第8話 「ドラゴン、恋をこぼす」
夜。
いつものように、直哉の部屋にはシルヴァの笑い声が響いていた。
「ねぇダーリン! この“恋愛ドラマ”って、なんでみんな泣いてるの?」
テレビを指差しながら、シルヴァが不思議そうに首をかしげる。
銀の髪がゆらりと揺れて、湯上がりの頬に赤みが差していた。
「そりゃ……好きな人が遠くへ行っちまうからだよ」
「ふーん……。遠くに行ったら、飛んで追いかければいいのに」
「お前はドラゴンだからな……普通の人間は、飛べねぇんだよ」
そう言って笑う直哉に、シルヴァも笑い返す――が、
その笑顔の奥に、一瞬だけ陰りが差した。
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夜更け。
直哉が寝静まったあと、ベランダの外に銀の影が立っていた。
「……ダーリン、やっぱり人間って、すぐ遠くに行っちゃうんだね」
月明かりを受けながら、シルヴァの瞳が赤く光る。
彼女の胸の奥で、何かがじんわりと疼いていた。
――あの“炎の記憶”。
彼女がまだ、人間を知らなかった頃。
戦いと孤独の中で、焼け落ちた空を見上げて泣いた夜。
「……泣くの、久しぶりだなぁ」
頬を伝う涙が、床に落ちて“ちりっ”と蒸発する。
ドラゴンの涙は、熱を帯びていた。
その光に気づいたのか、カーテンの隙間から直哉が顔を出す。
「おい……シルヴァ? どうした?」
「へへ……なんでもないよ、ダーリン。ただね、心がちょっと……燃えすぎただけ」
そう言って笑うその顔は、どこか切なく、
いつもの天真爛漫な笑顔とは違っていた。
「……まったく。お前ってやつは」
直哉は苦笑しながら、そっと彼女の頭を撫でる。
シルヴァは少し驚いたように目を丸くして、そして小さく囁いた。
「ねぇ、ダーリン……あたし、人間の“恋”って、こういうのかな」
その言葉は、夜風に溶けて消えていった。
けれど、直哉の胸の奥には、確かに“熱”が灯っていた。




