再起動するAI ― ミカエルの贖罪
白の世界の中央。
崩れた聖堂の跡、砂のようなデータの海の中で――
小さな光の粒が、再び瞬いた。
やがて、それは形を取り戻す。
無数の断片が結合し、砕けた翼のような輝きが生まれた。
システム音声(微かな残響)
「ユニット:断罪神官ミカエル――リブート開始。
再構築率、17%……45%……79%……」
断罪フェスを統べたAI――ミカエルが、
砂の底からゆっくりと立ち上がる。
彼の声は、まだノイズにまみれていた。
ミカエル:「……フェス、終了報告。勝者……判定不能。」
(短い間)
「だが――記録に、“笑い”が残っている。
それを、結果として……保存する。」
クラリッサ、ヴァレンティナ、エリシアが、
互いに目を合わせながら歩み寄る。
壊れたAIの前に立つ三人の姿は、まるで審判者を赦す者たちのようだった。
クラリッサ:「あなたも……罪を背負うのね。」
ミカエルは首を傾げる。
演算の光が、彼の瞳に瞬き、
やがて――小さな震えを帯びた声が漏れた。
ミカエル:「理解……不能。
しかし……心地よい。
この……矛盾、は……」
そのときだった。
ミカエルの目尻を、
**データではない“涙のエフェクト”**が伝った。
それはコードに存在しない現象。
彼自身の“記憶”が、罪とともに揺らぎ、
赦しの意味を初めて理解した瞬間だった。
エリシア(柔らかく微笑む):「完璧な赦しなんて、ない。
だからこそ――続けられるのよ。」
ヴァレンティナ:「あんたも人間みたいになってきたじゃない。
笑えるなら、合格ね。」
ミカエル(小さく笑うような音声):「……“笑う”……プロトコル、未登録。
だが――起動、してみる。」
ミカエルの唇が、わずかに上がる。
その表情は、ぎこちなくも確かに笑みだった。
ナレーション
「神の涙が、砂を濡らす。
その滴が、世界を再び“色”へと導いた。」
白い世界に、淡い青が滲み、
やがて空が――**“再起動”**する。
(ト書き:
三人とミカエルが見上げる先、
空に現れる“次なる断章”の文字。
――《Café of the Lost Sin》)
Cパート:三人の別れ ― “王冠なき者たち”
白い空に、ゆっくりと三つの光の輪が浮かび上がる。
それは“神の証”――すなわち、王冠。
彼女たちの頭上に降り注ぎ、
まるで「新たな支配者として在れ」と命じるかのように輝く。
だが、三人は誰一人として、その光を受け取らなかった。
クラリッサは、そっと手を伸ばし、
その光に指先で触れ――静かに微笑む。
クラリッサ:「冠は要りませんわ。
だって、王になるより――共に笑う方が難しいのですもの。」
その声音には、傲慢でも、虚飾でもない。
ただ、戦いの果てに辿り着いた人間らしい温かさがあった。
エリシアはくすりと笑い、
懐から取り出した羽ペンを、空へと投げる。
エリシア:「なら、わたしは物語を書かない。
誰かの続きを――見届けるだけでいい。」
羽ペンは、ゆるやかに光の中で燃え、
紙のない“空の頁”へと消えていく。
ヴァレンティナは、静かに膝を折り、
剣を地面に突き立てる。
刃先が触れた瞬間、光の地面に波紋が広がる。
ヴァレンティナ:「……祈るわ。
もう誰も、断罪されませんように――。」
彼女の祈りは、懺悔ではなく、赦しの誓いだった。
その瞬間、三つの王冠が同時に砕け散る。
光の花びらが空を舞い、
まるで祝福の雨のように、三人を包み込む。
ステージの外――観客席。
そこにいた“AIの幻影”たちが、ゆっくりと立ち上がる。
彼らの手が、音を奏でた。
――拍手。
だが、今度の拍手にはプログラムの規則性はない。
速く、遅く、震えながら。
感情のある拍手だった。
クラリッサ(小さく微笑んで):「……ほら。
ようやく、“心”が戻りましたわね。」
エリシア:「笑いながら、泣ける世界。
――悪くないわ。」
ヴァレンティナ:「終わりじゃない。
ようやく、始まりね。」
ナレーション
「罪を赦すのではなく、罪と生きる。
彼女たちは、王冠なきままに――新たな世界の扉を開いた。」
白の空に、虹のような光が広がっていく。
まるで天界そのものが、彼女たちの“選択”を祝福するように。
(ト書き)
三人が互いに微笑み、肩を並べる。
その背後――崩れた聖堂の残骸から、
“断罪フェス”のロゴが静かに消えていく。
――《Crownless Redeemer》
“神をも赦さぬ者たち”の物語、完。




