小話 1
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別に、私の家庭環境というのは、悪い方じゃなかったと思う。大きい会社に入っていた父のおかげで経済的にもあまり困っていなかったし、波風を立てなければ母は優しかったし、良い服を着せてもらえたし、普段からいいものを食べさせてもらっていたし、旅行だって国内外も問わず連れて行ってもらっていた。
ただ、窮屈ではあった。
門限は厳しいし、連絡系SNSだって友達は多い時間使えるのに私は一日五分だった。スマホを持っている子であれば必ずと言っていいほどインストールされているSNSだって見ることができない。
母に逆らうと怒鳴られるし、殴られるし、ご飯だって抜きだった。その括りの話をすると、これは父からの話だが、一番ひどかったのは首を絞められたことだろうか。母からであれば家の階段から突き落とされた。
ヒステリックに私を責め立てて、否定して、自分たちを正当化した。
友達関係に関しても母が意見してくるし、関わる人たちも常に警戒されている。
お小遣いも母の気に障ることをしたら没収になるし(友人たちは怒られてもお小遣いは没収されないと全員言っていた)。
唯一の没頭できる趣味であった読書も、本を買うことを許されていなかったし、友達に借りることは以ての外、図書館で借りることも禁止だった。
テストは八割以上を取らなければ叱られる。
忘れものをしたら学校の消灯時間を過ぎていても取りに行かなければいけない……と、挙げ出したらキリがない。
毎日毎日、辛かった。生きたくなんてなかった。死にたくて仕方がなかった。生き続けることに絶望を覚えていた。リストカットだって、した。死ねなかった。家のベランダから、飛び降りられなかった。勇気がなかった。睡眠薬をたくさん飲む、勇気がなかった。死ねなかった、死ねなかった。勇気がなかった。首を、吊れなかった。やっぱり勇気がなかった。死ねなかった。
死ねなかった。生きることにほんの少しの、希望を持ってしまって いた。しんどいのに。辛いのに、苦しくて仕方がないのに。
……そうやって、無駄に生きて、気がついたら時間ばかりが経っていた。
私は高校生だった。