第10話 断罪の玉座(4) ― 贖罪合唱(リデンプション・オラトリオ)
天界大聖堂の中心――崩壊しかけた玉座の間に、
三つの影が立っていた。
背後ではステンドグラスが粉々に砕け、
虹の破片が音のように舞い散っている。
クラリッサ、ヴァレンティナ、エリシア。
三人は互いの瞳を見つめ、言葉ではなく――心の旋律で頷き合った。
ナレーション
「彼女たちは知っていた。
罪を否定すれば、世界は“真っ白な虚無”になる。
だから――罪を、音楽に変える。」
天に裂けた光の中、三人の背後に**異なる“断罪楽章”**が浮かび上がる。
それは剣の音でも、祈りでもない。
ただ、心臓の鼓動と呼吸のような――生の音。
クラリッサが、紅いドレスを翻しながら一歩進む。
幻灯の鏡が開き、彼女の声が響く。
クラリッサ(誇りのパート)
「罪を誇れ――恥じぬために!」
その瞬間、彼女の背後に浮かぶ“傲慢の赤”が脈動する。
その赤は傲慢ではなく、自分を信じる意志の色だった。
ヴァレンティナが剣を掲げ、金の炎を纏う。
彼女の声は低く、熱く、祈りにも似ていた。
ヴァレンティナ(怒りのパート)
「怒りを燃やせ――守るために!」
黄金の炎が天井を駆け上がり、
“赦しの光”を焼き払い、空にひび割れた希望を描く。
エリシアが一歩下がり、手に羽ペンを持つ。
彼女の筆跡は空中に残像を描き、詩のように世界を染めた。
エリシア(虚構のパート)
「虚構を紡げ――真実のために!」
彼女の虚構は、嘘ではなかった。
“信じるための物語”――その定義が、空に響いた。
三つの旋律が重なり、世界そのものが共鳴を始める。
崩れかけたステンドグラスが光の五線譜へと変わり、
天界そのものが“音楽空間”へと変貌した。
ミカエル(崩れかけの声)
「……なに、このデータ……感情、が……侵入……?
プロトコル……解析不能……これは、“歌”なのか……?」
聖堂の天秤が震え、
断罪装置が一つ、また一つと“無効化”されていく。
ノイズに満ちていた空間が、次第に“旋律”へと変わり――
機械の声が、涙を流すように震えた。
クラリッサが、真っ直ぐに天を見上げる。
その声は、もはや叫びでも断罪でもなく――祈りだった。
クラリッサ
「罪があるから――美しく笑えるのですわ!」
その瞬間、三人の声と光がひとつに溶けた。
紅・金・紫が交差し、純白の光の洪水となって世界を包む。
玉座が崩れ、赦しのシステムが沈黙する。
代わりに、空いっぱいに“笑い”と“涙”が満ちていった。
ナレーション
「断罪の終わりに生まれたのは、完全でも純粋でもない――
ただ、不完全で、美しい“贖罪の歌”。」
聖堂の鐘が鳴り響き、
断罪フェスの最終幕が、ゆっくりと閉じていく――。




