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森の潜伏者③


「とりあえず、弓で攻撃してみてくれ」

「はい」


 リフレが弓で矢を飛ばす。

 謎のモンスター目掛けて直線状に飛んだ矢は紫の霧に突っ込む。

 キンッと音が鳴った。矢が弾かれたな。


 矢が刺さらないのは珍しくない。

 弓矢は遠距離で戦えるが威力は微妙だ。並のモンスター相手なら刺さるが、硬質な体を持つモンスターには通用しないのが常識。弓の性能、使用者の筋力や天能によってはその常識を覆せるけどね。リフレには無理だ。


 折り畳み式の弓は普通の弓より強度が落ちて、性能面では平凡未満。使用者となるリフレの筋力は高くない。天能も戦闘には使えない。冒険者ギルドではサードランクの討伐依頼達成が精一杯だろう。


「うわっ、弾かれちゃいました。すみません」


「想定内だよ。さて、奴も今ので僕達に気付いたぞ」


 謎のモンスターが立ち止まり、こちらに振り返った……と思う。

 紫の霧のせいで奴がどこを見ているのか分からないんだよね。

 厄介なのは霧だ。まずはあの霧を吹き飛ばそう。


 天能〈空気放出〉で両手から風を起こす。

 強風が紫の霧を吹き飛ばし、謎のモンスターの体が露わになった。

 全長3メートルはある大きな蜥蜴だ……少なくとも、形だけは。


「なっ!?」

「ひょえっ、気持ち悪っ!」


 目が顔の正面に4つ、側面に4つ。合計8つの赤い眼球。

 口から細く長い舌が垂れており、口内にはびっしりと小さな牙が生え揃っている。

 何より奇妙なのは体全体の色。紫、青、緑、黒、灰色と部位ごとに色が違うカラフルな体。さらに至る所に小さな穴が空いており、そこから紫の霧が絶え間なく放たれている。


 こんなモンスター、見たことがない。


「モリをケガすゾクめ」

「はっ?」

「え?」

「「喋った!?」」


 おいおい、モンスターが喋るなんて聞いたことないぞ。

 名前が必要だな。何が良いか。


「よし決めた。カラフル蜥蜴と命名しよう」


「名付けしてる場合ですか!?」


「名前は重要だろ。ギルドへ報告しやすくなるし」


 カラフル蜥蜴は口を大きく開ける。

 おっ、何かするつもりだな。攻撃か?

 カラフル蜥蜴は口から炎を吐き出し……炎!?

 何考えてるんだこのクソ蜥蜴、森の中だぞ!


 さっき森を穢す賊とか言ってたが、君は森を焼く賊じゃないか。言語を喋るから知能が高いのかと思いきや想像以下の知能。森で炎のブレスなんて吐いたらどうなるかも分からないとは。


 天能〈空気放出〉解除。

 そして〈炎操〉発動。


 蜥蜴が吐いた炎を操り蜥蜴を包む。

 自分の炎に焼かれるがいい。炎を扱うなら熱耐性があるから焼け死ぬことはないだろうが、少しはダメージを負わせられる。ここからどうするかが問題だ。早期決着を心掛けないと奴のせいで森が焼けかねない。


「モリから、デて、イ、け、ええぎゃぶわ!?」


 ――蜥蜴を包む炎が急激に膨れ上がった。

 爆発だ。おそらくあの紫の霧が原因か。

 咄嗟に炎を凝縮して被害を防げたから良かったものの、もし防げなかったらと思うとゾッとするね。森が火事になってしまう。範囲が広いと僕でも対処しきれず全焼してしまうからな。リフレの故郷が灰になったら合わせる顔がないよ。


「び、びっくりしましたね」


「ああ、急に爆発したからな。だが気を抜くな。敵はまだ生きて……」


 あれ? おかしいぞ、奴の気配が消失した。

 バカな、僕の〈気配察知〉から逃れたのか? いつ? 僕に気付かれずに〈気配察知〉圏内から逃れるとは驚かせてくれる。


「ヘルゼスさん。あそこに黒焦げの物体が落ちています」


「確かに。何だあれは、先程まで無かったはず」


「あの気持ち悪い蜥蜴じゃないんですか?」


「何を言う。自分の出した炎で死ぬ生物が居るわけ……」


 でも、気配消えてるしなあ。

 死んだとすれば辻褄は合うよなあ。


 それが真実だとしたら生物としてあり得ない。普通、炎を吐ける生物は熱に強い。自分の炎で焼死するはずがないんだ。間抜けすぎるだろそんな生物。


 黒焦げの物体へと慎重に近付く。

 あれが何か一応確かめなければならない。


「これは」


 間違いない。さっきの蜥蜴だ。

 なぜカラフル蜥蜴が黒焦げ蜥蜴に。

 まさか、本当に死んだのか? 自分の炎で?

 信じられない。何だったんだこの間抜け蜥蜴は。

 触れてみると炭化していた体がボロボロと崩れる。


「あー、久し振りのお肉が炭に」


「……食べるつもりだったのか?」


「冗談ですって。私でも食べませんって」


 本当に冗談か僕には判断出来ないんだよ。

 しかし、冗談か。事実なら冗談を言える余裕が心に生まれたってことだ。同じ集落で生活していた人間が生きているかもしれないと希望を持ったおかげだな。


「これからどうしましょう。避難通路を探しますよね?」


「いいや、避難通路は探さない」


「えっ……あー、まあ、従います」


 リフレが不満そうな顔をする。何か勘違いしてるな。


「避難通路は使わずに避難所へ行くのさ」


「い、いやいや、無理でしょうそんなこと」


「出来るんだよ。天能〈潜地(アースダイブ)〉を使えばね」


 かつて、スタードールトンネルで戦った巨大ミミズから奪った天能だ。土と一体化して地中を移動することが出来る。欠点としては地中だと自分の場所を把握出来ないくらいか。


「あー、あのミミズが使っていたやつ」


「これから僕が地中に潜り避難所を見つける。そこで避難通路も見つけるから、君は正規通路で行けばいいさ。すぐ見つけてくるから待っててくれ」


「はい。なるべく早めにお願いします。モンスターが襲ってきたら私1人じゃ倒せないかもしれませんし」


 確かに、さっきの蜥蜴にも矢が通じなかったしな。リフレ単身で残すのは危ないか。

 急ぐ必要があるね。


 天能〈潜地〉発動。

 僕の体が足から大地に沈んでいく。

 土が触れる感覚はない。

 障害物が何もない場所に来た感覚がある。

 土の中だから土以外に何も見えないな。

 これが一体化か。


 ……これ、どうやって移動するんだ?

 泳ぐように手足を動かしてみたが移動の感覚はない。一体化だからかな。水中を泳げば進んでいるのは分かるんだけどね。


 一旦地上に上がってみるか。

 泳いで進めたのか確かめてみよう。

 予想外だった。まさか進み方さえ分からないとは。


 この天能を使っていた巨大ミミズは素早く滑らかに移動していたってのに。移動のコツをご教授願いたいよ。殺しちゃったけども。


 ん? 足先から普通の感覚が戻っ……でっ!

 空気に触れる感覚が全身に戻り、尻に衝撃。

 どうやら僕は知らぬ間に落下していたらしい。もしかしたら僕は最初から落ち続けていたのかも。


 移動を認識出来ないのって想像以上に厄介だな。使いこなせれば便利な天能だと思うが僕にはセンスがないようだ。

 2度と〈潜地〉は使わない。隔離だ隔離。


「さて、ここはどこだ?」


 暗くても〈暗視〉により輪郭がはっきり見える。

 見たところ明かりもない地下通路か。

 地下に偶々ある空洞かと思ったが土はない。

 壁や天井をノックしてみると、木材を叩いた時のような音が鳴る。明らかに人工的に作られた通路だな。


 もしやここがリフレの言っていた避難通路か? だとすれば進めば避難所に辿り着くはず。


 走り出す。希望を信じて。

 無責任に僕がリフレへと希望を与えたんだ。あの集落の人間は避難所に避難して生きていると僕も信じたい。願望が現実か確かめたい。


 見えた。弱々しいオレンジの光。

 松明かランプを使っているな。

 徐々に光へ近付くと、広い空間へ繋がる出口が見える。


 確実に誰か居るぞ。

 天能を使わなくても分かる。

 知恵ある生命体が、人間があそこに居る。


 ――広い空間へ入った瞬間、2本の矢が飛来した。


「うおっ!? 弓か!」


 矢が両肩に刺さる前に両手で掴む。

 淡いオレンジの明かりが広がる殺風景な部屋で、左右それぞれに10人程度の人間が固まっている。その内、弓を持って構えているのは2人の男。他は怯えた様子で僕に目を向けている。


 服装は全員同じワンショルダーのワンピース。木の葉と似た翡翠(ひすい)色なのは、森の中で隠れやすいようにするためかな。なぜ右肩だけ露出しているのかは謎だが。


「ふっ、挨拶にしては随分と過激だな」


 まあ殺意はなかった。肩に矢が刺さっても人間死にはしないし、生かして話を聞こうとでもしたんだろう。怒りたいが今は抑える。正当な怒りかどうか彼等の事情を聞いてから判断しようじゃないか。


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