第7話『炎と風呂と、湯気の事件』
「ダーリン! “お風呂”ってやつ、やってみたい!」
帰宅して早々、シルヴァが元気よく宣言した。
その瞳は期待と好奇心でギラギラしている。
嫌な予感しかしない。
「お風呂は“火”を使うけど、燃やすんじゃなくて――」
「お湯を沸かすのよね? 任せてダーリン、火なら得意よ!」
そう言って彼女は、指先に青白い炎をともす。
……まさかと思った瞬間、
ボンッ!
浴室のドアの向こうから、まるで竜の息吹のような爆音。
次の瞬間、湯気が廊下まで流れ出す。
「シルヴァ! 何してんだ!」
「わぁっ、見てダーリン! お湯、すっごい熱いの!」
「だから加減しろって言っただろ!」
慌てて水を足して温度を下げる俺。
しかしその背後から、タオルを抱えたシルヴァがひょこっと顔を出した。
「ダーリンも一緒に入るんでしょ?」
「入らねぇよ!」
「なんで? 一緒の方が楽しいじゃない♡」
にやりと笑うその顔がずるい。
肩から滑り落ちたタオルを、彼女は気づかないふりで直そうとする。
……いや、絶対気づいてる。
「ほらダーリン、湯加減見て?」
「いや、その格好で言うな!」
「んふふっ、顔真っ赤~♪ 人間ってお湯よりすぐ熱くなるのね」
完全に遊ばれてる。
でもその笑い声が、なぜか心地いい。
シルヴァは湯船につかり、気持ちよさそうに目を細めた。
「ねぇダーリン、あたし……こういう時間、好き。」
「こういう時間?」
「一緒に笑って、同じ湯気の中にいる時間。」
彼女の赤い瞳が、湯気の向こうでやさしく光る。
ドラゴンなのに、どこか人間らしくて。
俺はただ、頷くことしかできなかった。
「ダーリン?」
「……なんだよ。」
「次は“シャンプー”っての、やってみたいの♪」
「やめろ、それは泡の惨劇になる!」
「えぇ~! 泡パーティーしよっ♡」
その夜、浴室からは――
笑い声と、何かが弾ける音がずっと響いていた。




