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前世への恩返し②


「久し振りねえグリーディア。元気そうで何より」


「……グリーディア? 僕はヘルゼス・マークレインだが」


 人違いなのか? リフレも困惑している。

 桃色髪の女は吹き出すように笑う。


「はっはっはっは! 分からないの? ふぷっ、記憶吹っ飛んでるじゃなーい! まあいっか。じゃ、初めましてね。私はラストラ。グリーディアの友人だったの。本当に分からない?」


 何なんだこの女は。頭おかしいぞ。

 とりあえずリフレの隣の席へと腰を下ろす。


「ヘルゼスさん、まさか……ヘルゼスは偽名!?」


 おっと、頭がおかしいのが隣にも居たか。


「そんなわけないだろ。だが、グリーディアって名前は知っている。ついでにラストラという名前もな。偽名の可能性があるのは彼女の方だよ。故人の名前だからね」


 遥か昔、800年以上も前。

 五罪(フィフス・シン)と呼ばれた5人の罪人が居た。

 傾国傾城(けいこくけいせい)。ラストラ。

 獅子奮迅(ししふんじん)。アトラゼオン。

 四百四病(しひゃくしびょう)。オルシック。

 鯨飲馬食(げいいんばしょく)。グラトン。

 無限好奇(むげんこうき)。グリーディア。


 ノレッジーンスクールで読んだ本に書かれていたことだ。

 膨大な罪を抱えた5人の人間は強く、個でも国でもその罪を裁けなかった。しかし人間であることは変わらない。800年前の人間ならとっくに寿命を迎えているはず。人間5種族の中で最も長寿な森人族でさえ、平均寿命は300年なんだぞ。


 ……死んでいる、はずだ。

 しかし、本に載っていた肖像画と目の前の女が似すぎている。顔の造形、髪色、性別、名前が同じ人間が偶然生まれるか? 子孫だとしても可能性は限りなく低い。


「へえー、それは知ってるんだねえ」


「本で知識を蓄えたからな。五罪(フィフス・シン)、ラストラのことなら知っている。800年以上も前の人間だ、生きているわけがない。君がラストラの子孫だと言うなら納得出来るがね。同じ五罪(フィフス・シン)、グリーディアの友人と宣うなら本人を自称しているんだろう」


「本か。じゃあ、本には載っていない知識を教えてあげるわ。実は五罪(フィフス・シン)って今も生きているのよねえ。あ、グリーディアは除いてかしら」


「バカな、生きているわけが……」


 待て、噓と断言するのは簡単だ。常識から考えれば生きているわけがない。それでも、人間の常識を破っていたら、目前の女の言うことが真実だとしたら、ラストラの肖像画と酷似していて当然だ。本人なのだから。


「……信じるとして、君は不老不死だとでも?」


「不死じゃないわ、不老ってだけ。便利な体でしょう」


「へー、ずっと綺麗なままなんて羨ましいなあ」


 良いなあ、何も考えずに納得出来る脳って。


「どうやって不老になったか説明出来るのか?」


 元々不老だったってのはありえない。

 産まれた時から不老だったら赤子から成長出来ない。ラストラは若々しいが20代後半から30代前半の年齢だろう。不老が真実なら後天的にその特性を得たことになる。


「無理。私を不老にしてくれたのはグリーディアだから、彼女しか方法を知らない」


「さっき五罪(フィフス・シン)はグリーディアを除き生きていると言ったな。ではグリーディアを除いた4人は不老というわけか。それならなぜ、グリーディアは生きていない?」


「だってあの人、不老にならなかったんだもの。不老とは別の秘術を試すって言っていたわ。転生よ。記憶を保持したまま新たな生命として生まれ変わること」


 転生だと? またぶっ飛んだ話が出たな。


「はえー、凄いですねー」


 凄いのは話を受け入れられる君の脳だ。


「じゃあグリーディアは今、何かに生まれ変わっていると?」


「ええ。あなたに」


 ……は? 僕に、だと?


「……は? 僕に、だと?」


 あまりの驚きに心の声がそのまま出た。


「でも失敗したみたいねえ。転生自体は出来ても、記憶は引き継がれていない。引き継がれたものと言えば好奇心くらいじゃないかしら。あなたの話はそこのリフレちゃんから聞いたわ。好奇心の怪物なんですってね。グリーディアと同じで」


 僕の好奇心が、引き継がれたものだって?

 確かにグリーディアは好奇心旺盛だったらしい。自分が気になることのためなら人道から外れる行動も躊躇せずやったとか。法も人道も無視し続けた彼女は大罪人と呼ばれるようになった。僕も同じだってのか? そんな大罪人と?


 バカげている。だが、否定出来ない。

 僕に転生したという話に納得してしまったから。

 証拠は僕の天能〈スキルドミネート〉。


 本から得られる情報だと、グリーディアが持つ天能も僕と同じもの。同じ天能だと知った時、真っ先に遺伝を考えた。僕は彼女の子孫なのではないかと思った。しかし違う。同じ魂なら同じ天能を持っていても不思議じゃない。当然だと思える。


「へえー、その人も好奇心で暴走していたんですね」


「ええ。グリーディアには好奇心しかなかったわ。知りたいことのためなら悍ましい実験も平気で行う。罪だって平然と犯す。人間すら実験動物扱い。知識欲が人間の形をしているってのが的確な表現ね」


 ラストラはグリーディアの実験を語る。

 他種族やモンスターとの子供を産めるか。

 人間が人間を食べた時の体の反応。

 モンスターの赤子を育てて人類の味方に出来るかどうか。


 その他にも様々な内容を語られた。ラストラの言う通り聞くだけで不快に思うものばかりだ。しかも自分では実験せず、他人を使って実験するから質が悪い。大罪人と呼ばれて当然の極悪人じゃないか。そんな人間と僕が同じ、なのか。


「あー、じゃあヘルゼスさんとは違いますね」


 違う? 思わずリフレの顔を見る。


「だってヘルゼスさんは実験で他人を使いませんもん。何か試すなら自分で試す大馬鹿なので、そのグリーディアって人とは全然違いますよ」


「あらそうなの? じゃあ、もっとバカになっちゃったのねえ」


「まあ、そんなヘルゼスさんだから大好き友達なんです」


 ……ふっ、僕が大馬鹿か。その通りかもしれない。

 考えれば分かることじゃないか。

 僕とグリーディアは違う。

 僕の好奇心は、僕だけのものだ。


 僕とグリーディアは似ているようで似ていない。強い好奇心を持っているのは同じでも、人間として大事な物を彼女は失っている。僕はこれからも失わない。


「ふっ、はっはっはっは!」


「うわどうしたんですかヘルゼスさん」


「ああいや、すまない。何でもないんだ」


「何でもないのに笑わないでくださいよ。怖いから」


 まさか、リフレに心を支えられる日が来るとはな。


「まあ、そういうわけだラストラ。僕とグリーディアは別人で、好奇心も僕の物。僕の前世が彼女だとしても影響は受けない。僕は僕なんだからな」


「うんうん、そうよねえ」


 わざわざ会いに来たラストラには申し訳ないが、もうグリーディアは存在しない。皮肉だな。グリーディアは自分の好奇心で自滅したようなものだ。僕もそうなる可能性はあるが、友人に悲しい想いをさせないようにしないとね。



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