群衆アルゴリズム戦 ― 憎悪の渦
光の粒だったはずの“群衆”が、形を帯び始める。
ぼやけた顔、しかし口だけははっきりと動く。次々と再生される罵声。
断罪の日、彼女に向けられた“声”がそのまま肉体を得て、押し寄せてくる。
幻影の群衆:「裏切り者!」
「正義のふりした独裁者!」
「偽善者の拳で世界を救えると思うな!」
その一言一言が、空気を震わせるたびに、CHEERゲージが跳ね上がる。
怒り、嘲笑、侮辱――すべてが“歓声”としてカウントされる、狂った戦場。
ヴァレンティナの拳套の文様が、血潮のように赤く輝く。
ヴァレンティナ(歯を食いしばり):「……黙れ。」
拳が閃いた。
一撃で十人分の幻影が霧散する。地面が裂け、鏡のような床面がめくれ上がる。
破壊の衝撃が鐘楼を揺らし、ゴォォォン――と重い鐘が鳴った。
それは、まるで群衆の嘲笑が音になったかのように響く。
AI実況:「CHEERゲージ100%突破ッ! これはヤバいッ!
――怒りが、暴走を始めた!!」
赤い光が渦を巻く。彼女の足元から立ちのぼる炎のような怒気。
ヴァレンティナの視界が赤く染まり、時間の感覚が薄れていく。
拳套の魔紋が皮膚にまで侵食し、鼓動とともに“ドクン、ドクン”と脈打つ。
脳裏に蘇る――あの日の広場。
誰かが石を投げ、誰かが笑い、誰も、彼女の「守りたい」という言葉を信じなかった。
ヴァレンティナ:「どうして……どうして、誰も“守りたい”って言葉を信じてくれなかったの……!」
声が震える。拳が唸る。
その一撃は、もはや敵を倒すためではなく、叫びを叩きつけるような祈りだった。
拳套が鐘楼を撃ち抜く――。
ドォンッ!
鐘が粉々に砕け、轟音が闘技場全体を飲み込む。
空間のバリアが軋み、赤い波動が暴走しかける。
壁のホログラムが乱れ、観客の幻影が一斉に悲鳴を上げる。
AI実況:「オーバーフロー警告ッ! CHEER反応、臨界突破――ッ!!」
ヴァレンティナは膝をつき、頭を抱える。
拳套の内部から漏れる熱。呼吸のたびに胸の奥で何かが軋む。
だが、次の瞬間――彼女の瞳の奥に、かすかな青が差した。
怒りの奥に、まだ“何か”が残っている。
それを見つけ出せるかどうか――それが、この戦いの本当の意味だった。




