第16話『ドラゴン、恋を語る夜』
夜。
静まり返った部屋の窓辺で、シルヴァは月を見上げていた。
デートの余韻がまだ胸の奥に残っていて、胸の鼓動がゆっくりと続いている。
「……ダーリン、起きてる?」
寝室の灯りの下で、直哉は湯呑みを手にしていた。
「うん。眠れなくてな」
「シルヴァも。同じ……」
彼女はそっと彼の隣に腰を下ろす。
銀の髪が月光を受けて、ふわりと光を放った。
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「ねぇダーリン、ひとつ聞いてもいい?」
「ん?」
「“恋”って、なんなの?」
唐突な問い。
けれど、その声は真剣そのものだった。
直哉は少し考え、言葉を選ぶようにゆっくり答えた。
「……恋は、誰かを想う気持ち、かな。
相手のことを考えると、笑顔になったり、不安になったり……
でも、会いたくてたまらなくなるんだ」
シルヴァはしばらく黙っていた。
そして小さく頷く。
「ドラゴンの恋はね、“魂を分ける契約”なの。
命を半分、相手にあげるんだよ」
直哉は思わず息をのむ。
「命を……?」
「うん。ドラゴンは長生きだけど、恋をすると寿命が短くなる。
でも、それでも“この命でいい”って思える相手に出会うの」
静かな言葉。
それは人間の比ではない、真っ直ぐすぎる愛の形だった。
「ダーリンは?」
シルヴァが顔を寄せる。
「人間の恋は、どうなの?」
直哉は少し笑って、目を伏せた。
「人間の恋は……不器用だよ。
相手を信じたいけど怖くて、でも一緒にいたい。
傷ついても、離れられないんだ」
シルヴァの赤い瞳がゆっくりと細められる。
「それって……痛いね」
「そうだな。でも、それが“あたたかい”んだ」
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沈黙。
二人の間を夜風が通り抜ける。
シルヴァがそっと直哉の肩に頭を乗せた。
「ねぇダーリン……今日ね、街で手をつないだ時、すごくドキドキしたの」
「うん」
「そのドキドキ、今もまだ続いてる。
これって、恋? それとも……もっと別のもの?」
直哉は答えられず、ただ隣に座っていた。
言葉の代わりに、彼女の手をそっと握る。
「……たぶん、それでいいんじゃないかな」
「そっか」
赤い瞳が、少しだけ潤む。
「ダーリンの手、あったかいね」
「お前の手もな」
やがて、シルヴァの尾が静かに直哉の腕に絡みつく。
まるで「離れたくない」と言うように。
月明かりが、二人を優しく照らしていた。
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その夜、彼女は夢を見た。
――炎の中で、誰かの手を握っていた夢を。
そこにいたのは、確かに“ダーリン”だった。




