第25話『約束の果て、ふたりの空』
夜明け。
竜の神殿を包んでいた金色の光が、ゆっくりと淡く溶けていく。
シルヴァは静かに目を開け、隣に眠る直哉の顔を見つめていた。
その表情には、これまでの旅では見せなかった穏やかな微笑みがあった。
けれど――その奥に、ほんのわずかな“迷い”の影が揺れる。
「……ねぇ、ダーリン」
「ん、どうした?」
「この空、どこまで続いてると思う?」
「さぁな。でも、おまえが飛べば――どこまでだって、届くさ」
直哉の答えに、シルヴァは少しだけ泣きそうな笑顔を浮かべた。
「そう言うと思った。……でも、私、知ってるの。
この空の果てには、“別の世界の境”があるって」
彼女の背の紋章が淡く光る。
その光は、まるで“帰還の刻”を告げる鐘のように脈打っていた。
「……また、帰るのか?」
直哉の声が震える。
「ううん。帰るんじゃない。選ぶの。
“ドラゴンとしての世界”か、“あなたと生きる世界”か」
風が、ふたりの間を通り抜けた。
静かな、けれど心を締め付ける沈黙。
シルヴァはそっと直哉の頬に触れる。
「ダーリン。私、あのとき約束したよね。
“たとえ何があっても、一緒に空を見よう”って」
「……ああ」
「なら、もう迷わない。私は“あなたと生きる”」
その瞬間、紋章がまぶしく輝いた。
空が震え、神殿の上空に巨大な光の輪が生まれる。
二人を包むように広がるその光は、まるで新しい“空”の誕生だった。
「これが……新しい世界?」
「うん。あなたと私が選んだ、“ふたりの空”」
シルヴァの銀の髪が風に舞い、直哉の手がその中を優しく撫でる。
炎のような赤い瞳が、愛しげに輝いた。
「ねぇダーリン」
「なんだ?」
「これからも、いっぱいドタバタしていい?」
「……勘弁してくれ」
「ふふっ、でも好きでしょ?」
「……まぁ、な」
ふたりの笑い声が、空へと溶けていった。
その瞬間、光の輪は完全な円を描き――
“ふたりだけの空”が、生まれた。




