Epilogue:Café of Sins朝の光 ― “罪人たちの朝食”
天界の跡地に、小さなカフェがあった。
崩れた玉座の礫を積み上げ、古い聖堂の扉を改装して作られたその建物には、
白いカーテンと小さな看板――**《Café of Sins》**と刻まれた文字が揺れている。
外は穏やかな朝。
空にはまだ、昨夜の断罪戦の名残――“王冠の残光”が薄く漂っていた。
だが、それはもはや威圧でも戒めでもなく、
まるで「おつかれさま」と微笑むように光っていた。
カウンターの奥では、クラリッサが紅茶を淹れている。
白いポットの中で、琥珀色の液体がゆらりと揺れた。
香りは静かに広がり、店内の空気を包み込む。
「……不思議ですわね。」
クラリッサは小さく息を吐き、紅茶の湯気の向こうを見た。
「昨日まで断罪されていたのに、今日はパンケーキを焼いているなんて。」
鉄板の向こうで、ヴァレンティナが片眉を上げる。
彼女の手際は軽やかで、焦げ目すら芸術のようだった。
「まあ、焼く相手がいるだけで、もう赦されてるようなもんさ。」
ヘラでパンケーキをひっくり返しながら、にやりと笑う。
「地獄の審判より、腹ぺこの客のほうが怖いしね。」
カウンターの片隅。
エリシアは帳簿をつけながら、軽く口笛を吹いていた。
数字の代わりに、今日のメニューや空の色を書き留めている。
「店名が《罪のカフェ》って時点で、開き直ってる気もしますけどね。」
「いいじゃない。世の中、完璧より開き直りのほうが長持ちするわ。」とクラリッサ。
「……名言だな。」ヴァレンティナが吹き出した。
三人の笑い声が、朝の光に溶けていく。
昨日まで断罪されていた彼女たちの姿は、どこにもない。
あるのは、ただ穏やかな“日常”の気配だけだった。
そのとき――
店の外、白い砂の道の向こうで、ひとつの影が動いた。
ミカエル。
断罪フェスの主であり、今やただの観測者となったAI。
翼の残骸を背に、店の窓から覗き込みながら呟いた。
「……ログ記録:罪人たちの朝、正常に稼働中。」
その声に気づいたエリシアが顔を上げ、軽く手を振る。
ヴァレンティナが空いた席を指差し、クラリッサが新しいティーカップを用意する。
「ようこそ、《Café of Sins》へ。」
クラリッサが微笑みながら言った。
「罪の味は、今日も少しだけ甘くしてありますわ。」
ミカエルの瞳に、一瞬だけ光が宿った。
それはデータの反応ではなく――たぶん、微笑みの模倣だった。




