前世への恩返し③
さて、話は綺麗に纏まった気がするんだが。
「ラストラ。君はグリーディアに会いに来たんだよな? 残念ながら彼女は居ない。君の用事もなくなったんじゃないか?」
微笑むラストラは水色のジュースを少し飲む。
所作も容姿も美しく、他の席や砂浜から男達の視線を集めている。
「確かに私はグリーディアに会いに来たんだけど、正確には転生したグリーディアに会いに来たのよ。つまりヘルゼス・マークレイン、あなたに会いたかったってわけ」
「何の目的で?」
「さっき言ったけど、グリーディアには不老にしてもらった恩があるの。生前の彼女に恩を返そうとしたんだけど保留にされちゃってねえ。転生後に返してって言われたのよ。だからあなたに恩を返すわ」
僕の前世への恩返し、ね。
まあ断る理由はない。有害な物以外なら貰ってやる。でも、ラストラに何が出来て何が出来ないのか分からない。恩返しとは簡単に言うが、僕が喜ぶようなことが出来るのかね。
「恩を返すとは言うが、何をしてくれるんだ?」
「私は今、モーバン大陸にあるオルメン王国の女王なの。財力も情報も多く持っているわ。あなたの欲するものをきっと用意出来る。……ああ、私と1夜過ごすってのもアリよ。最高の快楽を味あわせてあげる」
ラストラが女王だって?
記録によれば、かつて彼女は1つの国を乗っ取ったとされている。王族に嫁入りし、内側から侵略し、女性を全員追放した。その国は5年も経たず滅んだとか。そんな大罪人が女王ってオルメン王国は大丈夫なのか。今日とか明日に滅んでもおかしくないぞ。
しかし、彼女が色々と持っているのは理解した。
金。情報。名声。ついでに自分が絶対の自信を持つ肉体。これだけ多くを持っていれば出来ることは多い。
「世界で1番美味しい食べ物」
黙れリフレ。小声で囁くな。
食べ物なんて旅を続ければ自力で手に入れられる。情報なら貰ってもいいが、食べ物の情報だけでチャンスを終わらせるのは勿体ない。もっと簡単には手に入らない何かを要求するべきだ。
喫茶店から海に浮かぶ漁船が目に入る。
船、船か、船って良いよな。
他の大陸へ行く時は定期船を使うつもりだったが、自分の船で世界を旅することが出来たら最高だね。世界には船でしか行けない場所も多く存在する。最悪泳いで行くけど、船があれば移動は楽になる。
……でも、今の目的は森人族の国探しか。
知っている可能性は薄いが訊いてみよう。
「森人族の国がどこにあるのか教えてほしいね」
露骨に残念そうな顔をするなリフレ。
「……森人族ねえ。理由は、聞かなくてもいいわね」
「知らなければ、世界で1番美味しい食べ物を教えてくれ」
なんとなく、仲間の望みを叶えてやった。
リフレが今度は満面の笑みを浮かばせる。
故郷よりも食べ物か。君らしいとは思うが。
「森人族の住処ならいくつか把握しているわ。このエライド大陸にも存在するわね。あいつら隠れるのは上手いけど住処は滅多に変えないし、たぶん今も同じ森に住んでいるんじゃないかしら」
知っていたのは良い誤算だ。
伊達に長生きしていない。
「驚いたよ。まさか知っているとは」
「ふふ、彼女の前で言うのは失礼だけど、嫌いなのよ森人族。根絶やしにしてやろうと思ったこともあるの」
「へっ?」
「何?」
根絶やしって……穏やかじゃないな。
考えたくないが、森人族の住処を知っていたのは調査したからか。根絶やしにするためだけに。思ったこともあるって過去形の言葉だから、今はそんな物騒なこと考えていないんだろうが。
「まあ、今は滅ぼそうとは思ってないわ。嫌いなのは変わらないけどね」
「なぜ森人族を嫌うんだ?」
「だってあいつら、美形でしょ?」
「は? それは、そうだな」
森人族は人類で最も顔の造形が美しい。
リフレを見れば分かることだ。おそらく美容に一切気を遣っていないにもかかわらず、僕が今まで目にした女性で1番美しいからな。完成された造形だと思う。
「美形、長寿、しかも若い容姿の時間が長い。ズルいでしょ。純人の中で最も美しい私でさえ、あいつらの美しさを超えられないの。種族の差は残酷だわ。あいつらさえこの世から消えればと何度思ったことか」
強い殺気がラストラから漏れ出る。
笑みは消え、近寄る者全てを潰しそうな顔になった。
「あわわわわわわわわわわわわ」
青い顔になったリフレが怯えてしまう。
止めてほしいね、怖がらせるのは。
怯えるリフレを見たラストラはしばらくして笑った。
「安心してね。さっきも言ったけど今は滅ぼそうなんて思ってない。長く生きていると妥協を覚えるものだわ。あいつらが森に隠れ住んでいるうちは何もしないと決めたの。あなたは……特別に許してあげるわ」
「ほっ、良かったです」
良くはないだろ。リフレは理解が浅い。
裏を返せば森人族が森から出たら滅ぼすと言っているんだぞ。貴重な種族を滅ぼされたらたまったもんじゃない。ラストラは怒らせない方がいいな。
「エライド大陸の地図は持ってる?」
「ああ」
「なら貸して。あいつらの住処に印を付けてあげる」
「分かった。ありがとう」
地図をラストラに渡すと森に丸印を付けてくれた。
ここに森人族が居るのか。他人の情報を頼りにしてしまったが、今は知ったことを喜ぼう。旅の大きな目的を達成する寸前まで来ることが出来たんだからな。
「さて、恩は返せたし、私は自分の国に戻るわね」
席から立ち上がったラストラは領収書を持つ。
「おいおい、情報をくれたうえ奢ってくれるのか?」
「言ったでしょ。グリーディアへの恩返しよ。ああそうだ、1つ忠告してあげる。あの子の転生体としてあなたは様々な災いに遭遇する。特に注意すべきは他の五罪。アトラゼオンとオルシック、この2人には気を付けなさい。異常者よ」
「ご忠告どうも。注意しておこう」
ラストラは受付で会計して去って行った。
様々な災い、ね。望むところだ。僕の人生を面白くしてくれそうじゃないか。
「リフレ、僕達も行くぞ。目指すは」
「森人族の国、ですよね!」
「ああ」
目指すは地図で丸印が書かれた森。
エライド大陸最南端のハイルベル大森林。




