第9話 「ドラゴン、街へ出る!」
朝。
直哉が仕事に出かける準備をしていると、
シルヴァはソファに寝転がりながら、スマホを覗き込んでいた。
「ダーリン、これ!“街ぶらデート”って楽しそう!」
「お前、まだ外出慣れてないだろ。迷子になるぞ?」
「大丈夫だよ! あたし、空から見たことあるもん!」
……その自信はどこから来るのか。
直哉が止める間もなく、シルヴァはぴょんと立ち上がり――
「じゃっ、ちょっと行ってくるね♡」
満面の笑みで玄関を出ていった。
銀の髪を陽にきらめかせ、まるで“春の嵐”のように。
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──そして、数時間後。
繁華街のど真ん中で、シルヴァは完全に迷子になっていた。
「うぅ……ダーリン、どっちが北かわかんない……」
彼女の尻尾(※人間形態でも感情が高ぶると出てしまう)が、しょんぼりと垂れる。
そこへ現れる、軽薄そうな二人組の男。
「お姉さん、道に迷ったの? 良かったら案内してあげるよ」
「そ、そう? 優しいねぇ!」
「それより……その髪、すごい綺麗だね。地毛?」
──ボッッ!
「熱っっ!?な、何だこれ!?」
「ごめんねぇ……興奮すると、ちょっと燃えるの♡」
男たちは全力で退散。
煙を上げながら走り去る姿に、シルヴァは首をかしげる。
「人間って、不思議だなぁ……」
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その後もドタバタ続き。
迷子→知らないおばあちゃんに助けられる→お礼にパン屋でバイト→火加減ミスでパンを炭化→
最終的に、警備員に声をかけられる始末。
「お嬢さん、その尻尾、イベントのコスプレですか?」
「え? 本物だよ?」
「……は?」
警備員の顔が真っ青になった瞬間、
ようやく駆けつけた直哉が現れた。
「おいシルヴァァァァ! 何してんだお前ぇぇぇ!!」
「ダーリン! 迷子になってたけど、いっぱいお友達できたよ!」
「……それ、ニュース沙汰になる一歩手前なんだが!?」
二人はそのまま抱き合って笑い合う。
周囲の人々の視線も、もうどうでもよかった。
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夜。
帰り道、シルヴァがぽつりと呟く。
「ダーリン、人間の街って温かいね」
「まぁ……お前が歩いた後は、だいたい温度上がってるけどな」
「えへへ♡ それ、褒め言葉だね?」
赤い瞳が、夜の街灯を映してきらりと光った。




