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久方振りの故郷①


 オルシックという脅威を森から排除して2日が経過した。

 戦いの後、僕はリフレの実家に宿泊しながら森人族の生活を観察と体験で学んだ。森の中という開放的なようで閉鎖的な環境での生活、森人族の伝統的な習慣は僕に新たな刺激を与えてくれる。

 素晴らしい2日間だったと断言出来るね。


 彼等の暮らしは独特で少数民族のようなものだ。

 店がなければ職人すら居ない。衣類も料理も武器もそれぞれの家庭で作っている。性別関係なく家族で仕事をする彼等は、同じ集落に住む仲間と基本協力しない。畑や見回りは1つの家族ごとに担当区域があるらしい。僕も農作業を手伝った。森人族が手を取り合うことは滅多になく、それこそ集落の危機のみである。


 森人族は多くの者がベジタリアンだが狩りは行う。

 獣やモンスターの数減らしだ。放置すれば増殖して、集落が滅びに向かうと伝わっているらしい。森の恵みである木の実やキノコが奴等に食べられてしまうからな。


「今日も恵みを分け与えてくれた森神(もりがみ)様に感謝を」

「「「「感謝を」」」」


 僕達は目を閉じて、両手を合わせて祈る。

 これは食事前の挨拶だ。旅の途中リフレがやっているのを見たことがないが、必要な挨拶らしい。彼女曰く森に居なければ森神様に感謝の必要がないからやらなかったらしい。その理屈はどうなんだろうか。森神様とやらが実在していたら怒るだろ。


 さて、今日の食事はステーキ……と似た物がある。

 肉ではない。材料は豆だ畜生。

 豆を潰してペースト状にしたら形を整えて焼いていた。

 味は良い。味に文句はないさ。

 豆は栄養も豊富だしね。


「どうかしらヘルゼスさん。お口に合う?」


「とても美味しいですよ」


 でも、肉が食べたい。

 何の肉でもいいから食べたい。

 この森に入ってから肉を食べていないんだよ僕は。


「ヘルゼスさん、このまま森に移住したらどうだい? アンタになら娘を任せられる。妙な魚人を追い払ってくれたアンタが居ればみんな安心出来るしな」


「父さん何を言ってるんだ!」


「あら、私も賛成よ」


「母さんまで!?」


 どうでもいいけど本当に顔が似てるよなあ。

 テーブル右側にはリサイクとその父デュース。

 テーブル左側にはリフレとその母ユリ。

 横に並ばれると見分けが難しい。間違い探しか。


「おいヘルゼス! 妹はやらんぞ!」


 うるさいよシスコンお兄ちゃん。


「ありえないよお母さんお父さん。ヘルゼスさんだけは」


 どういう意味だおい。


「何を言っているんだリフレ! こんな素晴らしい男は他に居ないぞ!」

「そうよ。強いし、逞しいし、あと強いし」


「だってこの人、根っからの旅人だもん」


 僅かに自分の口角が上がった。

 本当に君は僕のことをよく理解してくれる。


「同じ場所には留まらず、未知を求めて次の場所へ行く。強く大きな好奇心が尽きるまで。そうですよねヘルゼスさん。もうすぐこの森を去るつもりでしょ?」


「ああ、僕は旅人だからな。明日には発とうと思う」


「そうですか……なら、仕方ありませんな」


「そうねえ。無理に止めるつもりはないわ」


 理解ある親だ。少し羨ましいな。


「ヘルゼス。最後にどこか見たい場所はあるか? あれば案内するが」


「いや、今日は森の外に用事がある。夜には帰るつもりだ」


「森の外?」


 まあ、疑問に思うよね。1度森の外に出るなんて。


「ちょっとした実験をやる。今日は放っておいてくれ」


 オルシックから奪ったことで僕の天能は以前より増えた。

 強い酸性の液体を出せる〈強酸〉。

 高火力の黒い炎を出せる〈獄炎〉。

 あらゆる経験を2倍にする〈経験倍化(EXP2)〉。

 使用した位置から離れても距離、方角を感じ取れる〈マーキング〉。

 この4つは僕が今まで持っていなかった天能だ。


 今回1番の収穫は〈マーキング〉かな。

 今はリフレの実家の位置を常に感じている。

 この力のおかげでどこへ行っても迷わず拠点に帰れるね。


 4つだけでもかなりのパワーアップだが、それだけではない。いくつかの天能を融合して新たな天能に変化させている。これこそ僕の〈スキルドミネート〉の真骨頂だろう。全てで11の天能を強化出来た。


 〈神速〉+〈神速〉→〈扉〉。

 〈気配察知〉+〈気配察知〉→〈真・気配察知〉。 

 〈硬化〉+〈硬化〉→〈真・硬化〉。

 〈鉱物食い(ミネラルイーター)〉+〈強化胃袋〉→(よろず)食い。

 〈軽量化〉+〈鈍重化(どんじゅうか)〉→〈重量操作〉。

 〈空気放出〉+〈空気放出〉→〈風流(ふうりゅう)〉。

 〈火炎吐息〉+〈火炎吐息〉→〈灼熱息(しゃくねつブレス)〉。

 〈幻術耐性〉+〈幻術耐性〉→〈幻術無効〉。

 〈熱耐性〉+〈熱耐性〉→〈炎熱無効〉。

 〈毒耐性〉+〈毒耐性〉→〈毒無効〉。

 〈電気耐性〉+〈電気耐性〉→ 〈電撃無効〉。


 融合で新たな天能に変わったのはいいが能力は謎だ。どういった力を秘めているのか予想は出来ても、実際に使ってみなければ分からない。天能を得た時点でどんな力か分かればいいのにな。


「リフレ」


 真剣な表情でリサイクがリフレを見つめる。


「今日がヘルゼスと共に居られる最後の日だ。別れの覚悟はしておけ」


「別れの、覚悟……そうだね」


 ……別れか。

 まだ旅に同行してほしい気持ちがあっても無理強いは出来ない。リフレはようやく故郷に帰れたんだ。この場所には血を分けた家族が居て、同じ森人族の仲間が多く居る。この場所に残った方が彼女にとって幸せだよなあ。


 参った、覚悟が必要なのは僕の方だね。

 旅には出会いと別れが付き纏うものだ。

 気持ちを切り替えろ、ヘルゼス・マークレイン。


 料理を食べる速度が上昇する。

 あっという間に食べ終わり、僕は森から出て行った。

 しなければいけない覚悟を後回しにして。



 * 



 森の外には森人族が居ない。

 他の人間も近寄らない森だから誰も来ない。

 天能の実験をするには丁度良い場所だね。

 まあ、実験と言っても今日試すのは1つだけだ。


 融合で生まれた天能は基本的に、素材となる天能の強化版である。だから秘めた力の方向性は理解出来る……はずなのだが、今回は1つだけ何も分からない天能が生まれてしまった。


 〈扉〉。これだけは本当に理解出来ていない。

 だって〈扉〉だぞ。何だよそれ。

 まさか〈神速〉2つの融合で〈扉〉が生まれるとは思わないだろ。速度強化系の天能が消えてショックだよ。てっきりさらに強力なものになると思ったのに。


 今まで〈神速〉には何度も助けられてきた。

 代わりに得た〈扉〉……よっぽど強力な天能なんだろうね。そうじゃなきゃ呪うぞオルシック。全部お前のせいだぞ。


 とりあえず1度使ってみるか。


「〈扉〉」


 おおっ、目の前に白い扉が出現したぞ!

 ……で? まさか、これだけ?


 ドアノブを回して開いてみたが、向こう側の景色が広がっているだけだ。どこかに繋がっているわけでもない。何だこの無意味な天能は。


 軽く叩いてみると頑丈なのは分かる。

 使い道は盾にするくらいじゃないか。

 ふざけるな。僕の〈神速〉を返せ。

 速度強化どころか移動と何の関係もないだろこれ。


 ……いや、待てよ。もっと冷静に考えろ。

 今までの天能融合の経験からして、素材の天能と大きく掛け離れた力にはならない。だからこの白い扉は速度強化か移動に関係した力を秘めているはず。この扉の真の力を特定するんだ。


 まずは扉を通ってみよう。

 扉を通ったら速度が強化されるのかも、と期待したが何も変わらない。


 参ったな。扉の使用方法なんて開けて通るくらいなもんだろうに。他に真の力を引き出す条件でもあるのかね。


 うーん、移動したい場所でも想像してみるか。

 とりあえず遠くにある小岩付近を想像して――変わった!


「なるほどね、そういうことか」


 扉から見える景色が急に変化した。

 僕が想像した小岩が目の前にある。

 試しに扉を通ってみれば、本当に小岩の前に移動出来た。そして、また扉を通ると元の場所に戻れた。


 これはつまり、想像した場所に行けるのが〈扉〉の真の性能!


「ふっ、素晴らしい力を手に入れたな」


 走って移動するのではなく、行きたい場所へ瞬間移動。

 これなら〈神速〉よりも便利だしね。


 能力は理解したが、もう少し実験してみよう。

 今のは視界に入る距離の移動だったから、次はもっと離れた場所を想像する。誰かに見られる心配がない場所。誰も居ない森人族の集落跡が良いな。


 想像すると白い扉から見える景色が変わる。

 よし、成功だ。実際に移動も出来る。


 じゃあ次の実験だ。僕がまだ行ったことのない場所への移動は可能か否か。

 想像するのは本で見たリゾート地。

 海、砂浜、高級宿屋、大勢の人々。

 ……ダメか。扉の向こうに広がる景色が変化しない。


 纏めると、この天能は既に僕が行ったことのある場所、実際に目で見た場所への瞬間移動が可能になる。戻りたい場所への移動は楽になるが、知らない場所への移動には役立たない。そこだけは残念だな。


 ……過去に行ったことのある場所、か。

 実験は終わりだが、もう1度〈扉〉を使おう。

 せっかく便利な力を手に入れたんだ。使わないのは勿体ない。


 想像するのは僕の故郷。

 山に囲まれた小さな村。

 妹と父が居る、僕の産まれた場所。

 さあ、久し振りに帰郷の時間だ。


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