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僕の目的

8話目。

多分最終的にハッピーエンドにします。たぶん。

視点《惟芽胤》

あの人はやけに印象に残った人だった。この組織で一番多く関わった先輩だったからかもしれない。


「……これで本当に賽代すごろに関する話は終わり。これで満足?」


過去に耽る頭に区切りをつけるように僕は息を吐く。目の先にいる澄は口を閉ざして思案していた。やがて、ゆっくりとその口を開く。


「……質問なんだけどさ。」


「なに?」


真剣な顔をする澄につられるように返事をした。澄は下にしていた視線を僕に向け、疑問を口にする。


「……尽さんの賽代すごろに対する感情ってもしかしてさ…………!」


間違いなく、

「ああ、恋情だろうね。尽本人は気づいてないだろうけど。……今更それなの?」


もっと他に聞くべきことがあるだろうに。何故、そこなのか。


「うん。ずっと気になっててさ。まさかとは思ったけど、そのまさかだったなんて……びっくりだなぁ。」


すっきりとした表情でそう話す澄。本気で気になっていたのか。いまいち理解できない。


「……そう。ところで澄。」


澄が僕に目を向けた。真っ直ぐとこちらを見る黄金色は賽代さんが向けるものとはまるで違う。けれど、少し居心地が悪い。


「僕は君のお望み通りは賽代すごろについてを全て話したよ。それ以外にも君は他の人たちから見た賽代すごろを聞いてきたはずだ。」


澄の表情はさして変わらず次に続く言葉を待っている。


「……話を聞いて君は賽代すごろをどう思った?」


せっかく話したのだ。このくらいのお釣りはもらってもいいだろう。


「んー……正直言って、よく分かんないや!」


「………………は?』


あっけらかんとした態度でカラカラ笑う澄に思わず声が出た。そんなことを気にもせず澄は続ける。


「だって、今まで僕が聞いてきた賽代すごろは色んな視点を含んでいて凄く彼女のことを『知る』ことは出来たと思うよ。でも、僕が知ってあるのは話の中の賽代すごろであって実際に見た訳でも関わった訳でもないから『分かって』はいないんだ。そのままで印象を語るのは不誠実な気がするしね。」


そう何でもないように澄は告げる。


「それに!別に分からないままでも良いのかなって。『僕は事実を知った』っていうのを受け止めていれば僕は無責任にはならない。……事実を背負っていける。」


ただだだ軽くそう言い放つ澄。

……何で?君が教えてくれと頼んだのに?分からないってどう言うこと?

…………そんなの、


「……な………!」


「?どうしたの?惟芽く……」


「納得できる訳ない!!!」


思わず叫んでしまった。急に大きな声を出したので喉に負担がかかって咳き込んでしまう。


「……!?びっくりしたぁ!惟芽君そのくらい大きい声出せたんだね……って大丈夫!?」


「ぅ゛っ……だ、大丈夫……。そんなことよりっ!澄、『分からないままでも良い』って本気で言ってるの?」


澄は戸惑いを隠そうともせずにゆっくりと頷く。


「そうだけど……えぇ、ダメだった?』


「ダメに決まってる!!」


納得できないし、理解できない、認められない!!

どうにかして澄に賽代さんの印象を言わせたい!じゃなきゃ腑に落ちない!!


「澄、今からどうにかして君に印象を言わせてみせる!」


「えぇ……こんなに声張ってる惟芽君初めて見るなぁ……そこまでのことなの?」


僕にとってはそこまでのことなんだ!!


「別に僕のことはいいから!澄は静かにしてて!!」


「何でそんなに必死なの……。」


「僕が、嫌だから!!」


それ以外に何があるって言うの!?


「まさかの独裁者的思想!?」


「もう、五月蝿いなぁ……!……よし、できた。澄!」


「も〜何!?惟芽君ちょっと今日変だよ……って、その大量の資料何?なんか大分古い文献も混ざってない?」


……何って、

「いまから君に強制的になくなった君の過去の記憶をみせるから、その準備。」


「すっごく不安なんだけど!それって大丈夫な奴?黒魔術的な何たらじゃないよね!?」


「記憶元の人間が見ると海馬のあたりが爆ぜるらしいけど、澄は記憶ないし大丈夫。多分!」


そもそも今は人間かどうかも怪しいし。


「それって一か八かで死ぬじゃん!?嫌だよ!?脳みそ爆ぜるのは!惟芽君も嫌でしょ?目の前で脳みそ爆ぜるとこ見るの!?」


「大丈夫。万が一の時はこの本で書庫に防護の咒かけるから。資料は汚れない。安心して。」


「薄情!!……やけに資料が多いと思ったら失敗する前提で用意してたのか!余計に嫌だけど!?


まずい。澄が駄々っ子になっている。どうにかして記憶を見せたいけど……!


「あぁ、もう!大人しくしてて!すぐに終わるから!」


「それすぐに(僕の命が)終わるからの意味じゃないかなぁ……!」


「大丈夫!澄ならいけるから!!」


「その自信はどこから来るのさ……!というか、惟芽君落ち着いて……!」


「僕は至って冷静だ!!」


「それ冷静さを欠いてる人のセリフだよ……!」


……………………。


そんなこんなで押し問答して時計の針が二周くらいした。


「……はぁ、惟芽君。ようやく冷静になった?」


「…………うん。」


大声で言い争いをして疲れてしまった。

何で僕はあんなに必死になっていたんだろう。最近、どんどんと余裕がなくなっている気がする。


「あんなに表情コロコロ変わるのは見てて面白かったけど、もうやめてね。」


「……はい。」


今、澄は僕が出した文献を一緒に片付けてくれている。申し訳ないとは思っている。


「……その本はここの棚の上段だよ。」


「あ、ホントだ。もう全部覚えたの?」


まさか、こんなにたくさんの記録があるんだ。まだまだ時間がかかる。


「まだ、半分もいってないよ。……学校もあるし、時間が足りない。」


「あぁ、そっか。惟芽君は学校行ってるんだね。」


燐が解体した後、行く場所がなくなった未成年は大勢いる。そういった人たちは天威さんたちが燐と関わりのあった学校や施設に入れてくれた。校長や一部の教師は僕の事情を知っていてあまり詮索されなくて済んだ。


「……思っていたよりも退屈だった。昔は学校に行きたいって思っていたのに、今ではつまらないや。」


「惟芽君何でもできるもんね。座学も運動も得意でしょ?」


「苦ではないかな。」


やっぱり、(ここ)の方が僕は楽しい。学校は思っていたよりも治安が良くて、暴力沙汰なんて起きない。平和で、つまらなかった。

「外の世界は危険がいっぱいで、学校なんてものはもっての外よ。だから、外に出てはダメ。」

そう、あの人は言っていた。実際、家の外から銃声が聞こえてきたこともあった。なのに、今僕が晒されているのは望んでいた危険じゃなく拍子抜けするほどの平和。


「……あれは嘘だったのかな。」


「何が?」


口から溢れていたらしい。澄が不思議そうに僕を見る。


「いいや。……何でもない。」


澄はいい加減なように見えて道徳には厳しいからな。あれだけは悟られないようにしなきゃ。


「そういえば、惟芽君。」


考え込む頭が澄の声によって現実に引き戻される。


「ずうっと気になっているんだけど、何で惟芽君は燐に戻ってきたの?」


澄はどこか探るような目で僕を見ていた。何でそんなに警戒しているのかはよく分からない。


「君が当事者である責任を持つために自分の契約霊について聞いて回ったように、僕は自分の記憶を無くしたくなかったから。……忘れないためにここに来た。」


「本当に?」


「それ以外の目的はないよ。僕は燐への未練を無くしに来ただけ。」


隠すとこもないし正直にいった。真っ直ぐとこちらを見る澄の目は相変わらず居心地が悪い。何をそんなに疑っているんだろう。


「……何?」


「……なんでも?どうやら本当のことみたい。」


最初から言っているのに。


「何を警戒していたのか知らないけどさ。」


安心したように澄は息をついて話す。その言葉が僕にどんな影響があるか知らずに。


「いや〜。僕はてっきり記録書庫を引き継いだから()()()()()()()んだと思ってたんだけど。……違うようで安心した。」


「……澄、今なんて?」


澄は不思議そうに今言った言葉を繰り返す。


「え?だから違うようで安心したって……」


「違う、その前。」


自然と持っていた資料を落として澄に詰め寄っていた。


「『燐を復活させるんだ』と思ってた……って。」


燐、燐の復活。そうか、ここは記録書庫。探したら燐の設立の記録だってあるはずだ。何で今まで思いつかなかったんだ!


「……それ、良いね。」


「えっ……はっ!」


何かに気づいたように澄は自身の口を押さえた。「しまった。」とでも言うように焦りや困惑を内包した目で僕を見る。


「完全に復活とまではいかなくとも、霊視の道具や契約霊システムとかのものだけでも復元できる可能性はある。研究室は今でも動いているんだから何とかできるかもしれない。……あぁでもそうなると振矢さんが邪魔かもな。賭さんも。契約霊がいた人たちは可能性としては協力してくれるかは五分五分。金扇さんは……」


そんな澄をお構いなしに燐を復活させるための計画を立てる。

道は厳しいだろう。けど、退屈だった日常がずっと面白い。


「惟芽、君……?」


遠慮がちに僕の名前をよぶ。澄は、その表情を緊張と不安で染め上げていた。

そういえばまだお礼を言っていなかった。


「……あぁ、澄。教えてくれてありがとう。お陰で目的が見つかったよ。」


僕はまたあの火に飛び込める。

澄は棘を含んだ声を僕に向けた。


「どうするかは君の自由だとは思うけどさ、惟芽君。」


「……何?」


先程とは違う、明らかに警戒した目をして澄は忠告をする。


「ろくな死に方はしないよ。」


自然と普段はぴくりとも動かない口角が上がっていく。


ああ、そんなの……


「よく言われるし、本望だ。」


夏の終わり、運命の賽の目は僕に転がって来たらしい。

これにて『賽』の章は終わりとなります。

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