第19話『翼の記憶、心の鍵』
夜明け前。
静まり返った部屋の中、シルヴァは鏡の前で自分の背中を見つめていた。
そこに刻まれた“光の紋章”は、まるで呼吸するように淡く脈動している。
それは、彼女の鼓動と――不思議なほど同じリズムを刻んでいた。
「……ねぇ、ダーリン。これ、何だと思う?」
朝食のトーストをかじりながら、シルヴァが背中を向けて尋ねる。
「刺青……ってわけじゃなさそうだな」
「うん。ドラゴン族の文様に似てるけど、ちょっと違うの。なんていうか――“誰かと繋がってる”感じがする」
「繋がってる?」
「うん……ほら、こうしてると、心の奥で誰かの声が聞こえるのよ。“また逢えたね”って」
ダーリンはその言葉に、胸の奥が妙にざわついた。
理由もなく、懐かしい気持ちが込み上げてくる。
その瞬間――
彼の手の甲にも、淡い光が走った。
「……っ!?」
驚いて見つめると、そこには同じ紋章が浮かび上がっていた。
「ダーリン!? それ、まさか……!」
「おいおい、何なんだよこれ……!」
二人の紋章が淡く共鳴し、光が部屋いっぱいに広がっていく。
空気が震え、記憶の断片が一瞬だけ流れ込む。
――青空。
――約束の丘。
――そして、銀髪のドラゴンが泣いていた。
『また、生まれ変わっても……あなたを見つけるから。』
直哉は息を呑んだ。
自分の脳裏に、決して知らないはずの光景が焼き付いて離れない。
「……今の、なんだ?」
「覚えてないの?」とシルヴァは小さく呟いた。
「あなたは……私が翼をあげた相手。“前の世界”で、ね」
彼女の赤い瞳が静かに揺れる。
「あなたは人間として生まれ変わった。でも、私は約束を守りたくて……また人の姿になったの」
ダーリンはしばらく黙っていたが、やがて口を開く。
「……そんなこと言われても、信じられない、って言うべきなんだろうけど」
彼は笑って言った。
「不思議と、納得できるんだよ。お前を初めて見た時から――懐かしかったからさ」
シルヴァの目に涙がにじむ。
「ねぇダーリン……また、私に翼をもらってくれる?」
「もういらない。今度は一緒に歩こうぜ」
そう言って、彼は彼女の頭を撫でた。
その瞬間、紋章の光がふっと和らぎ、二人の鼓動が一つに重なった。
部屋の外では、朝の光がカーテン越しに差し込む。
新しい一日の始まり――
それは、過去と現在を結ぶ“再会の朝”だった。




