オープニング・ナレーション
ナレーション(軽妙な男性ボイス):
「罪──それは、貴族令嬢たちのステータス。」
「傲慢、嫉妬、色欲、憤怒、虚飾、そして知識の暴走。」
「貴族社会の花園には、いつも“罪”という名の香水が満ちている。」
カメラは雲の上から地上を見下ろす。
各国の王城、舞踏会、処刑場──煌びやかな“断罪劇場”が一斉に幕を開ける。
「そして今宵もまた、新たな断罪の鐘が鳴る!」
ゴォォン──と鳴り響く鐘。
その音に合わせ、六つの国で同時に断罪の瞬間が描かれていく。
――王太子の婚約破棄宣言。
――処刑場でワインを傾ける女。
――民衆に石を受けてなお、笑う騎士令嬢。
――鏡の前で涙を整える美女。
――舞台照明を操る女優令嬢。
――論文を炎で焼き尽くす研究者。
光の帯が大地を走り、六つの舞台を一直線に繋ぐ。
まるで天界から“配信中”のように、魔法陣が次々と点灯していく。
「断罪、それはショータイム。」
「泣いて、笑って、罪を魅せて──」
天界のスクリーンに映る、六人の悪役令嬢のシルエット。
「今、再び。
断罪再演グランフェス、開幕──!」
タイトルロゴ:
《断罪グランフェス 〜悪役令嬢リプレイ・バトル〜》
音楽が高鳴り、天界スタジオの眩い光へ――
OPテーマが流れ出す。
クラリッサ・ロート(傲慢)
シーンタイトル:「婚約破棄セレモニー ―華麗なる幕引き―」
豪奢なシャンデリアが照らす舞踏会ホール。
金と紅の絨毯の上、王太子が声を張り上げた。
「クラリッサ・ロート嬢──貴様との婚約を破棄する!」
場内がどっと湧く。
拍手とため息、そして少しのざまあみろの笑い声。
「やはり悪女ね……」
「ついに落ちましたわ!」
「これぞ正義の婚約破棄!」
それらの言葉を浴びながら、
クラリッサはゆるやかにドレスの裾を摘み、優雅に一礼した。
「皆さま──ご静聴ありがとうございました!」
完璧な笑顔と、舞台女優のような声の張り。
ホールが一瞬、静まり返る。
そして彼女は、涼しい顔で続けた。
「次の婚約破棄も、全力で頑張りますわ!」
一拍の沈黙。
……からの、どよめき。
「な、何を言ってるの!?」
「次ってなに!?」
「反省してない……!」
クラリッサは軽く肩をすくめる。
「涙で化粧を崩すなんて、そちらの方が罪ですわ。」
その口調は、あくまで上品に、そして傲慢に。
脇に控える執事が小声で囁く。
「お嬢さま、普通は……泣く場面です。」
「泣くのは“敗者”の役目ですもの。」
彼女は微笑んだ。
「わたくしは、舞台の“主役”ですわ。」
BGMはワルツ調から、堂々たるファンファーレへと転調。
まるで断罪そのものを祝福するように。
拍手が再び鳴り響く中、クラリッサの足元に――
淡く輝く金色の魔法陣が現れた。
「……まあ、演出が凝っていますのね。」
そう呟いた瞬間、床が光に飲み込まれる。
ドレスの裾がふわりと舞い上がり、
彼女はそのまま“次の舞台”へと消えた。
「幕は落ちた。けれど、物語は終わらない。」
ミレーユ・ラファール(色欲)
シーンタイトル:「処刑台の乾杯」
夕陽が血のように赤い。
風に葡萄の香りが混じる──
ここは王都の処刑場。
見渡す限りの民衆、緊張に包まれた断罪人たち。
その中央で、両手を縛られながらも、
一人だけ場違いなほど優雅な笑みを浮かべる女がいた。
ミレーユ・ラファール。
侯爵家の令嬢にして、恋と策略を嗜む“微笑の毒婦”。
断罪人:「ミレーユ・ラファール、あなたを国家反逆罪および──」
ミレーユ:「まあまあ、そんな仰々しい言葉より……一杯どうかしら?」
そう言って、彼女はワインのグラスを掲げた。
縛られた手の隙間から、赤紫の液体が月光を反射する。
断罪人:「な、なぜ毒入りの杯を……!?」
ミレーユ:「だって、“毒”って、少しロマンチックでしょう?」
彼女は笑う。
その微笑は、恐怖をも蕩けさせるほどに。
「まぁ、それも人生♡ 甘くて、苦くて、酔わせるものですわ。」
処刑人たちは見惚れ、民衆は息を呑んだ。
ざわめきの中から、男の声が漏れる。
「好き……」
「罪でもいい、微笑まれたい……」
断罪人:「なぜこの人が断罪されるのか理解できぬ……!」
ミレーユは肩をすくめて、グラスを唇にあてる。
「理解なんていりませんの。愛も罪も、理屈では味わえませんわ。」
風が吹く。
葡萄の香りが甘く舞い、空気がほんのり薔薇色に染まる。
彼女がグラスを傾けた瞬間――
地面に、淡い紫の魔法陣が浮かび上がった。
「……まあ、素敵な余韻。
死後も、香りぐらいは残して差し上げますわ。」
微笑とともに、彼女の姿は光の粒に溶けていった。
まるで一杯のワインの泡が消えるように。
――罪の味、それは人生の味。
ヴァレンティナ・コルネリア(憤怒)
シーンタイトル:「怒りの聖女、石礫を受けて立つ」
革命の煙がまだ消えぬ広場。
空は鈍色、雨を孕んだ雷雲が渦を巻く。
広場の中央、かつて「聖女」と呼ばれた女が立っていた。
ヴァレンティナ・コルネリア。
かつて貴族の不正を糾し、民に光を与えたはずの存在。
だが今、その光は“偽善”として断罪されている。
「偽善者!」
「民を利用した裏切り者め!」
「聖女を名乗るな!」
石が飛ぶ。
泥が跳ねる。
一つ、また一つ。彼女の白衣を汚していく。
ヴァレンティナは顔を上げた。
その瞳は、怒りではなく決意の炎を宿している。
――ごつん。
額に石が当たり、血がにじむ。
それでも、彼女は一歩も退かず、静かに呟いた。
「……痛いが、正しい。」
ざわめきが止む。
民衆の手が、次の石を握れずに震える。
「けれど──次は、守る側として返す。」
その声には、怒りではなく祈りの響きがあった。
背後で、古びた鐘が鳴る。
ゴォォン──。
続いて、空が裂ける。雷鳴が轟き、光が広場を貫いた。
一人の少年が恐怖に駆られ、手から石を落とした。
ころん、と転がる小石。
ヴァレンティナはそれを拾い上げ、血に染まった指で優しく包み込む。
「これは……あなたの“希望”ですわ。」
そう言って、少年の手にそのまま握らせた。
彼女の微笑には、聖女としての慈悲と、戦士としての誇りが混じっていた。
次の瞬間、空がまばゆく光る。
雷が地を穿ち、彼女の足元に青白い魔法陣が展開する。
風が、祈りのように吹き抜ける。
民衆はいつしか、沈黙のまま手を合わせていた。
「怒りは、憎しみの炎ではなく──守るための剣。」
そう呟き、ヴァレンティナは雷光に包まれ、
その身を天へと昇華させた。
彼女の残した血の跡だけが、
雨に溶けて静かに消えていった。
リュシー・エクラタン(嫉妬)
シーンタイトル:「涙は、光の角度で映えるもの」
春の風が吹く学園の中庭。
純白のドレスに身を包んだ親友が、笑顔で婚約を発表していた。
祝福の声、花びらの雨。
その中心に立つ少女──リュシー・エクラタンは、
静かに拍手を送っていた。
だが、その指先は微かに震えている。
目元の笑みは、どこか“完璧すぎた”。
「……綺麗ね。あなた、本当にお似合いだわ。」
そう言いながら、リュシーはゆっくりと自分の頬に触れた。
次の瞬間、ひとしずくの涙がこぼれ落ちる。
彼女は、涙の軌跡を指でなぞりながら呟いた。
「……ああ、この涙、右頬から流すと映えるわね。」
友人が振り返る。
その声には、戸惑いが混じっていた。
「リュシー……あなた、何してるの?」
リュシーは微笑んだ。
それは、涙と微笑みの境界で揺れる表情。
「女の嫉妬も──美しく見せなきゃ損でしょう?」
その瞬間、風が舞う。
花壇に咲いていた薔薇が一斉に色を失い、
代わりに現れたのは“鏡の花”。
花弁は水晶のように光を反射し、
彼女の涙を幾重にも映し出す。
中庭が光の海に変わる。
祝福のざわめきが静まり、ただ“美”だけが支配する。
リュシーは、鏡の花の中で独白するように呟いた。
「嫉妬は、心を焼く炎じゃない。
……光の角度で輝く“影”なの。」
鏡の花弁が風に乗って舞い上がる。
光が集まり、彼女の足元に円を描く。
白銀の魔法陣が展開。
それは水鏡のようにゆらめき、彼女の姿を映し出していた。
リュシーは最後にもう一滴、涙を落とす。
それが魔法陣に触れた瞬間──
世界が、きらめく音とともに弾けた。
「醜い感情? いいえ。
それもまた、わたしを美しくする素材ですわ。」
光が収束し、彼女の姿が消える。
残されたのは、きらりと光る涙の粒だけ。
それは、白銀の花の中心で永遠に輝き続けた。
マルガレーテ・ジルベール(虚飾)
シーンタイトル:「断罪ショーは私が仕切る!」
まばゆい光が降り注ぐ、王都中央の公開裁判場。
ざわめく観衆、厳めしい裁判官、報道魔導具がひしめく中、
マルガレーテ・ジルベールは、真紅のドレスで立っていた。
司会進行役が読み上げる。
「被告、マルガレーテ・ジルベール。あなたは虚偽報道と扇動の罪により──」
その瞬間、彼女が指を鳴らした。
「──カット! ちょっと待って。演出が甘いですわ!」
司会:「えっ?」
マルガレーテは椅子をくるりと回し、観客の方へ向き直る。
目元のアイラインが閃き、唇には完璧な笑み。
「これじゃあ“断罪劇”じゃなくて“読経”ですわ。
少し、華を足しましょう? 音響、お願い!」
手をかざすと、空気が震えた。
どこからともなく、ドラマティックなBGMが流れ出す。
観客:「えっ、音楽鳴った!? 誰が流してるの!?」
マルガレーテ:「もちろん、わたくしの《虚飾魔法》。
演出もプロデュースも、全部セルフメイドですの。」
照明が切り替わる。
裁判場のステンドグラスが一斉に輝き、
彼女を中心に光のスポットが集まる。
「さて、本日の見どころ──断罪の涙シーン!
裁判官さま、もう少し“神妙そうな顔”をお願いします♡」
裁判官:「……(無意識に頷く)」
「では、照明──お願い!」
光が一斉に照射され、金粉のような粒子が降り注ぐ。
彼女のティアラが反射し、虹色の光を撒き散らす。
観客の魔導端末(天界視聴端末)が一斉に反応し、
コメントが流れ出す。
『#断罪ショーすごい』『演出神』『光の貴婦人マルガレーテ』
マルガレーテはゆっくりと観客に手を振る。
「皆さま、本日はご来場ありがとうございました。
……そして、次の“裁判”もぜひご期待くださいませ。」
眩い光が爆発するように広がり、
床に描かれた模様が金色に光り出す。
金粉が渦を巻き、魔法陣が展開。
彼女の足元から、ステージライトのような円環が浮かび上がる。
観客:「な、なにこれ……!? 演出、じゃない……!?」
マルガレーテはくるりと一回転し、ポーズを決める。
その姿はまるで、断罪の舞台を最後まで演じ切る女王。
「虚飾? ふふ……。
真実なんて、照明一つで変わるものですわ。」
光のカーテンが降りる。
彼女の姿が消える直前──
ティアラの輝きが、まるでスポットライトのように最後まで残った。
“断罪ショー”は、彼女の勝利で幕を閉じた。
エリシア・ブランシュ(知識暴走)
シーンタイトル:「学園炎上 ― 論文は火を呼ぶ」
魔導学園・中央講堂。
崩れ落ちる天井、逃げ惑う教授たち。
壁一面には、紅い炎文字が浮かび上がっていた。
《旧理論は滅ぶ》
燃え盛る書架の中、
ひとりの少女が静かに立っていた。
白衣の裾を焦がしながら、眼鏡を押し上げる。
「……観測結果が理論を裏切るとき、真理は悲鳴を上げる。
ならば――焼き尽くして、再構築すべきですわ。」
教授の一人が絶叫した。
「エリシア・ブランシュ! き、君は狂っている!」
彼女は微かに笑った。
その笑みは冷徹で、美しかった。
「狂気? 違いますわ。これは合理。
“燃焼”は最も純粋なデータ整理法ですもの。」
炎が走る。
書棚が爆ぜ、魔導書が宙に舞い上がる。
彼女の周囲をぐるぐると旋回し、ページが剥がれて散る。
パラパラとめくれる紙面の中、
一枚の論文が、光を帯びて宙に浮かぶ。
『魔力構造論 ― 不燃性仮説の崩壊について』
教授たちは呆然とそのタイトルを見上げた。
「……あの論文を……自ら燃やすのか……!」
エリシアは、淡々と羽ペンを掲げる。
炎に照らされたその横顔は、まるで祈りのようで。
「“知識”が世界を救うなどという幻想は、もう結構。
次は、“無知”から出発するのです。」
羽ペンが紅に染まり、文字の代わりに火花を散らす。
床に描かれた魔法陣がじりじりと輝きを増し、
彼女の足元に赤黒い輪が広がっていく。
燃焼と再生の陣式。禁忌の論理回路。
エリシアの瞳が紅く反射する。
「データの消失こそ、浄化ですわ。」
その瞬間、講堂全体が閃光に包まれた。
炎が天井を突き破り、夜空へと奔る。
崩れ落ちる天井の向こうに、
彼女の姿は溶けるように消えていった。
残されたのは、灰と、燃え残った一節だけ。
“再構築のための破壊は、罪に値するか?”
──答えを求めるように、赤黒い魔法陣だけが静かに輝いていた。




