第14話『ドラゴン、愛を知らない?』
朝。
直哉がリビングに降りていくと、ソファに正座したシルヴァが真剣な顔でテレビを見つめていた。
画面には――恋愛ドラマ。
主演の俳優が、涙ながらに「愛してる」と叫ぶ場面。
「……ダーリン!」
「うわっ、びっくりした!」
シルヴァが勢いよく振り返る。赤い瞳がキラキラと輝いていた。
「シルヴァ、分かったの。“恋”と“愛”は違うんだね!」
「いや、いきなりどうしたんだ」
「だって、恋はドキドキで、愛は……ぎゅって抱きしめることなんでしょ!?」
「(ドラマの見過ぎだ……)」
彼女は立ち上がり、両手を広げる。
「ダーリン、実験しよう!」
「何の!?」
「“愛”のぎゅーってやつ!」
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その瞬間、直哉は両腕ごと炎のように包み込まれた。
「ちょっ、熱っ! シルヴァ、火、火っ!」
「ごめんっ! 気持ちが盛り上がると、つい出ちゃうの!」
「恋愛感情と火炎放射をセットにするな!」
部屋の一角が軽く焦げる。
焦げた匂いと共に、ふたりの笑い声が響いた。
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昼下がり。
シルヴァは真剣にノートを広げていた。
ページには大きな文字で「愛の研究ノート」と書かれている。
「ダーリン、愛って“お弁当を作ること”でもあるんでしょ?」
「まぁ、気持ちを込めるって意味では……」
「じゃあ、作る!」
数時間後――キッチンから爆発音。
「ダーリン! 愛が暴発した!」
「それ、ただの圧力鍋だよ!」
中身は壊滅的だったが、シルヴァは誇らしげに笑った。
「でも、心はちゃんと込めたんだよ?」
「……うん。味はともかく、気持ちは受け取った」
その瞬間、シルヴァの頬がぱっと赤くなり、尻尾がふわっと膨らんだ。
まるで――満足げな猫のように。
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夜。
ふたりは並んでベランダに立っていた。
冷たい風の中、シルヴァはそっと直哉の手を取る。
「ダーリン、愛って……あったかいね」
「そうだな。炎とは違うけど、じんわり来る」
「シルヴァ、分かってきたよ。“愛”って、燃やすんじゃなくて、守るものなんだね」
その言葉に、直哉は小さく笑った。
「その通りだよ、シルヴァ」
ふたりの手が重なり、空を見上げる。
夜空の星が、まるで祝福するようにまたたいていた。
その夜、直哉は思った。
シルヴァに“愛”を教えているつもりが、
いつの間にか、自分のほうが教えられていたのかもしれない、と。




