最終話(エピローグ)『そして、空の果てへ』
朝の風が、やわらかく頬を撫でた。
どこまでも広がる青い空の下、シルヴァは窓辺で伸びをしている。
陽に透ける銀髪が、光をまとってきらきらと踊った。
「ねぇダーリン、今日の空……昨日より、ちょっと広くなった気がするの」
「そりゃ、お前が昨日、空ごと焼き直したからだろ」
「えへへ~、だって星が足りなかったんだもん」
相変わらずのドタバタ調子に、直哉は苦笑しながらコーヒーをすする。
テーブルの上には、シルヴァが作った(焦げ気味の)パンケーキ。
煙の奥に見える笑顔は、なんだかんだで世界一可愛い。
「こうしてると……夢みたいだな」
直哉がつぶやくと、シルヴァは首を傾げて、ふわりと近づく。
「夢じゃないよ。だって――」
彼女は直哉の頬を指でつん、と突いた。
「ほら、ちゃんと痛いでしょ?」
「……痛いけど、甘いな」
「ふふっ、ダーリン、甘党~♪」
彼女の尻尾がぱたぱたと弾んで、カップを倒すのもいつものこと。
「おまえなぁ……朝から大惨事だぞ」
「だって、それが幸せってことでしょ?」
そう言って笑うシルヴァの瞳は、どこまでも澄んでいた。
銀の髪が風に揺れ、空を映したようなその笑顔に、直哉は息をのむ。
「……シルヴァ」
「ん?」
「これからも、こんな朝が続くといいな」
「うん。ずっと、ダーリンと一緒にね」
少しの沈黙。
そして、彼女がふと真面目な声で言った。
「ねぇダーリン、“永遠”って、人間の言葉でどんな意味?」
「……終わりがなく、続くこと……かな」
「じゃあ――」
シルヴァは小さく笑って、彼の胸に顔をうずめる。
「シルヴァ流の“永遠”、してもいい?」
「……なんだそれ?」
「ぎゅーってするの。こうやって、ずっとね」
両腕を広げ、思いきり抱きつく。
尻尾が勢いよく跳ねて、テーブルをまた鳴らした。
「おいおい、壊すなよ……!」
「えへへっ、だって――幸せの音♪」
二人の笑い声が、空へと溶けていく。
その笑いの中には、きっと“永遠”があった。
銀の髪と赤い瞳のドラゴン。
そして、彼女を愛したただの人間。
二人の世界は、もうここにあった。
――そう、空の果てなんて、もう探さなくていい。
シルヴァが小さくつぶやく。
「ねぇダーリン……いつかね、ちっちゃいドラゴンと一緒に暮らしたいの」
「ちっちゃいドラゴン?」
「うん! ダーリンに似て、優しくて、ちょっとドジで……世界一かわいいの!」
「……おい、それってまさか――」
「ふふっ、内緒~♡」
そのまま勢いよく抱きつかれ、直哉はあっけなく押し倒される。
「ちょっ、シルヴァ!? テーブル、また――!」
「いいじゃん、ダーリン! 幸せ、こぼれちゃうくらいが、ちょうどいいの!」
ふたりの笑い声が、今日も空に響いた。
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――『ドラゴン、愛を知る』 完。
(そして、幸せは続いていく)




