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番外編1 ドキドキ!?屍霊の集うショッピングモールから脱出せよ!

番外編(本編よりも過去の時間軸)です。

今までと毛色が少しだけ違うので暖かい目で読んでください。

今回で発出の子もいます。


視点《惟芽胤》

十月某日、指定されたショッピングモールへと向かう。


「……まだ運営しているんですね。」


客と思われる人々が出入りする様を見てそう言葉に出た。


「そうだねぇ。だから優先順位が高かったのかな?被害が出てしまうと危ないからね。」


今回の任務でも同行するのは賽代さんだ。彼女はやけに楽しそうに続ける。


「さてさて、早速入ってみようじゃないか!事前調査もしないとね!」


「なんでそんなテンション……?」


「さぁ、知らねぇ。」


尽に聞いてみるけど、尽すらも分からないらしい。

すると賽代さんが僕らを振り返って言った。


「私が!こういう所入るのが初めてだから!!楽しみ!!!」


「……そうですか。」


がっつり私情だった。


ある程度、記録媒体や通信機器などの準備を整えてからショッピングモールに入る。

入り口に構えるのは高い天井に下がる大きな照明、幾つも並ぶ各々の店舗、行き交う人々。


「……すっご〜!これ、全部お店なの!?」


「そうらしいですよ。」


「なんでお前、そんな返答ふわふわしてんだよ。」


いまいちはっきりとしない僕の言葉に疑問を持ったのか尽が聞いてきた。


「僕も来たこと無いから。そもそも、14まで外に出たことも無い。尽は?」


「あー、ちっせえ頃に爺ちゃん婆ちゃんと一回だけな。」


なら、ほぼ一緒じゃないか。


「全員ショッピングモール初心者か……。」


「おい待て一緒にすんな。」


「ちょっとー、君たち!早くしないと置いてくよ!!?」


こうして、初心者だらけのショッピングモール攻略が始まった。


「……フードコートって何?ご飯食べれちゃうの!?その場で?」


「衛生面って大丈夫なんですかね……?人行き交うし……。」


「さぁ、知らん。」


結局怖くて入らなかった初めてのフードコートとファストフード店。


「ゲームコーナー……!?お金入れて遊ぶの?」


「『くれーんげーむ』ってやつやりましょう……!物を掴んで運ぶらしいです!」


「あれ結構むずいぞ?……ってオイ!」


尽の言葉を無視して賽代さんは『くれーんげーむ』にお金を入れる。


「……一発でとれましたが何か???」


「おー、そうかそうか……殺す」


終始賽代さんの無双状態だった初めてのゲームコーナー。


「……つーぎっは何処行っこうかなー?」


「離れないで下さいねー。」


軽やかに歩いていく賽代さんに注意をしながら並ぶ店を観察していく。


『―本日は夢路モール・神無月店にお越し頂きありがとうございます。』


突然アナウンスが流れた。一気に周囲が静かになった。……ここ、神無月なんて地名だったかな。


『迷子のお知らせをします。燐よりお越しの賽代様、惟芽様、尽様。夕凪鈴鹿ちゃんが待っています。至急迷子センターまでお越し下さい。』


「……は?」


名前が呼ばれた。しっかり、燐のことまで。


「ショッピングモールってお客さんのそんなことまで分かるんだぁ……!すごいなぁ……!?」


「いつ情報を抜き取られたんでしょう?いや、それとも元々全ての人間のデータを記録して……?」


「いや絶対に通報にあった霊障だろ!?」


なんだ元々の仕様じゃないのか。


「……残念だなぁ。」


「流石にそこまで高性能じゃなかったかぁ。」


「お前らショッピングモールをなんだと思ってんだ……。」


そうやって雑談をしていると、またアナウンスが流れる。


『また、本日は黄泉の国よりお越しのお客様がございます。捕まらぬよう、ご注意下さい。』


「よみのくにぃ〜?何、マジで出るわけ?こんな昼間から?」


「室内なら関係無いですもんね。」


アナウンスに釣られるように何かが僕らに近づいてくる音がする。乾いた、軽い音。


「霊というよりは屍だね。全部蹴散らしちゃおっか。」


「急に人も居なくなりましたし……多分異空間に転移させる類でしょう。なら何を壊しても問題ないか。」


「うへぇ〜、アレなんかキモくね?ミイラみてぇ。」


尽に合図をして霊装をする。こうしてショッピングモールでの何でもアリの鬼ごっこが始まった。



「さてさて先ずは逃げに徹するかぁ!惟芽君、ちょっとこっち来て。」


「はい。」


そう言って僕の肩を引き寄せる。


「じっとしててね〜!上手くバフかかんないから!」


賽代さんは持っていたであろう。サイコロを二つ取り出す。そしてダイスカップに放り込み振った。結果は三と五。


「……あー、ちょっとイマイチだなぁ。取り敢えず三はわたし、惟芽君は五にしとくね。」


「ありがとうございます。」


体力強化のバフがかかる。賽代さんの能力は人数分の賽を振れるのがありがたい。


「どーいたしまして。じゃ、そろそろ屍霊も集まってきたし。逃げようか。」


「はい。目の前に来たものから片付けていくのでご心配なく。」


僕は本からナイフを取り出した。


「一先ず、アナウンス通りに迷子センターを目指しましょう。」


「あー、何だっけ?夕凪……鈴鹿ちゃん?だっけ……?」


「そうです。多分その子が原因だ。」


前に来た屍を斬って進んでいく。後ろは賽代さんが銃で撃ってくれているらしい。このまま進んでしまおう。


「……惟芽君。一つ謝罪がある。」


途端、賽代さんが真面目な声色でこう言った。


「?……何ですか?」


思わず気になって聞き返す。


「……弾、あと2発しかない……☆」


「……え?」


鬼ごっこ開始十五分にして……危機。


「何をしてるんですか……!?」


「今日に限って補充してなくてぇ〜……ごめぇん!」


「はぁ……とりあえず逃げますよ!」


二人でどうにかしながらモール内を散策していく。ふと、賽代さんが一つの店で立ち止まった。


「……何してるの?……花奈。」


「ぅえ!?すごろん!なんでいるのー!?……あ!花奈はねー!今リュウと白ちゃんとおかいものしてるー!!」


賽代さんの目の先には知り合いがいた。


「ねぇ!聞いて!!お洋服選んでるんだけどね?リュウと白ちゃんにどっちがいいか聞いても答えてくれないのー!!」


「いやぁ……だから、どっちも買ったらええって言うとるやろ……。」


「どっちも貴方に似合うと思う……。」


「そういうことじゃないの!!」


朝木花奈。薊所属の部隊長。言動は少々頭が足りないが戦闘面においては優秀。

金扇龍介。朝木花奈の契約霊。金扇紗子の実の弟。十八歳の頃燐での任務中で死亡。

白井さん。霞隊の所属。本名は分からないので白井さん。本当に白い。凄く白い。


……なんでここに?


「ねぇ花奈、わたしにもその迷ってる服見せて?」


「賽代さん?」


そんなことしている場合じゃないんですが?


「んーとね……この白のブラウスか、こっちのワンピかで悩んでるの!」


「うーん……これは迷うなぁ。どっちも可愛い。」


「だよね!?」


賽代さんが真剣に選び始めた。何してるんだこのひと……。


「でも、花奈。どっちのほうも花奈に似合うし可愛いんだけど……こっちの服を着てくれたら、わたしもっと花奈のこと好きになる。」


ブラウスの方を手に取り、至って真面目な顔で賽代さんはそう言った。


「んもー!!すごろんは口が上手いなぁ!じゃあ花奈こっち買っちゃおー!!」


そう言って朝木さんはワンピースの方を手に取る。


「ちょっと〜、花奈ちゃん?そっちわたしが選んだのと逆の方だよ〜?」


「え〜、だって花奈こっちの方が欲しかったし……。」


「乙女心って難しいなぁ!?」


『お前らさっきから何してんだよ……。』


さっきまでずっと黙ってた尽まで呆れて突っ込んでじゃないか!僕以外に聞こえないのに!


「……あの、朝木さんは今の状況って分かりますか?」


「……?何が?」


ああ、これは分かってないパターンだ。

取り敢えず状況を説明する。


「……んーと、えーとぉ〜?よく分かんないけど……すごろんとツヅくんたちは任務でここに来てて、なんか色々あってここは異空間ってことぉ〜?」


「ああ、はい。そうです。」


絶対分かってないだろうけどいいか……。

そう思っていると龍介が朝木さんに代わりに説明している。


「あんなぁ、花奈。つまりな……ワーってなって、ギーンと来て、ドーンってことなんよ。」


「なるほど!!そうゆうことね!分かった!!」


何 故 そ の 説 明 で 分 か っ た ?

驚きの目を向けていると龍介が僕に耳打ちする。


「……花奈と話すときのコツは50くらい自分のIQ下げることや。そうすると大体のことは伝わるで。」


「嫌すぎる豆知識……!」


屍霊が追いつくまで……あと五分。


「あの……!」


「どしたの?白ちゃん!」


「本部に連絡ってもうしたんですか?」


連絡?本部に……?


「「…………!!」」


「その様子だと二人とも忘れてましたね……?」


そういえば忘れてた……!


「連絡しなきゃ……。あ、」


「どうしたの?」


「充電が……ない……!」


充電は残り5%だ……!


「み、短くパパッとだけで終わらせよう!?」


「わ、分かりました……!」


燐の本部に通信を繋げる。早く、早く出てくれ……!


『惟芽君!やっと連絡が取れた……!それで……』


「もしもし振矢ぁ!?聞こえる!?」


『姉さん!?今どういう状況……』


「今ショッピングモールで屍鬼ごっこしてるから!!よろしく!」


『え?なにそr……』


「「あ。」」


振矢さんの声を最後まで聞くより前にバッテリーが切れてしまった。


「まぁ、連絡はしたし……?セーフだよね!」


「……セーフかなぁ?」


……かなぁ。


「取り敢えず、僕らは幾つかに分かれて迷子センターが何処か探しましょう。僕と朝木さんはそれぞれ霊装状態で単独。白井さんと賽代さんはペアで分かれましょう。」


「オッケー!」


「りょ〜かいだぜ!」


「分かりました。」


僕は二階の東エリア、賽代さん、白井さんペアは同じく二階の西エリア、そして朝木さんは一階を担当して散策を始めた。


視点《賽代すごろ》

「わたしは任務で来てたからある程度大丈夫だけど……白井ちゃんは今日完全OFFの日だよね?大丈夫?」


西エリアを散策していると、ふと気になって隣にいる白井ちゃんに話しかけた。


「いえ……私自身が所属柄心配症なので対幽霊用の霊具は常にあるんです。」


やばい。有能すぎるなこの子。

そうしていると屍霊がいつの間にか集まってくる。


「……うわっ!?」


咄嗟に避けた時に服の一部が屍霊に触れた。その場所が老朽化してボロボロと崩れていく。


「白井ちゃん、コイツらには直接触れない方がいいかも。……朽ちる。」


「……っ!了解しました。」


白井ちゃんを抱き寄せて賽を振る。今回は白井ちゃんの分だけ。結果は……五。


「最大値出せなくてごめん!一先ず、逃げようか!」


「はい!」


ある程度屍霊が居ない場所まで走っていく。


「ここまでなら五分くらいは大丈夫かな……?」


少し肩の力を抜いていると白井ちゃんが真剣な顔をして話し出す。


「賽代さん。少し考えがあるんです。」


「……なぁに?聞かせてよ。」


視点《惟芽胤》

朝木さん達と別れて二階東エリアの探索を始める。


「……尽。何体いる?」


『……南に三、西に六、北東に五。』


多いな……あ、そういえば。


「尽。ここって異空間なんだよね。」


『……?ああ、そうだけど……。』


なら何をしても良いか。本からライターを取り出す。


『……おい。何するつもりだ?』


「燃やす。」


『はぁ?』


「だから、燃やす。」


一通り見た感じ東エリアには迷子センターがないようだし。燃やしても問題はない。


「尽、知っている?霊退治には昔から火なんだよ。」


東エリア全焼まで……後三分。


視点《朝木花奈》

すごろんとツヅくんは二階に行った。

つまり花奈とリュウでこの一階を守っちゃうのです!


「……リュウ!」


「はいはい、分かっとるよ。」


リュウと向かい合って……ハイターッチ!

これが花奈達の霊装の合図なのです!


「……あー!あー!リュウ大丈夫そ?」


『おっけー。大丈夫やで。花奈はええか?』


「バッチしなのだ!」


そうしているうちに屍霊が集まってくる。


「……よーし!薊部隊長のチカラ見せちゃおうか!」


『無理はせぇへんように気ぃつけや。』


持っている手鏡を構えて戦闘開始だぜ!!


視点《惟芽胤》

順番に屍霊のいる場所を放火していく。


「……いち……に……さん……」


『なぁ、お前さ……楽しんでるだろ。』


途中で黙っていた尽が話しかけてきた。


「……ふふっ……うん。」


凄く楽しい。


視点《白井さん》

先程から逃げていて気づいたことがあった。


「ここの屍霊は恐らく霊力に反応して追いかけてきます。」


「なるほど……確かに目も耳も鼻もないのになんで追いかけてくるのか分かんなかったんだよね……そういうことか……!」


だから……


「霊力を含んだ媒体を餌にして屍霊の注意を逸せば足止めになる可能性があります。ですが……」


霊力の不足が命取りだ。

私がそこまで語ると賽代さんは察してくれたのか歩き出す。


「つまり……霊力の多いわたしの出番ってわけか。任せてくれよ?マジックとギャンブルは大得意だ。」


「……それはなんとも頼もしい。」


これほど信頼できる手品師(トリック・スター)は他に居ないだろう。


結果を言うと作戦は上手くいった。賽代さんはここまで順調だと思っていなかったのか驚いているようだった。


「……すごっ……こんなに上手くいくとは……!」


「……私の所属する隊は忘れられがちですが元は潜入、隠密調査のための部隊です。」


賽代さんが私に目を向ける。私は賽代さんの目を見つめ返した。


「……こういう小細工は一番上手いんですよ。」


「おや……掴めないね。」


「生憎、私は霞なもので。」


視点《金扇龍介》

後ろ、下、前、横、上、いろんなところから襲ってくる屍霊を花奈はただ無言で霊具を振るって倒していく。


「………………。」


斬って、封印、斬って、封印、たまに撃ってから封印。信じられんほど正確無比に花奈は屍霊を片付けてしまう。

花奈の顔がだんだんと光を失っていく。上がっていた口角が徐々に下がっていくのが見えた。


(そろそろやな……。)


花奈と仕事をする時に気を付けなあかんことはただ一つだけ。


『かーなっ!笑顔!忘れとるよ?』


「……ヤバっ!?教えてくれてありがとぉ、リュウ!」


躁鬱状態の花奈を鬱にさせん。それだけや。


『……花奈はかわいー顔しとるんやから笑っとらんと勿体無いで?』


「もー!リュウは口が軽いんだからさー!ほら、前来るよ!」


花奈はちょっと馬鹿で能天気なだけの普通の子や。俺と契約してもうたせいで霊装のときは影響されて躁鬱状態になってしまうけど。それ以外は明るくて、考えなしのかわいい俺の契約者なんや。


俺が戻してやらんといかんやろ?


視点《賽代すごろ》

霊力を込めた媒体を屍霊達の前に撒く。屍霊達は面白いほどに引っかかってくれている。


「流石、霞部隊の副隊長殿が考えた作戦だ。」


そういうと、彼は不満そうな目をわたしに向けた。


「……その言い方はよしてください。」


「あらご不満かな?」


名誉な役職だと思うけれど……。


「貴方だって役割で呼ばれたら嫌でしょう。貴方が『高田澄の契約霊さん』と呼ばれているようなものですよ?」


…………うーん?


「……?別に間違っていないし、わたしは澄のものだから不満はないね!むしろ嬉しい!」


潔くそう言い切ると白井ちゃんは呆れた顔をする。


「貴方に言った私が間違いでした……。」


なんだその顔は。何もおかしくないだろう。

その疑問に気を取られていたのか、たまたま屍霊たちに距離を詰められていたらしい。


「……賽代さんっ!避け……!」


その声が届いた時に避けることには成功した。

ただ、長く伸びた髪の毛先に屍霊の手が触れてしまった。


視点《白井さん》

賽代さんはすんでのところで屍霊の手から身を逃れる。そして、残り二発しかない銃の一発を撃った。その場に大きな銃声が響く。


「……危なかったですね。もう少しで……」


―バンッ


もう一度、銃声がした。間違いなく賽代さんの銃からだ。最後の一発を躊躇いなく撃った。


「……な、何故……!」


「まだだ。」


私の疑問など気に求めていないかのように賽代さんは呟く。


「まだ、動いてる。」


彼女は腰に下げていたネイルハンマーを取り出し、屍霊に振り下ろした。


ぐちゃり、とした粘着質な音が響く。


「……今、澄の髪に触れた。触れたよね?」


床に転がった屍霊の体を直接触れないように賽代さんは蹴り飛ばす。


「……澄の身体は君らみたいな腐った肉と骨の塊如きが触って良いものじゃないんだよ。」


さらにその屍霊にまたハンマーを振り下ろした。


「君の穢れた手が二度と澄に触れられないように今、潰してあげる。……感謝しとけよ生ゴミが。」


何度も何度も何度も賽代さんは屍霊にハンマーを振り下ろす。

もう動かなくなったんだろう。賽代さんは満足したように立ち上がってこちらに振り向いた。


「……終わりましたか?」


「……ああ!うん!……そうだ!一つ気づいたことがあるんだけど。」


賽代さんは大発見だと言うように笑う。


「……コレ!霊力の込もってない物理攻撃は効くみたい!!」


視点《惟芽胤》

一通り見渡して目の前にあるのは赤。


「……尽。」


『……なんも言うな。……言わなくていい。』


尽は頑なに話を拒否している。まぁ関係ないけど。


「……東エリア、全部燃えたっぽい。」


『だから言うなって言ったのに!言わなくても分かるわ!』


暇になったなぁ……。どうしようかな……。何故か屍霊出て来ないし……。


「焼かれて呻いてる声は聞こえるのになぁ……。」


『この声でさっきから頭おかしくなりそうなんだよなぁ……!』


尽は五月蝿いし……。賽代さん達の様子見に行くか……。


視点《朝木花奈》

右、左、後ろ、前、左、後ろ、右、前、上。


「……多いなぁ。」


今日はリュウ達誘ってやっとお出かけ出来たのになぁ。なんでこんなことになってるんだろ。

白ちゃんも迷惑だったかな。誘わない方が良かったかも……。

花奈は馬鹿だからなぁ。いつもみんなに迷惑かけちゃうや。なんで、いつもあんなに能天気なことばっかり言えるんだろ。戦うことしかできないくせに。薊の部隊長が花奈じゃなかったらもっと薊の子達も自信持って他の部隊と話し合えるんじゃないのかな。

緒梨ちゃんは花奈や薊の子達に優しいけど時雨の子達全体がそうなわけじゃないし。なんなら薊のことを下に見てる子達の方が多いからなぁ。

もっと花奈の頭が良かったら、薊の子達も馬鹿にされないのに。

リュウにはいつも迷惑かけちゃうし紗子ちゃんだって花奈のこと気にかけてくれるのに。花奈がダメな子だから何にも返せてないな。

花奈じゃない方がずっと良いのに。燐のみんなは優しいから花奈に居場所をくれる。


……花奈は、戦うことでしか返せない。


『花奈?どしたん?大丈夫?』


リュウがいつも馬鹿な花奈を心配してくれるのはきっとリュウが優しいから。


『あーあ、まーたしんみりした顔しとる!な?花奈、笑って?俺、花奈の笑った顔が好きやからさ?おねがい。』


でも、リュウがいると居てもいいって思えるんだよな。


「……リュウ!ありがとっ!!」


どんなにダメでも笑っていられる。


視点《賽代すごろ》

ある程度対処法がわかるとこっちのものだ。何か重いものとかで殴って仕舞えばいい。


「……次!北、三、頭上からです!!」


「はいOK!」


ハンマーで殴って仕舞えばあとは動かない。なんて便利な発見だ。霊力を含んでないものは朽ちないし、攻撃も出来て霊力の温存もできる。一石二鳥だ。


「……ここらのは粗方片付けたかな?」


「もう近くにはいませんね。」


ひと段落したところで異変に気づく。……なんか。


「……焦げ臭くない?」


「先程から煙の匂いがしていますね。」


……なんで?

二人で首を傾げていると誰かが近づいてくる。


「……賽代さーん!東エリア燃やしてきましたー。」


「なんで!?」


よく見慣れた後輩だった。君の仕業かい!?


視点《尽》

賽代が責めるように目を向けてくる。


「ちょっとー、尽!しっかり手綱握っといてよねー?君の契約者だろう?」


それができたら苦労してねぇよ。と心の中に留める。霊装中は契約者以外にこっちの声は聞こえないからだ。

……ん?待てよ、今なら彼奴に対する文句言い放題だな。


『……まぁ、いつも操り人形で一人遊びしてる同然のお前にはこの苦労はわかんねぇもんな?いやぁ、羨ましいことで!責任を感じなくて良いもんだなぁ?賽代の娘さんよぉ!あ!元々無責任だったか!こっちの記憶に残る約束勝手に取り付けといて死んだら忘れるような女だもんなぁ!?』


霊装状態って便利だな。何言っても聞こえないぜ!


「……惟芽君、もし尽がわたしの悪口言ってたら遠慮なくチクっていいからね。」


おっと、これ以上は不味い。黙っておくか。


「……尽、さっき言ってたの横流しして良い?」


『良いわけがねぇだろ。馬鹿かお前。』


わざわざお前も律儀に許可とってくるんじゃねぇ!!


「……まぁそんなことは置いといて。東エリアには見た限り迷子センターは見当たらなかったので屍霊も邪魔だったので燃やしました。屍霊がいなくなって暇だったのでそちらの様子を見にきました。そっちはどんな感じですか?」


改めて聞くと思考回路がやべぇな。なんだよ、屍霊邪魔だったから燃やしたけど今度は屍霊がいなくなったから暇って。冷静に考えて頭おかしくねぇか?


「ふっふっふ……聞いてくれよ惟芽君。大発見をしてしまったんだ……!この屍霊達はね……霊力のこもってない物理攻撃は効くんだよ!!さっきハンマーで殴って気づいた!」


頭おかしいのもうひとりいたな。なんで、霊相手にまともに暴力で対抗しようという思考になった?


「じゃあ、全部殺れば解決するってことですね。」


「そういうことだね!!」


そう言って俺の契約者は本からアイスピックを取り出す。もうやだこいつら。

あー、早く金扇なんとかしてくれ……!


視点《金扇龍介》

周りの屍霊達はもういなくなっている。それでも鏡を構えようとする花奈を引き留めた。


『かーなー?もうおらんよ。お終い。』


そう言って霊装を解く。霊装を解くと花奈はいつもの恐れ知らずの朝木花奈に戻っていく。


「リュウ!見てた!?今の花奈チョーカッコよくない?」


「うん。花奈はカッコええし、かわええなぁ。最強で自慢の子やで?」


嬉しそうに喜ぶ花奈の顔を見て安心する。良かった。いつもの花奈や。

霊装状態になると花奈は俺の影響を受けてしまう。やから、霊装中の花奈はよく鬱状態になってまう。


「花奈はいつも、明るくてかわええ俺の契約者やから。な?」


「そうなのだよー!リュウの契約者は可愛くてかっこいい最強の女の子なのです!!」


花奈の側は誰にも譲れん。たとえ、姉ちゃんに言われたとしても。契約が切れても。絶対に離れてやらんからな。


「……そういえばさぁ、リュウ?」


「なぁに?どうしたん?」


不意に気づいたことを言うように花奈は俺に話しかけた。


「さっきからモール内、焦げ臭くない?なんで?」


「……あー、確かになぁ。なんでやろねぇ?」


二人で首を傾げる。うーん……。


「「………………。」」


いや、火事やん。


「「……やばぁ!!!」」


一先ず、胤くん達と合流せな!!!


視点《惟芽胤》

話を聞いたところ西エリアにも迷子センターらしきものはなかったらしい。


「じゃあ、朝木さん達と合流しましょうか。一階にあるかもしれないです。」


「そうだね。花奈は見つけたとしてもスルーしてそうだけど……。」


そう言いながら一階に降りていく。正直、朝木さんがあの広さの中から迷子センターを探し出せると思っていない。もちろん龍介も。


「龍介も龍介で適当なことが多いからな……。」


「やる気ないと何もしないよね。あの子。そういうところ紗子ちゃんにそっくりだけど。」


金扇さんも結構適当だったりするからな……。やはり姉弟。血筋だろうか。

そう考えていると聞き慣れた大きい声が聞こえてくる。


「あーっ!すごろん達みつけたーー!!」


「ちょっと!!あんさんら火事なっとんのに何してはるんです!!?」


朝木さん達だ。……なんであのふたり霊装解いてるんだ?


「僕が燃やしましたー。何もなかったのでー!」


「それで俺らが納得できると思っとるん??」


いや、ここ異空間だし良いと思って。


「……それにこの火は霊力を入れて燃やした火なので霊力のない物には影響しませんよ。霊装している僕らには影響しますけど。」


「あっそうなん?ならええか……。」


「あー、そゆことね!」


納得できたようで何より。合流したということで本題に入るか。


「……ふたりは一階一通りは見ましたか?」


「んーとねー……たぶんまだ!!」


「屍霊さん達に気いとられとって探してないわ。すまんな。」


やっぱりか……。まぁ、丁度良い。


「二階は何もなかったので皆んなで一階を探しましょうか。」


「わかったー!」


「おっけー。」


火が一階に回るまで後…………?


視点《白井さん》

一階探索を始めて五分。ふと気になったことがあった。


「……あの、その夕凪鈴鹿という霊を見つけたらどうするつもりですか?」


真っ先に反応したのは惟芽胤君だ。


「……『保護』でしょうね。」


「雰囲気からしておそらく子供の霊だしね。燐の保護対象だ。」


賽代さんも続けて補足する。でも……。


「これ程の力がある霊を燐は保護対象として認めてくれるでしょうか?」


子供といえど、複数人を異空間に転移させる力がある霊はあまりに強力過ぎる。制御できるとは思えない。

しばらく沈黙が続いた。皆んな不安視しているようだ。誰もが黙り込む。


「だいじょーぶでしょ!」


そう言ったのは花奈だ。何の根拠があってそんなに自信をもって言えるのかが分からないけど、花奈が言うと何故か安心できた。

次第に他も喋り出す。


「……秋羅のような例もあるので安心かと。」


「そーそー!あきちゃん、こーんなちっちゃいのに凄く強いからね!」


確かに、緋桐に所属している萌城(もえぎ)秋羅(あきら)はまだ感情コントロールの未熟な子供の霊。だが、本人自身高い能力を持っているためサポートとして戦闘にも駆り出されている。


「……それなら、安心ですね。」


良かった。いくら霊とはいえど子供を排除しなければいけないのは気が引けたから。

そう思いながら私は前をいく皆んなの背中を追いかけた。


視点《尽》

迷子センターか……あんま良い思い出ねぇんだよなぁ……。


『……ちょっとキツイな……。』


「どうしたの?尽。」


あ、声に出てたか。


『別に大したことはねぇんだけど……ガキん頃、迷子センターにお世話になったことがあって……んで、スタッフさんが「ここで遊んどけ」って言ってくれてってもらった部屋に先に先客がいてさ……ソイツと二人で遊んでたんだよ。……後で気づいたんだけど、ソイツ霊だった。って話。』


本当に大したことじゃねぇけど、あんま良い思い出ではないんだよな……。


「……ふっ。」


『今鼻で笑ったか?オイ。』


「現在進行形で幽霊なやつがなんか言ってると思って……。」


どうして、俺の契約者はこうも失礼なのか。誰に似たんだか。

そうこうしているうちに迷子センターに着いたらしい。

賽代が前に出て扉を叩いた。


視点《惟芽胤》

―コンコンコン


ノックの音が響く。返事は何もない。


「……ダメだね。鍵もかかっている。」


賽代さんが諦めたように手を上げる。ここまできてサッパリらしい。


「尽。」


『なんだ?』


「霊装を解いて。」


『……?おう。』


疑問に思いながらも尽は霊装を解く。

賽代さんと位置を交換して今度は僕が扉を叩いた。


「……だれ?」


くぐもった声がする。小さな女の子の声だ。


「……惟芽胤。」


「なんで来たの?」


どうやら声は、僕を見極めたいらしい。……このくらいの歳の子は何を求めているんだろう。ずっとここに閉じ込められている子供は何をして欲しい?

ぐるぐると考えを巡らす。

このくらいの歳の頃、僕は何が欲しかった?

……答えは一つだ。


「……鈴鹿。君を迎えに来たよ。」


名前を呼んで欲しかった。連れ去ってもらいたかった。


「一緒に帰ろう?」


居場所が欲しかった。


ゆっくりと扉が開く。中から出てきたのは夕凪鈴鹿本人だった。


「……ホント?」


「うん。本当だ。」


「連れてってくれるの?」


「……どこへでも。」


鈴鹿に手を差し出す。彼女はそれをそっと握った。


「帰ろうか。」


「……うん。」


彼女が頷くと同時に異空間は崩れていく。

気づくと元のショッピングモールに戻っていた。人々の喧騒が耳に入ってくる。今までの疲れがどっと肩にきた気がした。


「……やっと出れましたね……。」


「帰ったら弾の補充しなきゃなぁ。」


「その前に報告ですよ。」


そう、帰って報告するまでが任務だ。もちろん、この子を燐の皆んなに預けるまでも含める。


「……惟芽君と花奈に任せとくよ!」


「任務を受けたのは僕と貴方でしょう。あんないい加減な報告で通信切ったんですから賽代さんも来てください。」


「ええ……やだなぁ、振矢に怒られるちゃう……。」


早く燐に戻ろうとしていると龍介が口を挟んできた。


「なぁ、そういや花奈はスマホとか持ってきてへんの?」


「んー?ちょい待ち……あ!あった!!スマホ持ってた!!」


「……え?」


ずっと気づかないでいたのか……。そういえば、朝木さんが外出するのに通信機器を持っていかないわけがなかった……。


「じゃあそれで連絡したらええやん。『すんませんでしたー』いうて。」


「えー?でも花奈、振矢さんの番号持ってないよ?」


「近い人の連絡先なら持ってるやろ?ならそれでええ。」


「それならある!」と言って朝木さんは誰かに連絡をかける。金扇さんだろうか……?


「近い人って紗子ちゃん?ならわたし報告するけど……。」


賽代さんが朝木さんにそう持ちかける。すると朝木さんは「ううん。でも、すごろんは知ってる人!」と言った。


「……あ!もしもーし?聞こえる?花奈ちゃんです!!」


そう言って話す朝木さんの相手は誰なのかさっぱりわからない。したら朝木さんは想像もしないひとの名前を挙げた。


「そちら賭くんの電話番号で間違いないですかー?」


「え。」


今、なんて?賭さんを『くん』づけで呼ぶのもあまり無いし、ふたりの接点が分からなくて困惑する。それ以上に賽代さんの方が困惑していた。


「……花奈ぁ、もしかして電話ので相手って兄さん……?振矢に近い人って……。」


「うん!賭くん!!だってふたりって兄弟なんでしょ?」


朝木さんに曇りのない目でそう聞かれる。賽代さんには今日一番の精神的なダメージが入ったことだろう。


まぁ、その後燐に帰ってたら普通に振矢さんにふたり揃って叱られたんですが。……理不尽な。



後日談 視点《尽》

「ツヅくん!」


無邪気で幼い声が燐の廊下に響く。最近入ってきた夕凪鈴鹿の声だ。


「……すっかり懐かれてんなぁ。」


「雛が親鳥について行くみたいなものでしょ。」


あの日から何かと鈴鹿は胤について来るようになった。萌城秋羅といい、この契約者はどうにも幼女に好かれやすい。

この前金扇と会話していた時のことだ。


「……胤はまた幼女に絡まれんのか。二代目幼女キラーは伊達じゃねぇな。」


「なんだよその謎のネーミングセンス。……てか初代は誰だよ。」


「榊。」


「あー……。そういや、あいつもだったな……。」


自分の元契約者である榊悠正もよく幼い女の子に絡まれていたことを思い出した。


惟芽胤は知らない。自分が陰で『二代目幼女キラー』と呼ばれていることを。


(まぁ、教えてもやんねぇけど。)

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