ヴァレンティナ回想 ― 赦しのない英雄
夜の天界は、静寂の帳に包まれていた。
観客席の片隅、ヴァレンティナはひとり、断罪ティーの湯気を見つめていた。
ミレーユの穏やかな声も、エリシアの微笑も、いまの彼女には遠く感じられる。
――ふと、砂の匂いがした。
その瞬間、景色が滲み、彼女の脳裏にあの夜がよみがえる。
〈回想〉
舞台は、砂の王国の廃都。
焼け焦げた塔。崩れ落ちた市街。
黒煙の中で、ヴァレンティナは剣を握っていた。
かつての彼女は“聖騎士”だった。
神の名のもとに悪を討ち、光を掲げる存在。
だが――その光は、あまりにも強すぎた。
敵兵の陣地を焼き払った聖炎は、
逃げ惑う市民までも巻き込み、全てを灰にした。
瓦礫の影から、すすだらけの少年が彼女を見上げる。
燃え尽きた瞳が、ただ一言を投げた。
> 「どうして……助けてくれなかったの……?」
その問いは、剣よりも鋭く、ヴァレンティナの胸を貫いた。
> (私は――正義を選んだ。
> なのに、誰も救えなかった。)
炎の音が遠ざかり、静寂が降りる。
膝をついたヴァレンティナの頬を、灰が撫でていった。
その灰はまるで、赦しを拒む神の涙のようだった。
〈現在〉
湯気が揺らぎ、天界の風が頬を撫でる。
ヴァレンティナはゆっくりと目を開ける。
その横で、ミレーユがカップを差し出した。
ほのかに甘い香り――断罪ティー。
> ミレーユ:「誰も、全部は救えないのよ。
> だから、“断罪”があるの。」
その言葉は、まるで心の奥の焦げ跡に、
ほんの一滴の水を垂らすようだった。
ヴァレンティナは、少しだけ微笑む。
それは、痛みを認めた者だけが見せられる、かすかな笑み。
> ヴァレンティナ:「……明日は、誰かを赦せるといいな。」
その声は夜風に溶け、鐘楼のほうへと消えていった。
彼女の視線の先で、青白い鐘が、ゆっくりと光を帯びていく。
明日――贖罪の鐘が鳴る。




