ルール書き換えの羽ペン
舞台が鳴動した。
エリシアが掲げる羽ペンが、金色の光を帯びて空中に浮かぶ。
ペン先から放たれる軌跡は、まるで聖句のように輝き、幻影劇場の空間そのものに“命令”を刻み込んでいった。
「――発動、《ペナ・レギオス(律の羽ペン)》。」
その瞬間、観客のざわめきが変わる。
空気が、書き換えられた。
エリシアが一筆、舞うように書き下ろす。
『このターン、クラリッサの攻撃は無効。』
次の瞬間、クラリッサが放った斬撃が、空中で砂のように消えた。
クラリッサ:「……なっ――」
エリシア:「ルール違反よ。いまの舞台、あなたの攻撃は“存在しない”設定だから。」
エリシアは楽しげに微笑み、次の文を描く。
『観客の拍手が多い方が与ダメージ上昇。』
とたんに、観客席の幻影たちがどよめき、拍手を送り始める。
歓声がエリシアの周囲に渦を巻き、彼女の身体を金色の光が包み込んだ。
エリシア:「ふふ、信仰の音が私の力。観客が望む“物語”に従うのよ。」
クラリッサ:「……あなたの“正義”は、言葉を弄ぶ詐術ですわね。」
クラリッサは剣を握り直し、慎重に間合いを測る。
だが、エリシアのペンはさらに奔放に踊る。
『“嘘”をついた者に罰光を与える。』
直後、クラリッサの足元に白光が走り、身体を一瞬、貫いた。
――痛みではない。“真実”を問われる光だ。
エリシア:「あなたは、“孤独が誇り”だと言った。
でもそれは本当? 本当は――誰かに認めてほしいだけじゃない?」
クラリッサは息を呑む。
エリシアの筆先が、まるで心の奥底まで暴くように滑っていく。
クラリッサ:「……たとえそうでも、私は私の正義を貫く。
あなたの脚本に従うつもりはありません。」
エリシア:「あら、いいセリフ。観客が泣くかもね。
でも――“物語の主役”は、私よ。」
ペンが走り、舞台が再構成される。
光の羽根が舞い降り、舞台の床が書き換えられていく。
――ルールそのものを武器にする知略の断罪者。
それが、エリシア。
クラリッサは低く息を吐き、剣を構える。
砂のような光が剣先に集い、静かに言い放った。
「詐術でも、“演出”でも構いません。
最後に立つのが真実――それを証明してみせますわ。」
舞台の照明が二人を切り裂くように交差した。
観客が息を呑む。
――ルールが書き換わるたび、真実もまた変わっていく。
それが、“虚構の審判”だった。




