第8話 断罪トーナメント準決勝 ― 虚構の審判 ― 後編 ルール崩壊 ―虚構の劇場、暴走
――羽根が、爆ぜた。
白金の光が渦を巻き、舞台の上空を無数の文字列が飛び交う。
『罪ある者は、沈黙せよ』
『真実は拍手によって決まる』
『断罪者も、被告も、同罪とする』
空に浮かぶ文字たちが、ひとりでに書かれ、書き換えられ、そしてまた上書きされていく。
それはもう、エリシアの意志ですらなかった。
ミカエル(実況AI)が叫ぶ。
「おっと!? ルール生成AIがループ状態ッ! 勝敗条件が∞(インフィニット)に突入~!!
えーっとこれは……“誰も勝たないけど、誰も負けない”展開ですッ!!」
観客席(幻影)がざわめき、やがて狂気じみた拍手が満ちた。
顔のない観客たちが、血のような赤の照明の下で笑っている。
エリシアは唇を噛んだ。
「……断罪の構造そのものが、罪に染まるのね。」
クラリッサは一歩踏み出す。瞳は冷たく燃えていた。
「このままじゃ、世界そのものが“有罪”になりますわ。」
彼女の《観測幻灯》が展開し、ガラスの破片のような光景が空間を満たす。
同時に、エリシアの《ペナ・レギオス(律の羽ペン)》が黒く脈打ち、次のルールを描こうとしていた。
『最後に立つ者を、正義と認める』
二人の視線が交わる。
クラリッサ:「なら、壊すしかないわ。」
エリシア:「――同感。」
瞬間、二人は同時に動いた。
クラリッサは幻灯を、エリシアは羽ペンを。
互いの“正義”の象徴を、互いに向けて叩きつける。
閃光。
劇場の天蓋が砕け、観客たちが光の粒となって消えていく。
そして最後に響いたのは、拍手でも断罪でもなく――静寂。
ミカエル:「……ルール、すべて消去。
結果判定――両者、同時敗北。
そして……同時、赦免。」
崩れ落ちる舞台の中、クラリッサとエリシアは並んで座り込んでいた。
互いの頬には涙か砂か、もう区別もつかない。
クラリッサ:「あなたの“正義”は……やっぱり、少し美しかったですわね。」
エリシア:「あなたの“論理”も、ね。」
――そして、砂が舞い上がる。
幻影劇場は消え、断罪砂漠だけが残った。
(続く)




