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森の潜伏者①

今回の投稿

3/8 森の潜伏者①

3/9 森の潜伏者②

3/10 森の潜伏者③

3/11 森の潜伏者④

3/12 森の潜伏者⑤

3/13 森の潜伏者⑥

3/14 森の潜伏者⑦








 遠くに広大な森林が見える。

 あれがエライド大陸最南端のハイルベル大森林。


 国に整備された道は途切れていた。誰も近寄らないから整備する必要はないんだろう。事前に集めた情報だと、ハイルベル大森林に向かった者は行方不明になるらしい。捜索隊すら帰って来ないからもう誰も近寄らないのだとか。


 なぜか足が止まる。

 恐怖? いや、これは違う。


「どうしたんですかヘルゼスさん」


 僕の前に出た旅仲間が大きな空色の瞳を向けて来る。

 磨かれた鉄のように美しい銀髪。健康的な白い肌。髪で隠れているが僕よりも長く尖った耳。大きく膨らんだ胸。普段大食いなのに細い腰に腕と脚。素晴らしいと多くの人間に絶賛される美貌を持った、僕の友達。


「すまない、何でもない」


「そうですか? ならいいですけど」


 旅仲間のリフレは再び歩き出し、僕も続く。

 足が重い。これは、不安だ。


 僕達が今向かっているハイルベル大森林は森人族の住処となっている、はずである。情報筋は一応信用している。滅ぼすためとはいえ、森人族に強い感情を抱いていた者からの情報だ。疑ってはいない。……疑わないからこそ、不安が胸に染み込む。


 僕の心を覗ける奴が居たら笑うだろうか。

 森人族の国へ行くのは旅の大きな目的だ。

 ずっと目指していた場所が見えてきたというのに、僕の心には嬉しさの他に不安と寂しさが存在していた。笑えない。リフレの故郷の森が見えてきたってのに。


 リフレが僕に同行する理由は帰郷のためだ。

 この2人旅は目的地に到着したら終わる。

 森人族の国を出る時、僕は1人に戻る。


 自由気ままな1人旅は嫌いじゃない。

 元々は1人だったんだし、戻るだけだ。

 それは悪くないが、賑やかな2人旅に慣れた僕じゃ、1人は少し退屈になりそうで不安なんだよな。


 はあ、バカか僕は。

 どうしようもないことで悩むな。

 いつか終わりが来ることは分かっていた。


 考えちゃダメだ。

 あの森に、誰も居なければいいなんて。

 情報が古いか間違っていればいいなんて。

 考えたら、ダメなんだ。


「ヘルゼスさん。あの森が私の故郷なんですよね」


 いつの間にか大森林との距離が縮んでいた。

 あと200メートル近く歩けば森に入れる。


「そのはずだが、見覚えないのか?」


「まあ森を外から見たことがないですしね。見えたら帰れてます。だから、あそこが故郷と言われても実感は湧きませんよ。森の中に懐かしい物でもあれば実感が湧くでしょうけど」


「君が住んでいた場所と家族が見つかればいいな」


「はい。みんな元気だといいなあ」


 僕達はハイルベル大森林へと足を踏み入れた。

 木々の葉で日光は殆ど入らず夜のようだ。意外なのはシャインキノコが多く生えていたことだね。明るい場所ではただの青いキノコだが、暗い場所では青白く発光して光源となってくれる便利キノコ。それのおかげで探索はしやすい。


「あー、シャインキノコ懐かしいですねー。不味いんですよこれ」


 こいつ本当に何でも食べるな。

 光るキノコなんて見ても食欲湧かないだろ。


「食べても害はないが食用向きじゃないからな」


「やっぱり私の故郷っぽいですねー、この森」


 エライド大陸の森はここで最後だしな。

 確かリフレは9年前、見知らぬ獣を追っているうちに森を出た挙句、迷って帰れなくなったんだったな。実際森に入ると分かるが迷いやすい構造をしている。


 森内部の地図はないし、特徴的な道標もない。特定の場所へ行くなんて出来そうにないぞ。リフレが住んでいた場所にちゃんと辿り着けるだろうか。


 そういえば行方不明者が出ているんだっけ。

 行方不明と聞くとヴァンパイアを思い出す。この森にも伝説的な何かが居て人間を捕らえているのか、それとも人間が迷って帰れなくなったのか。こんなこと考えたくないが森人族に殺された可能性もある。


「うーん、どう進めばいいのか分かりませんね」


「闇雲に歩いても迷うだけだ。まずは森の左側を探索するぞ」


 早く家族に会わせてやりたいが、森の地図がないんじゃ現在地も目的地も把握出来ない。地道に歩いて探すしかないね。


 早くと言うなら〈神速〉を使えばいいのにと思われるかもしれないが、残念ながらこの森で〈神速〉は使えない。正確には使いづらい。この森には整備された道がないからね。木々の距離が近いせいで、高速移動したら樹に衝突する可能性がある。


「――あっ、集落発見!」


 しばらく歩いてようやく人が居そうな場所が見つかった。

 木材で造られた家がいくつも建っている。


 森人族が住む家は木製かあ。森を守る種族でも木を切り倒すんだな。勝手なイメージで木を傷付けないと思っていたんだが。


「おーい、誰か居ませんかあ!」


 ……妙だ。静かすぎる。人の気配もない。


「誰も居ないんじゃないか?」


「まさか……みんな仲良くお出掛け?」


「そうだったら良いがな。可能性は低いと思うぞ」


 今気付いたが、争った形跡らしきものが地面にある。

 地面が妙に削れていたり、矢が落ちていた。矢は民家に刺さっているものもある。明らかに森人族と何かが争った痕跡だ。獣かモンスターとでも戦ったのか、或いは……。


 何にせよ、この集落の森人族が見当たらないということは避難したのか、それとも皆殺しにされたかだろう。そんなことを考えながら集落内を歩いていると白骨死体が目に入った。


「おい、これを見ろ。人骨だ」


「ほ、骨!? なんでそんなものが地面に……」


 骨に傷はない。獣やモンスターに殺されたにしては綺麗に残っている。まあ、肉体がどんな状態だったかまでは分からないし、もしかしたら肉体だけ派手に損傷していたのかもしれない。専門家じゃない僕じゃ、骨を見ただけで死因は分からないしな。


 分かることといえば1つだけ。

 ここで起きた戦いは激しくなかったはずだ。

 争いの痕跡は残ってはいるが少ない。

 地面も民家も傷が少ない。矢が刺さっている民家もあるとはいえ本数は少ない。察するに戦いは短時間で終わったんだろう。


「確認するが、ここは君が住んでいた集落か?」


「たぶん違います。民家の配置が違う気がします」


 リフレが自信を持って断言しない。

 自分の集落ではないと信じたいだけだな。


 集落内の探索を続けよう。

 襲った何かの正体を突き止める手掛かりが残されているかもしれない。外に残されたのはいくつかの綺麗な白骨死体、地面と民家の傷のみ。民家の中には他の情報が存在するかもしれないし中を調べよう。


 傍の民家の扉を開ける。

 鍵がない。不用心だね。


 民家の中に傷はなかった。

 しかし、木製皿や木製コップが床に落ちていたり、椅子が倒れていたりと荒れている。民家の中でも争いがあったと見て間違いない。なんせ床に白骨死体が転がっているしね。


「……家の中にも、か」


「あわわわわわわ。み、みんな死んでる。なんで」


「殺されたのは間違いない。相手の正体は不明だが」


 正体は不明でもヒントはある。

 民家の中に白骨死体があるってことは中で家主が死んでいる。内側の壁は壊されていない。民家の出入り口は玄関の扉のみ。つまり、犯人は家を壊さず中へ入れる体格だ。


 ……人間とか。


 知能の低いモンスターや猛獣なら民家の壁や天井を破壊する。律儀に玄関から入るのは人間くらいなものだ。


 ラストラ以外で森人族を恨む人間が存在して、居場所を突き止めて襲撃したってのか? いや、襲う理由が恨み憎しみだけとは限らない。森人族は森に隠れ住んでいるから滅多に姿を見られず、存在自体が珍しい。奴隷商人に売れば大金になる。リフレの奴隷の頃の値段を考えれば、1人だけでも売れば一生遊んで暮らせる値が付く。


 くそっ、森人族は狙われる理由が多すぎる。敵の正体の絞り込みが上手くいかないな。


 とりあえず、白骨死体から天能を奪っておこう。

 君の無念は晴らしてやるから役立つ力を僕にくれよ。敵を特定出来る天能なら嬉しいんだが、どうかな。可能性は薄いと分かっていても期待してしまう。


 天能〈スキルドミネート〉発動。


「うん?」


 天能〈スキルドミネート〉発動!


「くっ」


 発動発動発動発動発動発動発動!


「バカな、天能を奪えない!? なぜ!」


「いやちょっと待ってください。天能集めしている場合ですか今」


 何も奪えない。こんなことは初めてだ。

 この白骨死体だけなのか、他の死体も同じなのか気になる。確かめるべきだな。死者の天能が欲しいからじゃない。もし集落で見つかる白骨死体全てから天能が奪えないのなら貴重な共通点となる。


「もしかしたら、天能集めをする場合なのかもしれないぞ」


 集落全体を見て回り、白骨死体を見つけては〈スキルドミネート〉を試した。

 結果、どの白骨死体からも天能を奪えなかった。

 最初に奪えなかったのは偶然じゃない、必然だったんだ。


「どうです。何か良い天能でも奪えましたか、私の同胞から」


「いいや、何も」


「……最低限、時と場所は考えてほしいです。私と同じ森人族が皆殺しにされているんですよ? 故郷の集落に居た家族、それ以外の人達も心配です。早く帰らないと」


「まあ話を聞け。天能は奪えなかったんだ。良い悪い以前の問題さ、1つも奪えない。今までは骸骨からも奪えたことから、おかしいのは彼等の白骨死体だ。無いんだよ、天能が。何も残されていない。こんなことは初めてさ」


「時間が経って消えちゃったんじゃないですかね」


「そこまでの時間は経過していないはずだ」


 時間経過で天能は消える。もし消えなければ、僕は過去に生命体が死んだ場所から天能を回収仕放題だ。世界が始まってから今までにどれ程の生命体が息絶えたか、数えられる奴は居ないだろう。時間経過で天能が消えなきゃおかしいんだ。


 いつ天能が消えるのかは分からない。だが、実験したことがある。骨が残っているうちは天能も傍に残っている。これは間違いない。


「根拠無き予想だが、彼等の天能は既に奪われている。彼等を殺した者によって」


「そっ、そんな、ヘルゼスさん以外にそんなこと出来る人が居るんですか!?」


「居てもおかしくはないさ」


 世界は広く、生命体の数も膨大だ。

 僕の〈スキルドミネート〉と似た力を持つ何かが居ても不思議じゃないだろう。


 敵は人間か普通の獣か、或いはモンスターと呼ぶべき化け物か。

 未だ不明なことは多いが目的は恐らく他者の天能の強奪。


 不謹慎だが、やはり思ってしまう。

 ……面白いと。


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