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第5章:後の祭りと、女たちの戦場

「ちょっと! 全員おだまりなさい! このアルヴィンは、私の婚約者……だった男よ! 私が捨てたんだから、拾う権利も私にあるはずだわ!」




 ルナリア様のヒステリックな叫びが、シャンデリアの輝く大広間に空虚に響きました。


 ですが、そこにいた「狩人」たちの反応は、冷ややかな失笑。


 隣国の第一王女、イザベラ様が、扇子で口元を隠しながら一歩前に踏み出しました。




「あら、ルナリア様。貴女、さっき自分の口で『婚約破棄』とおっしゃいましたわよね? 国王陛下の御前で、これほど多くの証人がいる前で。……一度捨てたゴミを、価値が出たからと拾い直すのは、王族として少々……いえ、かなり卑しい振る舞いではなくて?」




「ご、ゴミじゃないわよ! 彼は私の盾よ! 私を守るために存在しているの!」


 ルナリア様が縋るように叫ぶと、今度はカチャリと鎧を鳴らして、近衛騎士団長のカトリーヌが割り込みました。




「盾、ですか。……ルナリア様、昨日の狩猟祭で、貴女が彼をデュラハンの前に『突き飛ばした』報告はすでに受けています。……騎士道において、盾とは守るべきものであり、使い捨てるものではない。貴女に彼を語る資格など、微塵もありませんわ」




 全方位からの論破。


 ルナリア様は、まるで袋叩きに遭う小動物のように震え、今度はアルヴィンの袖を掴もうと手を伸ばしました。




「アルヴィン! 貴方からも言ってやって! 私たちの仲じゃない! ほら、さっきの冗談(婚約破棄)はナシにしてあげるから、早く私の後ろに来なさい!」




 その瞬間。


 会場の空気が、氷点下まで凍りつきました。


 アルヴィンではなく、彼を囲む女たちが、一斉に殺気を放ったのです。




「……触れないでくださる? その汚らわしい手で」


「彼を殺しかけた女が、よくもまあ図々しく……」




 イザベラ様が、アルヴィンの前に立ちはだかり、ルナリア様の手をピシャリとはね除けました。


 そして、獲物を狙う蜘蛛のような瞳で、絶望に染まるルナリア様を見下ろしたのです。




「ルナリア様、教えて差し上げますわ。貴女が『無能』だと蔑んでいた彼の魔力は、今やこの国の防壁を一人で維持できるほどに目覚めている。……今この瞬間、彼は世界で最も価値のある『守護者』なのです。貴女が彼を捨てたのは、ダイヤモンドを河原の石ころだと思って投げ捨てたのと同じ。……もう二度と、その手には戻りませんわ」




 ルナリア様は、その場に膝から崩れ落ちました。


 自分の足元に散らばる、無数の白い手袋。


 それが、自分への祝福ではなく、自分から「宝物」を奪い去るための無慈悲な招待状だったことを、彼女はようやく理解したのです。




 一方、当のアルヴィンはといえば。


 女たちの激しい舌戦を、どこか遠い国の出来事のように眺めていました。




「……あの、皆さん。そんなに私の魔力がすごいって言うなら、この会場のシャンデリア、もっと明るくしましょうか? 掃除もついでにやっておきますよ。……あ、あと、ルナリア様。その落ちた手袋、私が拾って洗濯しておきますから、そんなに落ち込まないでくださいよ」




 無自覚。


 これほどまでにルナリア様のプライドをズタズタにする毒は他にありません。


 彼女が必死に「自分のもの」だと主張している男は、もはや彼女のことなど「ちょっと物忘れの激しい、片付けの苦手な元上司」くらいにしか思っていないのです。




「……あ、あ、あああああ……ッ!!」




 ルナリア様の絶叫が、賑やかな祝祭の音楽にかき消されていきました。


 自業自得、因果応報。


 王女が一人、冷たい石畳の上で手袋の山に埋もれていく姿は、滑稽を通り越して、もはや一種の芸術的な「ざまぁ」の完成系でございました。

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