#4
あらすじ
マスタークライの後継者選考で、魔法学校ノワールで生徒全員に試験が課せられた。ルイーゼは手を抜いたにも関わらず、見事、合格してしまい……
大好きなロロが言いました。
「ルイーゼ、クライさんの弟子になったんだってね。すごいや、おめでとう!」
あの桃のようなほっぺたで……。
「いつかルイーゼが世界を救う勇者になるのかな? 僕、応援してるからねっ」
ああ、ありがとう、愛しいロロ。
色んなものを犠牲にした結果、私は、あなたのために、ティアラを……紺青に輝くティアラを――
っていうかロロ、すでにティアラかぶってるし!! めっちゃ似合うし! かわいいし!!
私は凍った。
「ロロー」
名を呼びながら後ろから駆けてきたのは、ロロと同い年くらいの、勝気そうな瞳をした少女だった。高く結ったポニーテールが誇らしげに揺れる。見た目、ロロのお姉さんのようにしっかりしている。
「なにしてるのよ。さ、デートに行きましょ」
「わーい。マキちゃんと遊園地っ」
ロロはあろうことか、その尻尾女の腕に自分のかわいらしい手をするりと絡ませた。
「!!!」
私は石化した。
「じゃあね、ルイーゼ。旅、がんばってね」
ロロは笑顔で手を振り、マキちゃんとやらとおててつないで歩いていきました。
「ロロ、そのティアラ似合ってるわよw 気に入ってくれた?」
「もちろん! えへへ、マキちゃん大好き」
「………」
私は銅像と化して、もうすこしで地元の名物として永遠に町に佇むところだった。
私は鞄の中から、今日換金しようと思っていた≪蜂蜜のベル≫を取り出し、つるつると輝くハニー色を眺めた。
窮地のときに鳴らすと、妖精が……
私は思わず、リンリン、とベルを振っていた。そりゃもう半狂乱になって、振りまくった。
そのとたん、光の筋が私の周囲をぐるりと回転し、やがて止まった。ピンボールくらいの光の玉をよく見ると、それは小さな男の子の姿をした妖精だった。
「なんだ、お前が主人かよ。しけた面してんなあ。困ったことでもあったのか? 俺は急がしいんだ、くだらないことで呼び出したら、張っ倒すかんな」
その妖精は、すねたような曲がった口の形をしていて、生意気そうで、好みではない。
「なによあんた、もっとかわいい子が来てくれたっていいじゃないっ」
「はあ、なにお前、いわゆるショタなの? げえー、貧乏クジ引いちまったぜ。こんな女に食われたらナンだ。エルファ様に、主人を変えてもらうように頼まなきゃ。あばよ、短い付き合いだったな」
光の玉がまた、光の速度でルイーゼの前から姿を消した……。
「うがあーっ、なんなのよこのアイテム。なんの意味があるのよっ!」
ルイーゼはやけくそになって、足元に、蜂蜜のベルをたたきつけたのだった。
* * *
ルイーゼが失恋しようがしまいが、そんなことには関係なく、学園中は大騒ぎである。
なにせ、なんの成果もみせなかったルイーゼが、マスタークライのお眼鏡に適ったのだから……。
「あ、あああ、あのですね、学長先生」
「ルイーゼ!」
学長室に呼ばれたルイーゼは、部屋に入るなり、感極まって涙目になった学長に手を握られ、祝福を受けた。
「おめでとう! この学園からクライ様の弟子が誕生するなんて、私は誇り高いよ」
「はははは、いえいえそんな」
引きつり笑いを浮かべるルイーゼ。
「期待していますよ、ルイーゼ」
「頑張ってね、ルイーゼ」
「はははははは、はい……」
出発は三日後と、もうすでに決定していた。
彼女はにこにこ笑いを続けているマスタークライをちらりと見やり、疑問を覚えた。
この男、本当に大魔法使いなのか? いくら潜在能力を探るといっても、手を抜いたやる気のない生徒なんぞを、弟子に取るか?
まさか――
私を狙ってて、旅の途中、襲おうとしているっ!?
あり得るわ! わざわざ女子学校に来たのも、女の子を漁りにきた可能性だってある。奴は魔法なんか見てないのよ、好みの女の子コンテストをしていたんだわ! 確かに私は美人だしスタイルもいいし誰もが放っておかないミスコンナンバーワンだけど、そんなのってないわ!!
しかも旅ってふたりっきりだし。青年と少女がふたり旅……(想像中)
……いやあああああああああ~!
* * *
そうこうしているうちに、あっさりと出発の日が訪れた。
てきとうに部屋にあるものを詰め込んだリュックを背負ったルイーゼは、盛大に見送られた。
モモエは感動のあまり涙を流して喜んでいた。
「ルイーゼ、わたし、あなたが友達でほんとに自慢だよ! ぜんぜん恨んでないよ。マスターの力になってあげてね!」
「モモエ……」
違う意味でルイーゼも涙目になった。
長年のライバルのロッテは、腕組みしたまま、悔しそうに述べた。
「まあ、クライ様が認めたのなら、仕方ないわ。今回は負けを認める。けどね、ルイーゼ、私たちの勝負はまだ終わっていないわ。いつかまた会いましょう。そのときは私も、魔法使いとして腕を磨いてるから」
「ロッテ……」
なにをひとりで浸っているんだ、ロッテ、と突っ込みたくなったが、できなかった。
「ルイーゼ!」
さらに――バスで二時間かけて、ルイーゼの家族が見送りに来てくれていた。
「お前は我が家の誇りだ、ルイーゼ」と父。
「あなたなら、やってくれると思っていたわ」と母。
「気をつけろよ、遠くから応援してるからな」と兄。
「おねえちゃん、すごいよー」と妹。
「ワン!」と、ポチ。
ルイーゼは涙をひとすじ流し、頭をさげた。
「おとうさん、おかあさん、おにいちゃん、リシュ(妹)、ポチ、ありがとう。行ってきます!」
立派に宣言しながら、ルイーゼの胸中は――
なにさわやかに挨拶してるんだ私っ! 感動の別れのシーンだよこれっ! もう引き下がれないじゃんかっ!
と、涙に暮れていた。
「さあ、ルイーゼ、行きましょう」
ろくに会話も交わしたことのない、マスタークライが、朗らかな表情で告げた。ルイーゼはあごを震わせながら、こくんと頷き、校門をくぐって、クライと並んで歩き出した。
ルイーゼはクライの横顔をちらちらと盗み見ていた。
頭は混乱し、未来は真っ白だった。
「あのう、マスタークライ……」
「ん?」
「ええ、その、私なんかのどこが良かったのでしょうか?」
「あー、無能なところが」
「え?」
「無能そうなのに勝気そうで、愚かっぽいところが、ぼくの好みだね」
微笑みながら、クライは告げた。
(#5へ続く)