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ああ、可哀想

6話目。

ファンタジーです。

登場人物の名前は当て字や語感で決めたのが多いです。

多分最終的にハッピーエンドにします。

作者はカプ厨、カプっぽい描写あるかも。でも言及してない限りは自由だから。言及してるのもあるけど。

賽代さんが消えたあの日の天気は……予報外れの雨だったのを覚えている。

念のため僕らは賽代さんに着いていったんだ。振矢さんと通信をつないで何か起こったら直ぐに指示が出るようにしてね。

遠くからだけど、一応記録係の(はやぶさ)隊と治療のために竜胆(りんどう)の人も配置してね。結構多くの霞の人も隠れながらも居たね。あとはいつも通りに緋桐(ひぎり)の霊とかも……まあ全部無駄だったけど。

僕と尽だけは賽代さんの近くにいることが許された。もちろん、霊装の状態でね。万が一のとき澄の体だけでも速やかに回収できるように。


約束の場所に着いたとき、待っていたのはそのときの僕と同じくらいの年に見える男の子だった。だけど直ぐに人間じゃないと分かった。彼の頭には大きな角があったから。

僕らが、いや賽代さんが来たことに気がつくと彼は顔を上げた。そしてその瞬間、花が咲くように笑った。


「スゴロ!!来てくれたんだ!」


心の底から嬉しいと溢れ出すようなその表情。それが全うに想い人に会えて喜ぶ少年とかわりないように見えてしまって……酷く違和感となって映ったんだ。僕はこの光景をただ見ていることしか出来ない。


「久しぶりだね!でも、感動の再会と言うには少しだけ外野が多すぎるかな?……少し片付けようか。」


「好きにしたら?どうせ止めても意味ないんでしょ?」


ただ、軽くそう言い放つ彼とは対照的に賽代さんは冷たく突き放すような言葉を被せる。それすらも気にしていないと言うように彼はカラカラと笑っていた。


「……それは確かにそう。よく分かってくれてるね!やっぱり、少なからず君もオレのことを想ってくれてるってことで良いんだよね!?ああ、嬉しいなぁ……♡あ!ごめんね?今すぐ遠くから見てる邪魔な奴らは見えないようにするから!待ってて!」


彼は目の前の事すらも見えていない盲目具合で一方的に喋ったあと、途端に棘しか含めていない声色で言葉を紡ぐ。


「……『半径500m』、『障壁』、『展開』」


そう言い終わると同時に僕が振矢さんと繋いでいた通信が途絶えた。かけ直しても繋がらない。先ほどまで勢いよく降っていた雨ですらも止んでいく。明らかに彼がしたことなのは明白だった。


「これで外の奴らはここに干渉出来なくなったね!!出来ることなら君の近くにいるそこの男共も居なくなって貰いたいんだけど……。それは後でするよ。」


さらりと、執着をドロドロに煮詰めた言葉を落とす少年。彼にはもう、僕らはどうでもいいようだった。


「……口にしたことを現実に具現化させるその力も何度見たって意味が分からない。人外って奴らはどうしてこんなにも理を外れるのか。化け物だよ。本当に。」


そう、変えられないことを再確認したように口にする賽代さん。それを見て未だにニコニコと笑みを浮かべる彼は()()()()()()()()()大袈裟な身振り手振りをしながら口を開く。


「化け物だなんてそんな!確かに人や霊、神共とは違っているけどね。オレたちは''母''に創られた監視員!!この力だって監視員なら誰だって持っているものだよ!神は信じていなくともオレたちは信じてくれないと!……あ!それともスゴロもこの力が欲しい?それだったら今夜母にオレの(つがい)として紹介するときに監視員にしてって頼んであげるからそれまで待ってて♡」


そう彼は興奮気味に話しているが殆どが滅茶苦茶でなにを言っているかが分からない。


『……妄想で話を広げるのも11年前から変わってねぇんだな、灰道。』


先程までずっと黙っていた尽が漸く言葉を発する。

あの彼が11年前、高田澄を奪い、事件が起こる原因となった灰道恋なのか。


「……(つがい)?どの口が。そもそもわたしを殺したのは誰?紛れもない。灰道、お前自身だろ?……自分が殺した相手に一目惚れ、なんて反吐が出る。どれだけお前の頭の中は花だらけなんだ。」


今までの賽代さんからは考えられない程の言葉づかいで言葉を返す。灰道はどこ吹く風と言うように笑っていた。


「あの日は本当にタイミングが悪かったんだ。ごめんね。でも、本当に君は綺麗だ。もっと早くに出会っていたとしてもオレは君に惚れていただろう。……きっと運命なんだ。母でさえも予想の出来なかった奇跡に違いない。……だからさぁ、ねぇスゴロ。オレと一緒に天に行こう!監視員に成れば面倒な死後の裁判だってしなくてすむし、仕事はあるけど比較的自由な環境で過ごせるよ!転生と違って記憶もリセットされないしこれって凄く良い条件じゃないかな!?ねぇ!どう?」


妄想と執着と身勝手さを掛け合わせたその願いは聞いているこちらでさえ不快感を覚えるものだった。


「は?ドブ(お前)がいる時点で最低なんだわ。さっさと澄だけ置いて大好きなママのとこにでも帰れ紫陽花野郎。」


そう言って賽代さんは舌を出して中指を立てる。


「……賽代さん、お行儀が悪いですよ……。」


「おっと、失礼。つい苛立ってしまって。」


思わず忠告する。表面上は冷静になったと見えるが恐らく内心穏やかではないだろう。


「ツンツンしてるなぁ。照れ屋さんなのは変わらず?ああ!でもそこが可愛いから良いんだけど!!あ、だけど高田澄の魂は直ぐには返せないや!ごめんね!」


相変わらず灰道はこちらの声が聞こえていないのか的外れなことばかり話す。


「……気持ち悪い。いつまで経っても本当に話が通じないんだね。まあ知って居たことだけどさ。……澄を返して貰えないなら力ずくで取り戻すまでだ。覚悟は宜しいかい?灰道恋。」


銃を構えてそう話す賽代さんをただ見ていた。だって、僕に与えられた役割は報告と高田澄の回収だけだから。手助けはしなくていい。賽代さんもそれを望んでいる。……尽だけは不満があるだろうけど。


「そういう無謀さは数少ない君の欠点だね。まぁ、惚れた女の子に付き合えないなんて男が廃るか。……いいよ、サイダイスゴロ。遊んであげる。」


余裕綽々といった様子で灰道は賽代さんに手を向ける。

賽代さんの顔が牙を向く狼よりも険しく、不安げに揺れたような気がした。


「……その無駄にデカイ角ぶち折ってやる。」


「やれるならね。」


灰道はそう、挑発するように笑っていた。


……攻撃を仕掛けたのは賽代さんからだ。


賽代さんの能力は知っているよね。……そう、『振った賽の目の分だけ自陣と敵陣にバフとデバフをかける・相手と自分の体力ゲージを可視化する』……ゲームみたいな力。限りなく全てを出しきっていたよ。賽代さんの運は強いから。……だけど運だけではどうしようも出来なかった。


「速度強化:6、攻撃力上昇:5、防御:3、体力回復:4……こんだけこっちは積んでんのに無傷って何なんだよ……化け物が。」


何度撃っても弾丸は障壁によって跳ね返される。

僕らは振矢さんたちから手を出すなって指示が出てるから跳ね返された銃弾を回避するだけ。賽代さんの銃は霊力を込めて撃つから霊装状態でも効いてしまうんだよね。

跳ね返すだけの灰道や、避けるだけの僕らとは違って賽代さんは霊力の大幅な消費と能力の使いすぎで過度に負荷がかかっていた。

跳ね返される弾丸が何度も身体に掠ってしまうほどにね。


「……クソがクソがクソがクソがクソがッ!……ちっ、霊力切れ……!」


焦りと苛立ちを隠そうともせずに取り出した霊力補給の飴を口に放り込む。とっくに仮面なんかをかなぐり捨てた賽代さんの姿。それを心の底から満足そうに見つめる灰道が気味が悪くて仕方なかった。


「スゴロ、やっと素に戻ってくれた!いつもの必死に取り繕って強いふりをしてるのも可愛くて良いけど、やっぱり君の本当は弱くて脆い所が好きだなぁ……♡もっと見せて欲しくなる……はっ!もしかしてこれがキュートアグレッションってやつなのかな!?」


やけに大袈裟な身振り手振り、わざとらしくコロコロと変わる表情、明らかな言葉選び、堂々と張る声。それらが確実に賽代さんの神経を逆撫でする。


「……五月蝿ぇよ。多弁野郎。お前の与太話なんざ聴いてる暇なんて無いんだわ。家に帰ってママに聴いて貰いな。」


灰道恋の演劇染みたその仕草に僅かな既視感を覚えた。何処かで見たことがある。……似ている、いや真似ているのか。


「尽、これってさ……。」


『……気づいたか?』


灰道恋は通常時の賽代すごろを真似ているんだ。だから相手の調子を崩すような態度、言葉選びをして相手で遊んでいる。


「……でも少し違う。だって賽代さんのは『相手と距離をとるための仕草』だ。『相手を苛立たせるためのもの』じゃない。」


だからこそ、不快感があった。リスペクトのないオマージュは見ているものを不快にさせる。

そうしている間にも段々と弾丸や霊力が無くなっていくのが分かっていた。


「ねぇ、スゴロ。そんなに遠くにいると顔がよく見えないなぁ。もっと近くに来てくれても良いんだよ?ほら!」


ニコニコと笑みを浮かべながら手を広げそう宣う灰道。言う通りにするわけがないのに。


「…………近く、か。」


そう賽代さんが呟く。


『誰が行くかよ……って、は?』


「……!」


僕らの予想とは対照的に賽代さんはゆっくりと灰道に近づいていく。そして()()で灰道の手を取り、指を絡ませた。灰道の肩がびくりと跳ねる。


「ぅえ!?す、スゴロ?あ、あのぉ、て、手繋いでる……急にどおしたの……?」


灰道ですらも予想外だったのか一瞬で動きが止まる。賽代さんは薄く笑いながら灰道に顔を寄せた。賽代さんと目があった途端に顔を赤くした灰道は視線を彷徨わせながらも握られた手に力を入れていた。


「これでいいかな……れん?」


「あっ、なっ名前、呼ん……!?」


笑みをたたえて灰道の名を呼んだ賽代さんの姿から目が離せなかった。だって彼女の意図が分かってしまったから。

次の瞬間、賽代さんは()()にある拳銃を灰道の顎に突きつけていた。


「ばん。」と言うと共に賽代さんは引き金を引く。かなり多くの霊力を込めたのであろうと分かるほどの大きな破裂音を出すそれ。間違いなく灰道に当たっていた筈だった。


「……サプラーイズ。どうだったかなぁ、クソ野郎(れんくん)?」


灰道は血を流しながら後ろへよろける。そして前髪を掻き上げ、


「……最っっっ高!」


興奮気味に笑った。


「今の何!?手袋越しだけど、初めて手ぇ繋いで貰ったし……あ、あの、もしかしなくても今のって、こ……恋人つなぎ、だよね…?急にされると困った……りはしないけど!心の準備とかが―……!……それは置いといて!さっきの『ばん』ってやつ!可愛すぎて心臓ギュッてなっちゃったんだけど!!……出来たらもう一回だけ見せて欲しいなぁ……!でも、今は我慢かぁ……。ねぇ!スゴロ!!」


気分が高揚しているのか上機嫌のまま話す灰道を賽代さんは塵を見るような目で眺める。


「ああ……独り言は終わった?」


「君に言っていたのだけど……まぁいいか。今ので弾は最後でしょ。……どうする?まだ遊ぶ?」


漸く一発撃ち込めたのに弾切れになってしまった。だけど、賽代は余裕そうに話す。


「……よく知っているね。意外と銃に関する知識はあるのかな。」


「いいや?全く、君の生活パターンから考えた。いつも弾丸はそのくらい持ち歩いているよね?アレ、違ったっけ?」


堂々としたストーカー発言に賽代さんが溜め息を吐きながら侮蔑の目を向ける。


「……正解。なんで把握してるんだよ。気色悪い。」


「何でも知ってるよ。あの日からずっと君だけを見てきたんだから。」


それが当然だとでも言うように灰道は笑った。


「初めて会った日、天へ帰ってすぐ君に関する記録を探したよ。過去、家族構成、友人関係、全部調べ尽くした。並行世界(スペア)の君に会いに行ったりもしたなぁ。……でもこんなに心が動いたのはこの世界の君だけだ。……君だけなんだよ。こんな気持ちになるのは。……ねぇ、スゴロ。オレと一緒になって?」


「お断りさせて貰うよ。灰道、わたしがお前の提案を受け入れると思う?思うのならお前はずいぶんと頭が鈍いようだ。」


身勝手なほど一方的な告白を、不快そうに蹴る賽代さんの姿。その目にはいつものような彼女の唯一である澄への執着ではなく、憎悪を向けるように灰道への復讐心を写している。嬉しそうにその目を見る灰道はきっと『どんな感情だろうがその目に自分が写っていること自体に意味を見出だしている』のだと分かった。


どうにかして好いた人の気を引きたいが故の行動。……それはまるで幼い子供のようだ。


その想いはあまりにも純粋で、真っ直ぐで、取り返しのつかないほどに残酷。きっと、想いに悪はない。行動が想いを悪に染めるのだから。

悪に染まった想いは大抵、他者を傷つけるか、自身の命を蝕み殺すかの二択だ。灰道の場合は前者だろう。


もう少しだけ違えばもっと上手くできたはずだろうに。それすらも許されず、ここまで来てしまったのか。


少しだけ、目の前の人外が可哀想に見えた。

キャラクター設定

灰道恋

神でも霊でもない人外。恋に盲目。救えないね。可哀想に。

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