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久方振りの故郷④


 周囲を森に囲まれた森人族の集落。

 自然豊かで人間の少ないそこは静かで、心を落ち着けるのには最適な場所。

 僕はリフレの実家の壁に背を預け、夜空を眺めていた。浮かぶ月と星々は綺麗で心が癒やされる。


 隣には誰も居ない。

 出会ってからいつも隣に居た彼女が居ない。

 明日、朝早くに僕は森を出て行く。それからは1人だ。


 会おうと思えば〈扉〉を使って会いに行ける。

 いつでも、どこに居ても、どんなに離れていても会える。それでも旅を続ける僕の隣には居ないんだ。


 彼女にとって僕の隣は足を休める休憩所。

 彼女の目的地は、故郷は、この集落であり、また旅立つ理由は皆無。この集落で家族と共に過ごすことこそ、家族に会いたいと告げた彼女の幸せなのだから。


「――ヘルゼスさん」

「何の用だい」


 夜空を見上げながら口を動かす。

 隣に彼女が居るのは見なくても分かる。

 声を掛けてくる前から〈真・気配察知〉で気付いていた。


「改めてお礼を言いたくって。私を故郷まで連れて来てくれて、ありがとうございました。今まで、ヘルゼスさんのおかげで色々と助かりました」


「ああ。これからは家族と仲良く暮らせよ」


「あれえ? 一緒に来いとか言わないんですか?」


「また会えた家族と引き離すわけないだろ。鬼畜か僕は」


 明日からも共に旅が出来たら嬉しいけどね。

 リフレが旅立つことをリサイクは許さないだろう。


「今まで色んなことがありましたよね」

「ああ」

「色んな物を食べましたよね」

「……ああ」


「辛いですけど、私……別れの覚悟をしようと思うんです」

「そうか」


 分かりきっていたことだ。

 僕も覚悟を決めなきゃな。


「明日の朝、ここを発つ。朝までに覚悟を決めておけよ」


 夜空から視線を下ろし、壁から背中を離す。


「どこへ行くんですか?」


「布団。寝る」


 結局リフレの顔を見ないで僕は家に入り、布団に寝て目を閉じた。



 *



 一睡も出来なかったが太陽は昇っている。

 やれやれ、まさか眠れないとはね。

 心の整理も未だ付いていない。

 まあ、リフレと別れて時間が経てば心の整理も出来るだろう。

 元々は1人で旅をしていたんだからね。1人は慣れている。


 身支度を調え、朝食を食べてから出発の時間。

 集落に住む人々がリフレの実家前に集まって並ぶ。


「ヘルゼス、元気でな」

「また立ち寄ってくれれば嬉しいわ」

「次に来た時は俺達全員で歓迎するぞ」


 リサイクと握手を交わし、彼の両親の言葉に頷く。


「またこの集落へ足を運ぶと約束しよう」

「――ヘルゼスさん」


 リフレが僕の傍へと近寄って来る。

 彼女の服装は他の森人族と同じ、右肩を露出した翡翠色のワンピース。旅の道中で買い与えた服を着られないのは少々残念だな。


「私、別れの覚悟はもう出来ました」


「そうかい。じゃあ最後に握手でもしようか」


「はい」


 僕が手を差し出すと、リフレは背を向けて母親と握手する。

 は? おい、なんで自分の親と握手するんだよ。

 僕との握手はどうなった。

 腕を伸ばしたままにしているんだぞ。

 母親との握手が終わったら今度は僕……かと思いきや父親と手を繋ぎやがった。

 何を考えているんだこの女。

 僕と握手しないなら腕下ろそうかな。


「リフレ、元気でな。食べ過ぎで腹を壊すなよ」


「体調には気を付けてね」


「うん。お母さんとお父さんも体調に気を付けてね」


 何これ? 僕との別れは?

 なぜ親と挨拶をしている?

 まさかこいつ、家族のもとから離れるつもりなのか?


「おいリフレ、父さんと母さんも、何を言っているんだ」


「お兄ちゃんごめんね。私、ヘルゼスさんと一緒に旅をするって決めたの」


「えっ? いや、俺は何も聞いていないぞ。父さんと母さんは事前に話されたっぽいのに兄の俺は聞いてないぞ!? ダメだ旅なんて、俺は許さないぞ!」


「止められると思ったから話さなかったんだよ」


 再び僕の隣にリフレが歩いて来る。

 リフレの考えは分かった。昨夜の時点で家族との別れを決めていたんだろうね。同行予定の僕に何の相談もないのはどうかと思うが、今はただ嬉しい。また共に旅が出来ると考えただけで胸が温かくなる。


「本気か? せっかく故郷に帰れたのに」


「本気です。またよろしくお願いしますね、ヘルゼスさん。世界中の美味しい物を食べ歩きましょう! 未知の食べ物が私達を待っていますよ!」


「僕の目的は違うんだが、まあいい。今後もよろしく」


 僕とリフレは笑い合って握手を交わす。

 別れじゃない、友好の握手。


「認めない! 認めないぞおおおお!」


「おいみんなでリサイクを止めろ!」


 父であるデュースの掛け声により、集落の民総出でリサイクを押さえ込む。

 リサイクは暴れているが、さすがに多人数に掴まれては身動きが上手く取れないようだな。


「さあ今の内ですよヘルゼスさん!」


「まったく、慌ただしい出発だね」


「みんなあああ! 元気でねええええ!」


 リフレが走り出したので僕も並走する。

 集落はどんどん遠ざかり、人々の姿も見えなくなる。


「ちくしょおおおおおおお! また必ず帰って来いよおおおおお!」


 うおっ、かなり離れたのにリサイクの声が聞こえた。

 絶対納得していないな。旅の途中に〈扉〉を使ってリフレを会わせてやるか。


「ヘルゼスさん、次の目的地はどこですか?」


「もはやこの大陸に用はない。定期船で新たな大陸へと渡るぞ」


「新しい大陸、胸が躍りますね!」


 僕達は笑みを浮かべながら森を走り去る。

 森人族の暮らしを知る目的は達成したが、僕の知りたいことはなくならない。

 世界中に溢れる未知よ、待っていろ。

 必ず僕が知りに行く。









 ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

 キリがいいので完結にするか悩みましたが、まだ続けたい気持ちがあるので続けようと思います。ぶっちゃけ今回で終わるのが綺麗なので、こっからは番外編扱いにして書くつもりです。


 ※番外編は不定期更新。


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