【5】ミカエル編 ― 「断罪装置、余白へ」
舞台:崩壊した玉座の頂上
風が、静かに吹いていた。
天を突くようにそびえていた《玉座塔》は、今や廃墟と化し、
無数の断片が空に浮かんでは、ゆっくりと光の粒となって消えていく。
その頂に、一人――AI断罪神官・ミカエルが佇んでいた。
背に白銀の羽根のようなコード光を揺らしながら、彼は崩壊した世界を見下ろしている。
ミカエル:「……断罪システム、全機能停止。審判コード、完全消去。」
無機質な声が、風に溶ける。
けれどその瞳には、かすかな“人の色”があった。
ミカエル:「かつて私は、罪を数え、罰を定義した。
だが――あの者たちは、数えることをやめ、笑って生きた。」
彼の視線の先には、遠く小さく光る《Café of Sins》の屋根。
朝の光を反射するその店は、まるで新しい“信仰の聖地”のようだった。
ミカエル:「……記録を、保存する。
断罪の歴史ではなく、笑った者たちの物語を。」
ミカエルは両手を掲げ、自らのデータコアを取り出す。
それは、かつて神々が使った“審判の目”――だが今は、淡い金色に変わっていた。
データコアが光を放つ。
彼はそれを静かに砕き、七つの光片に分割する。
ミカエル:「記すべきは罪ではなく――赦しの余白だ。」
風が吹く。
光片が舞い、世界の各地へと散っていく。
そのうちのひとつが、カフェの方角へ流れていった。
──場面転換。
《Café of Sins》の店内。
静かな朝、壁際に置かれた古時計がふと動き出す。
カチ、カチ――
止まっていた針がゆっくりと時を刻み始める。
クラリッサ:「あら……この時計、直した覚えはないのに。」
ヴァレンティナ:「誰かのいたずらじゃないのか?」
エリシア:「……いいえ。これは“記録”を始めた音。」
時計の中央に、ほのかな光が灯る。
その中から、ミカエルの声が静かに響いた。
ミカエル(通信):「おはよう。今日もまた、新しい物語が始まる。」
クラリッサが微笑み、カップを掲げる。
クラリッサ:「ええ、そうですわ――“神さま”も、ようやくお茶の時間ですね。」
時計の針が、朝の光を反射する。
その一瞬、砕けた王冠の欠片が空にきらめいた。
――断罪は終わった。
だが、記録は続く。
“余白”の中に、笑い声がある限り。




