語られる過去 ― “冠の欠片”
閉店の札をかけ、最後の客を見送ったあと。
《Café of Sins》のテラスには、夜風が柔らかく吹いていた。
クラリッサは紅茶のポットを手に、外の小さな丸テーブルへ。
ヴァレンティナとエリシアが続き、三人は並んで腰を下ろした。
空には、かつて“神の玉座”を象徴した王冠の残光が、砕けた欠片となって浮かんでいる。
それはもう、威圧的な光ではなく――静かに瞬く星屑のようだった。
エリシア:「あの王冠、まだ空に残ってるんですね。」
彼女はカップを傾けながら、ため息のように呟く。
光を受けて琥珀色の紅茶が揺れ、王冠のかけらを映し返した。
ヴァレンティナ:「消えなくてもいいさ。罪も誇りも、そう簡単には消えない。」
彼女の声には、いつもの豪胆さではなく、どこか優しい響きがあった。
過去の戦火を知る者だけが持つ、痛みと受容の混ざった微笑。
クラリッサ:「……それでも、笑えるのですもの。ね、贖罪者さま?」
クラリッサはカップを持ち上げ、残光を映す。
その表面に浮かぶ光は、まるで彼女の瞳の奥にある赦しのようだった。
ヴァレンティナは苦笑しながら、「贖罪者さま」という呼び方に肩をすくめる。
エリシアは、紅茶を一口飲みながら言った。
エリシア:「笑ってる限り、もう神様の出番なんてないですよ。」
その瞬間――どこか遠くで、風鈴の音が鳴った。
あの“断罪フェス”の喧騒を、かすかに思い出させるように。
風が、テラスのランプを揺らした。
その光は、三人の影を少しだけ重ねて――
まるで“無冠の王たち”が再び並んで座っているかのようだった。
クラリッサ:「ねえ……また明日も、開けますわよね。」
ヴァレンティナ:「当たり前だろ。罪人の朝は、毎日が開店準備さ。」
エリシア:「……はぁ。経営的には黒字にしてほしいですけど。」
三人の笑い声が、夜空に溶けていく。
その頭上で、冠の欠片たちが、静かにきらめいた。
ナレーション(締め)
「断罪は終わり、贖罪は日常になった。
王は消え、神は沈黙した。
それでも――人は、笑う。」




