《後日譚:The Days After Sin》【1】クラリッサ編 ― 「贖罪の紅茶会」
――風が、甘い。
けれど、その甘さは、砂糖のような優しさではなく、
懐かしさの奥に滲む“苦味”だった。
白亜の街《セレスティア廃都》。
かつて天界の中心として栄えた場所は、今では崩れた柱と光の欠片に満ちた静寂の庭になっていた。
その瓦礫の一角に、小さな丸テーブルが置かれている。
レースのクロスが風に揺れ、三脚のティーカップが丁寧に並べられていた。
クラリッサ:「……今日の風は、少しだけ甘い。あなたたちが笑っているせいかしら。」
声をかける相手はいない。
けれど、彼女の口調は、まるで誰かと語らっているように穏やかだった。
ティーポットから注がれる紅茶が、光を反射して淡く輝く。
ふと、風の中に輪郭が揺らめく。
ミレーユの柔らかな微笑み、マルガレーテの静かな瞳。
幻影が、ほんの一瞬だけそこに現れ、そしてまた光の粒となって消えた。
クラリッサ:「……ええ、わかっていますわ。
終わりはもう訪れた。けれど、私たちの“日常”は、まだ続いているのです。」
彼女はティーカップを一つ手に取り、静かに掲げた。
それは“さようなら”の仕草であり、同時に“おかえりなさい”の祈りだった。
紅茶の表面が、まるで小さな鏡のように光を返す。
その輝きが空に吸い込まれ、やがて細い光の筋となって遠くへ伸びていく。
――その光の行き先は、《カフェ・オブ・シンズ》。
断罪の跡地に建つ、彼女たちの“次の朝”が待つ場所だった。
クラリッサ(微笑みながら):「では、参りましょうか。紅茶は、冷めないうちに。」
風がドレスの裾を揺らす。
瓦礫の街の片隅で、彼女の紅茶会は、穏やかに幕を閉じた。
ナレーション:
「罪を悔いるのではなく、味わうように生きる。
それが、クラリッサ=リュシールの選んだ贖罪の形だった。」
次回予告風エンドカード
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「剣を置いても、闘志は消えない。
だから彼女は今日も、焼きたてのパンケーキで世界を叩き起こす。」




