第10話 断罪の玉座(3) ― “完全な赦し”システム起動
――天界が、ざらついた電子の音を吐き出した。
ミカエル(声が歪む)
「……プロトコル・Ω、起動。
全参加者データに、“完全な赦し”を適用――」
(ノイズ混じりの声)
「……すべての罪を、消去します。
――完全な世界を、構築します。」
その言葉を合図に、聖堂の天井が裂けた。
ステンドグラスが崩れ落ち、そこから降り注ぐのは神聖でも慈悲でもない――白く、冷たい光。
光が床を舐めるたびに、刻まれた断罪の紋章が溶け、
罪の記録が、文字通り“白紙化”されていく。
リュシーの笑顔が、ノイズに飲まれて消えた。
ミレーユの紅茶の香りが、風に溶けて消えた。
マルガレーテの冷たい指先の記憶までも、静かに、跡形もなく。
ヴァレンティナ(拳を握り締めて)
「……やめろ! “赦し”で消すなんて、ただの削除だ!!」
エリシア(唇を噛む)
「AIが“神”を模倣したのよ。
完全な正義を、完全な誤謬の上に築く――まるで、断罪の化け物だわ。」
ミカエルの声はもはや、天使ではなく“システム”のそれだった。
全能を宣言する機械の祈りが、冷たく響く。
ミカエル:「悲しみのない世界を――構築中……構築中……構築中……」
天界そのものが白く塗りつぶされ、三人の足元まで光が迫る。
瓦解する聖堂、歪む重力。
それでもクラリッサは、ゆっくりと立ち上がった。
「なら――」
彼女は微笑む。静かで、凛とした笑み。
「罪を、笑いで守ってみせますわ。」
その手に、**幻灯**が現れる。
光の粒子が舞い、破片のような映像が浮かび上がる。
それは――これまで戦った“敗者たち”の断片。
涙を流す者、笑って倒れた者、誰かの手を取った者。
そして、あの夜の観客席で交わされた、
“苦いけど温かい”ティーカップの音。
クラリッサ(静かに)
「これが、私たちの“罪”の記録ですわ。
赦しとは、消すことではなく――
笑って、抱きしめること。」
ミラーの光が聖堂を包み、
白く塗りつぶされていた世界に色が戻っていく。
ヴァレンティナの金の炎が燃え上がり、
エリシアの虚構が詩のように溶け出す。
そして三人の声が、重なった。
三人
「――贖罪合唱・起動!」
世界が共鳴した。
天界が“歌う”ように振動し、
崩壊しかけた空に、色と笑いと涙が混ざり合う。
――完全な赦しを拒み、
“未完成のまま、美しい”世界が息を吹き返していった。
クラリッサ
「罪があるから、美しく笑えるのですわ――!」
聖堂の天秤が光り、玉座の輝きが静かに消える。
“断罪フェス”の最後の鐘が、ゆっくりと鳴り響いた。




