訪れる影 ― “もう一つの断罪”
夜が更けた《Café of Sins》。
閉店後の店内は、カウンターのランプだけが淡く灯っている。
カップを洗う水音、カトラリーの触れ合う微かな響き――それ以外、何もない。
クラリッサはエプロンを外し、静かに息を吐いた。
エリシアは帳簿を閉じ、ヴァレンティナはマグカップを磨いている。
そこに――“音もなく”扉が開いた。
風が鳴り、ランプの炎が一瞬だけ揺れる。
入口には、顔の見えない誰かが立っていた。
男か女かもわからない。輪郭は淡く、闇と光の境界に滲んでいる。
ただ、その声だけが、あまりにも懐かしかった。
断罪フェスの最初の審判――“旧時代の神の断罪者”の声。
謎の声:「お前たちは、罪を赦した気でいるのか?」
低く、冷ややかで、しかしどこか哀しげでもある。
空気が震え、カウンターのグラスが微かに鳴る。
三人は言葉を失い、ただ静かに、その影を見つめていた。
最初に動いたのはヴァレンティナだった。
彼女は椅子を引き、立ち上がると、剣の代わりにコーヒーカップを手に取る。
ヴァレンティナ:「赦したわけじゃない。……ただ、生きるために、味わってるだけさ。」
カップの縁から立ち上る湯気が、夜気に溶ける。
彼女の目には、炎も怒りもない。ただ、静かな確信だけがあった。
クラリッサは微笑んだまま、紅茶のポットを傾ける。
エリシアは黙ってグラスを拭きながら、呟くように言った。
エリシア:「罪の味は、誰にも消せません。でも……少し甘くはできる。」
その瞬間――影が、微かに揺らいだ。
まるで夜風に吹かれた煙のように、形を失っていく。
謎の声:「……ならば、その味、最後まで忘れるな。」
声が消え、扉の鈴が一度だけ鳴る。
残されたのは、三人と、波打つ黒いコーヒーの表面だけだった。
静寂。
ヴァレンティナはカップを見つめながら、ぽつりと呟く。
ヴァレンティナ:「“もう一つの断罪”ってのは、たぶん……自分の中の奴だな。」
クラリッサ:「ええ。だからこそ、カフェは閉店しないのです。」
エリシア:「……今日も、罪の香りで売上アップ、ですか。」
三人、くすくすと笑う。
その笑い声が、夜の残光の中にゆっくりと溶けていった。
ナレーション(締め)
「断罪は終わらない。
それでも、人は――罪を抱えたまま、朝を待つ。」
次回予告風エンドカード
Next:Final Scene ― “The Café Opens Again”
「罪の味は、今日も少しだけ甘い。」




