第20話『ドラゴン、愛を選ぶ』
窓の外では、雨が静かに降っていた。
街の灯が滲み、部屋の中には、淡い光と影が揺れている。
テーブルの上には、二つのマグカップ。
湯気の向こうで、シルヴァは少し寂しげに笑った。
「ねぇダーリン……もし、私たちが前の世界でも“恋人”だったとしたら、
今のこの気持ちは……同じなのかな?」
「どういう意味だ?」
「運命が決めた“絆”なのか、それとも――私がもう一度、あなたを“好きになった”のか」
赤い瞳が揺れる。
それは強さでもあり、迷いでもあった。
ダーリンはしばらく黙って、マグを置いた。
「俺は、どっちでもいいと思う」
「えっ?」
「過去の約束でも、今の恋でも……俺は“今のシルヴァ”を好きになってる」
「運命なんて言葉で片付けたくねぇ。俺が選んでるんだよ」
その言葉に、シルヴァの頬がほんのりと赤く染まる。
胸の奥に、ぽっと灯りがともったような温かさが広がった。
けれど、その温もりを包むように、どこか遠い“声”が響く。
――“シルヴァ、契約の時が近い”
彼女の脳裏に、古のドラゴンたちの声が蘇る。
“愛の契約”とは、魂を分け合う誓い。
だが、それは片方の存在を“永遠に閉じ込める”ことを意味していた。
(……そんなの、いや。ダーリンを、縛りたくない)
「……シルヴァ?」
「ううん、なんでもない」
いつものように笑ってみせるが、尻尾の先は小さく震えていた。
彼女はそっと立ち上がる。
「ダーリン、外に出よう。雨……きれいだから」
夜の街。
濡れたアスファルトに街灯が反射して、無数の光が踊っている。
シルヴァは空を見上げ、静かに目を閉じた。
「ドラゴンの愛は、燃え尽きるまで続くの」
「でも……私は、燃やし尽くす愛じゃなくて、あなたと“生きる”愛がいい」
雨に濡れながら、彼女は微笑む。
ダーリンがそっと傘を差し出す。
「それでいい。お前がそう選んだなら――それが答えだろ」
二人の肩に、ひとつの傘。
雨音の中で、シルヴァの赤い瞳がやさしく光る。
それは“運命”ではなく、彼女自身の意思で掴んだ“愛”の光。
「ねぇダーリン」
「ん?」
「今夜、夢を見てもいい?」
「どんな夢だ?」
「“ふたりの未来”の夢」
雨が静かに止み、雲間から月が覗いた。
シルヴァの銀髪が淡く光り、彼女の背中の紋章が、柔らかな金色に染まっていく。
それは――“永遠の誓い”ではなく、“今を生きる愛”の証。




