第18話『翼をなくしたドラゴン』
朝の光が差し込む部屋。
カーテンの隙間から、淡い陽光がシルヴァの髪を照らす。
だが、その背に――昨日まであった“光の翼”はなかった。
「……あれ?」
寝ぼけ眼で背中を動かすシルヴァ。
だが、何度動かしても羽音はしない。
「ダーリン! ねぇ、ダーリン!!」
慌てて彼を叩き起こす。
「お、おいっ、朝から何だよ……!」
「ないのっ! 私の翼が、ないのぉぉ!!」
大騒ぎの声に、ダーリンも完全に目が覚める。
そして背中を見た瞬間――確かに、そこには何もなかった。
「昨日まではちゃんとあったんだろ?」
「そうよ! 夜、あなたと話して、眠って……起きたらコレ!」
彼女は鏡の前で右往左往しながら、必死に羽ばたこうとするが、背中はただの肌。
代わりに、そこには淡く光る痕――まるで“誰かに触れられた跡”のような紋章が残っていた。
ダーリンは少し考えて、静かに言った。
「……もしかして、夢のせいかもしれないな」
「夢……?」
「昨日言ってただろ、“翼を誰かにあげた”って」
その瞬間、シルヴァの表情が凍りついた。
「……そう、だった。夢の中で、私は“あの人”に翼を……」
記憶の断片がフラッシュのように蘇る。
青い空。焼けた大地。
そして、“誰か”のために翼を差し出す自分。
その人の笑顔――それは、まるでダーリンの笑顔に重なって見えた。
「ねぇダーリン……もし私が、昔、別の人を愛していたら……それでも、今の私を好きでいてくれる?」
問いかける声は震えていた。
ダーリンは少し沈黙してから、ゆっくりと答える。
「“今”のお前が俺の隣にいるなら、それでいい」
「でも……翼がない私は、もうドラゴンじゃないのよ?」
「じゃあ、人間として恋すればいいじゃないか」
その一言に、シルヴァの目が潤む。
涙の粒が零れ、頬を伝って光を反射した。
「ダーリン……やっぱり、あなたはズルい」
「そうか?」
「うん。だって、そんなこと言われたら……また、あなたに翼をあげたくなる」
彼女はそっと笑った。
背中に翼はない。
けれど、その笑顔は――まるで空を飛ぶように自由だった。




