

「うん」

 にっこりと答えるクライ。

「どのような基準で、このような小娘をお選びになられたわけで? とうぜん、魔法はお得意――」

「あ、悪い、シーナ。ぼくは仕事があるんだ」

 来たばかりだというのに、クライがいそいそと荷物を抱えなおす。

「ちょっとねー危険だから一人で行ってくる。明け方には帰るからあと頼むよ」

「はぁ~!?」

 ルイーゼとシーナの声がかぶった。そりゃかぶりもする。初対面でこれほど気まずいのに明け方までふたりきりってか? 状況をちょっとは考慮しろ先生!! 

「ちょっとねー先生っ、そんな勝手な――」

 ルイーゼが叫ぼうとすると、シーナが遮った。

「お待ち下さい! 俺はお供します、クライ様の足手まといにはならないつもりですー―この女と違って!」

 むか。

 さすがのルイーゼも頭にきた。

 しかし、クライはシーナの発言をとがめることもせずに、遠ざかり始めていた。

「とはいってもね、シーナ、不慣れなその子をひとり置いていくわけにもいかないですよ。ちゃんと面倒みてやってください。では」

 クライは一瞬で姿を消す。

 後には、問題のふたりだけが残される。

 その瞬間。

「はああああああ!」

 頭を抱えて突然にシーナはテーブルに膝をついて苦悩しはじめた。なんて分かりやすい苦悩の仕方なんだ、とルイーゼは驚愕した。

「あ、あのー」

「納得できない……なんでこんなマヌケそーなヤツが弟子になるんだっ……」

「ねえ、ちょっと待って……」

「ふさわしくない! クライ様にふさわしくないんだ! こんなヤツ弟子だと認めるわけにはいかない!」

 シーナはルイーゼに言うというよりも、モノローグに近いような独り言を言っていた。ルイーゼのことは全く無視である。ほとんどノイローゼ。暗くて気色悪い。

「だああああ~、何なのアンタ、さっきから、『この女』だの『こんなヤツ』だの。名前を呼びなさいよ。話しかけてるんだから目を合わせなさいよ。国の憲法の基本的人権の損害よっ! それにだいたい、私は魔法学校の名門ノワール学校の全校生徒を対象にテストした結果、選ばれた逸材なんだから!」

「ははは、冗談はよせよ。なにかの間違いだろう」

 シーナは遠い目で窓ガラスに映った自分の顔を見つめていた。あくまでもルイーゼを視界に入れないつもりらしい。いわゆる現実逃避だ。

「だから、先生が選んだんだってば。先生の目を疑う気?」

「ああーー」

 シーナは頬に手を当て、苦悩ポーズを取る。ナルシストっぽい奴だ。

 つまるところ、彼にはそれが許せないらしかった。敬愛するクライが、自分以外の人間も目にかけたという事実が。たぶん、クライが連れてくる『新しい弟子』が誰であろうと、気に入らないのだろう。

「クライ様を『先生』などと気安く呼ぶなんて、不潔な……。そもそも、先輩の俺にそんな慣れ慣れしい言葉を使うなんて。おまえ、自分の立場を分かってるのか?」

 不潔って……そもそも先生がそう呼べって言ったんだけど……。それを不潔と言うのか君は?

「しかもこんなガキだし、女だし、美人でもない――なんの面においても、不合格だ」

「あーっ、性別や外見のことまで言及したわね!? 差別だわ! そんなことは魔法と全く関係ないでしょ! 私が美人じゃないっていうところに、あなたの人間的センスが疑われるわ!」

「よし、決めた。こうなったら、俺がおまえをテストしよう。クライ様の弟子にふさわしくないと判断した時点で、その理由をクライ様に報告する」

「はあー!? 『おまえをテスト』って、単なる兄弟子のくせにあんた何様よ!」

「『単なる』!? 侮辱したな。俺は一年前にクライ様に弟子にスカウトされたんだ。お前などとは格が違う。マスタークライの一番弟子だぞ」

「さんざん私のこと侮辱してきたのはどっちよ!」

「俺がいれば十分なんだ」

 真っ直ぐに目を見つめ、シーナは睨みをきかせた。

「後継者はふたりも必要ない」

 ここまで言われると、ルイーゼも本格的に頭にきた。

「いいわ。そのテストとやらを、受けてやろうじゃない」


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