《後日譚:The Days After Sin》 【2】ヴァレンティナ編 ― 「折れた剣と新しい約束」
断罪のアリーナがあった場所は、いまやただの草原になっていた。
焦げた土の匂いも、観客の喚声も、もうどこにもない。
ただ、風が草を撫でる音だけが、世界の呼吸のように続いていた。
ヴァレンティナはその中心に立っていた。
両手には、折れた一本の剣。
あの最終戦で、神の光を受け止めて砕けた、自分の誇りそのものだった。
ヴァレンティナ:「……あたし、まだ戦うつもりなのか。
いや――もう戦わなくていいんだな。」
錆びた刃に映った自分の顔は、どこか穏やかだった。
戦士ではなく、“生きる人間”の顔。
それに気づいた瞬間、ヴァレンティナの頬に小さな笑みが浮かんだ。
風の中、光の揺らめきが形を成していく。
かつてのライバル――天界で何度も剣を交えた戦士の幻影が、静かに姿を現す。
互いに言葉はなかった。
ヴァレンティナは、無言で剣を掲げる。
幻影も同じように応じ、二つの刃が陽光の中で交差した。
――その一瞬だけ、草原に「戦いの誇り」が戻った気がした。
やがて幻影は風に溶け、剣を残して消えていく。
ヴァレンティナは深く息を吐き、剣を地に突き立てた。
ヴァレンティナ:「休めよ、相棒。
ここが、お前の最後の戦場だ。」
その声は、祈りのように静かだった。
そして、彼女は腰のポーチから一本の“木製スプーン”を取り出す。
いつかクラリッサに貰った、カフェの試作品をかき混ぜるためのスプーン。
ヴァレンティナ(苦笑して):「次は、焼きたてパンの匂いで勝負だ。」
そう呟いて、スプーンを腰に差す。
まるで新しい剣を携えたように、背筋がまっすぐ伸びた。
風が吹く。
折れた剣の墓標から、光の花びらが舞い上がり、空へと昇っていく。
その軌跡は、遠く――《カフェ・オブ・シンズ》の方角へ。
ヴァレンティナは眩しそうに目を細め、手をかざす。
ヴァレンティナ:「……あいつら、もう紅茶飲んでる頃だな。」
そう言って歩き出す。
その足取りは、戦場のそれではなく、
“帰る場所”へ向かう者の、軽やかなものだった。
ナレーション:
「戦いの果てに、彼女が選んだのは“守る”でも“斬る”でもなかった。
焼いて、香らせて、誰かを笑わせる――
それが、ヴァレンティナ・クロウの新しい剣だった。」
次回予告風エンドカード
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「真実がなくても、言葉は生きる。
そして彼女は今日も、嘘から始まる物語を紡ぐ。」




