第4話『炎のクッキング』
朝。
俺のアパートのキッチンが、まるで戦場のようになっていた。
「ねぇダーリン! 見て見て! あたし、やってるわよ!」
声の主、金髪に赤い瞳、そして背中からちょこんと覗く鱗。
そう、ドラゴンの女性――シルヴァである。
問題は、彼女が持っているものだ。
フライパン。中身、謎。
そしてその中から、物理的な火柱が立ち上っている。
「おい! それ火力強すぎ! フライパンごと燃えてるって!」
「えぇっ? だって“火を使う料理”でしょ?」
「使うけど! 燃やすわけじゃない!」
シルヴァは頬をぷくっと膨らませ、しっぽをぶんぶん振り回す。
その先がガスの火口に近づいて――
「おい、待て尻尾! 燃える! 燃えるって!」
「きゃあっ!? ダーリン助けてぇ!」
ばふっと音を立てて、尻尾の先が小さく燃え上がる。
俺はとっさに水をかけ、ずぶ濡れになったシルヴァがこちらを見上げた。
「……ダーリン、これが“愛のシャワー”ってやつ?」
「違う! 消火活動だ!!」
天真爛漫、破壊的、そしてどこか憎めない。
この女、本当に手がかかる。
しかし、そんな彼女が次に見せた表情は――少しだけ真剣だった。
「ダーリン、ねぇ……“食べる”って、すごいことなのね。」
「ん?」
「生きるために、燃やして、混ぜて、味わう。人間って、火を恐れず使うんだもの。」
そう言って、焦げたトーストを小さくちぎり、ぱくっと口に入れた。
表情がふっと和らぐ。
「……苦いけど、あったかい。ダーリンの味がする。」
「は!? いや、俺は入ってねぇから!」
「ふふっ、顔が真っ赤よダーリン♪」
笑う彼女の瞳に、ふと、炎のような光が揺れた。
それはまるで、古の竜が宿す神聖な火のように見えた。
――燃えるように、優しく。
彼女の“人間らしさ”が、少しずつこの部屋を温めていく。
そして俺は、決意した。
次の料理は、絶対にコンロを使わせない。




