第15話『ダーリン、デートに行く!』
「ダーリン、デートしよう!」
朝からシルヴァのテンションは最高潮だった。
唐突すぎる提案に、直哉はコーヒーを吹き出しそうになる。
「で、デートって……急にどうしたんだ?」
「人間の恋は“デート”から始まるって、ドラマで見たの!」
「またドラマか……」
「だから! シルヴァもダーリンと“人間らしい恋”したいのっ!」
赤い瞳がきらきらと輝く。
こう言われて断れる男が、この世にいるだろうか。
しかし、その後の準備が問題だった。
クローゼットから次々と服を引っ張り出し――
「ダーリン、これが“モテる服”でしょ?」
「いや、それパジャマだ」
「じゃあこっちは!?」
「……それ、水着だな」
最終的に、彼女が選んだのは――
白いシャツワンピースに、大きな麦わら帽子。
少し大人っぽく、でもどこか純粋で。
直哉は思わず息をのむ。
「……似合ってる」
「えっ、ほんと!? ダーリン、惚れ直した?」
「ま、まぁ……」
「ふふーん、ダーリンの“ハートゲージ”上昇中♡」
(誰に教わったんだその言い回し……)
人混みを歩くシルヴァ。
見るものすべてが新鮮で、いちいち大騒ぎだ。
「わぁっ、あれ見てダーリン!“アイスクリーム”が歩いてる!」
「それは着ぐるみだ!」
「ふふ、変なの~。でも可愛い!」
手をつなぎながら歩くその姿は、まるで子供のよう。
だが、シルヴァはどこか誇らしげだった。
「ねぇダーリン、これが“人間らしい恋”なんだね」
「まぁ、こんな感じ……かな」
「じゃあ次、“恋の証”もしよっか!」
「は? なにそれ」
「だってドラマで、恋人たちは“口づけ”を――」
その瞬間、通りの真ん中で顔を寄せようとするシルヴァ。
「ちょっ、シルヴァ!? ここ街中だぞ!?」
「え、ダメなの!? 人間って大変!」
慌てて引き止める直哉。
周囲のカップルがチラ見してクスクス笑う。
顔を真っ赤にして、直哉はため息。
「……お前、本当に天真爛漫だな」
「それ、褒め言葉?」
「……まぁ、悪くない」
デートを終え、並んで歩く帰り道。
シルヴァは麦わら帽子を抱きしめながらぽつりと呟く。
「ダーリン、今日……楽しかった」
「俺も」
「でもね、人間の恋って難しいね。
笑ったり、照れたり、胸がぎゅってしたり……全部“あたし”じゃないみたい」
直哉は静かに微笑んだ。
「いいんだよ、それが恋ってやつだ」
赤い瞳が月明かりを反射し、ゆらゆらと揺れる。
「……ダーリン。あたしね、“恋”よりも“ダーリン”が知りたい」
「……シルヴァ?」
「もっと知りたいの、ダーリンって人間のこと」
少し切なげな笑顔。
それは、炎のように熱くて、どこか儚かった。
その夜、シルヴァの尾が眠りながらゆっくり動いた。
まるで夢の中でも、彼を追いかけているかのように。




