前世への恩返し①
今回の投稿
2/8 前世への恩返し①
2/9 前世への恩返し②
2/10 前世への恩返し③
学園都市スペルディオから南東にある漁村、ハマイエ。
漁村だから船が何隻もある。他の大陸へ渡る定期船もこの村から出ているらしい。小さな村だが定期船のおかげか人通りはかなり多いな。
「船で他の大陸へ渡るんですか?」
隣を歩くリフレが定期船を眺めながら口を開く。
大きな船だ。数え切れない程多くの人間が乗り込んでいる。
「いいや、いつかは定期船で他の大陸へ渡るけどね。今じゃない」
このエライド大陸をまだ冒険しきっていない。
他の大陸へ渡るのは、エライド大陸を隅々まで見て回ってからだ。端から端まで見れば、きっと森人族の住む森を発見出来る。確信している。
なぜなら、リフレは船に乗ったことがないからだ。乗船経験がないということは、エライド大陸内に住んでいた証明になる。リフレの故郷、森人族の住む森は必ずエライド大陸内に存在するわけだ。
まあ、探すのは森人族の国だけじゃない。
面白いことも探す。エライド大陸にはまだ面白いことが残っているはずだ。その内の1つがここ、ハマイエにある。
「この漁村、ハマイエには別件で寄った。ノレッジーンスクールで面白い本を読んでね。ハマイエの近くに黄金都市が沈んでいるらしいんだ。それを見てみたい」
「黄金都市!? あれ、でも沈んでいるって?」
「長い年月で海の水位が上昇して、今や黄金都市も海中さ。潜水しなきゃ観光も出来やしない。迷惑な話だよ。計算上、いつか今の地上も海に沈む時が来るそうだぞ」
何万年、何億年と先の話だが。
「はえー。海中……ってことは、どうやって行くんですか? まさか息を止めてなんて言わないですんやよよね? 私、息止めるの40秒が限界です」
「息を止める? 寧ろ逆さ、息をする。新たな天能でね」
モンスターの死体相手に天能収集は続けている。
天能〈呼吸〉。シンプルな名前だが効果は素晴らしい。呼吸が出来るのだ。地上では出来て当然だが、なんと水中や真空状態でも呼吸が出来る。いつだったか、2足歩行するカエル型モンスターのフロッグマンから奪ったものだ。腹に2つ目の顔があるから不気味だったな。
説明するとリフレは「なるほどー」と納得する。
「あれ? じゃあ、私は?」
「当然この村に居残りだ」
「ええ!? 私も黄金都市見たいのに!」
なんだ、興味あったのか。
黄金に興味があるとは意外だな。
こいつの場合、金や宝石よりも食べ物というイメージだったんだが。
「黄金を売ったら大金を得て、お店で料理食べ放題なのに」
結局食欲じゃないか。イメージ通りだ。
黄金を売ったら、ね。どうやらこいつは勘違いしているらしい。
「残念だが黄金都市に行っても黄金は取れないぞ。建物や道路が金に塗られたり、黄金で造られた場所もあるから黄金都市とは言うが、栄えていたのは遥か昔の話だ。黄金なんて今じゃ盗賊などに取り尽くされ、無くなったに決まっているだろ」
黄金都市が黄金を失えばただの都市。
今は海中に沈む廃墟だ。
「えー、じゃあ海に沈んだ普通の町じゃないですか。黄金が無いなら行っても無意味ですよ。何が面白くてそんな場所に行きたいんです?」
「昔の建造物ってだけで価値があるものさ」
「はあ。まあ、楽しんでください。私は魚を食べて待ちます」
「ああ。1人で寛いでいてくれ」
リフレには退屈だろうし、そもそも僕しか海中に行けないしな。
リフレと別れてからハマイエの服屋へ行き、濡れても構わない服を買う。水着だ。撥水性に優れた水着と普通の服では、水中での動きやすさに差が出るからな。着られれば何でもいいし、傍にある紺のハーフパンツタイプの水着を買った。
早速試着室で水着に着替え、砂浜へと向かう。
ハマイエの砂浜は2つのエリアに分けられる。
漁船や定期船が通るビジネスエリア。
海水浴や砂遊びを楽しめる遊地エリア。
僕は後者の遊地エリアに行って海へと足を踏み入れる。
「よし、潜るか」
海へ入るのは今回が初めてだ。
暖かい海水の中を普通に歩いて進む。泳ぐ必要は無い。目的地の黄金都市は海底にあるんだから、海底をひたすら歩いて進めばいいのだ。
おっ、魚の群れが泳いでいる。
海中を優雅に、動きを揃えて泳ぐ姿は美しい。地上と海中じゃこんなに違うのか。地上では魚なんてピチピチ跳ねて死ぬのにな。海という広いホームでは魚も絶景に早変わりか。
まあ僕が進むのは海底だから陽光が徐々に届かなり、暗くなっていく。……と本来なら絶景とお別れになるところだが、天能〈視界確保〉を発動させれば明るさも昼の地上と変わらない。
それにしても不思議な感覚だ。
今僕は、水中で呼吸をしている。
鼻と口で水を吸い込もうとしても体内に侵入して来ない。入って来るのはどこに存在していたのか空気のみ。酸素だけでなく、おそらく窒素やら水素やらの量も地上の空気と変わらない。
本当に不思議なんだが、僕はどこから空気を吸っているんだろう。天能は本当に常識を覆す力ばかりだ。水中での呼吸もだが、人間が火を吹いたり、異次元空間を自在に開いたり、光が無くても明るく見えたり、いったいどういう仕組みなのか気になるよなあ。作成者と話をしてみたいよ。
「見えてきた……って、普通に喋れるし」
海底には似合わない広大な廃墟。
本に書かれていた通り、都市が海に沈んでいた。
アーチ状の看板がある。入口はあそこか。看板に書かれている文字は古代文字でヤーマ。本に書かれた黄金都市の名前と同じだ。ボロボロな状態だけど看板が残っていてくれて良かったな。
この黄金都市ヤーマが存在したのは古の時代。
今は人類が年を数え始めてから1690年目と言われている。古代は年を数えたり記録する習慣がないので、少なくとも1690年以上は昔の都市だ。海に沈んでいることを考えれば実際はもっと昔だろう。
それだけの時間が経てば、海流や海洋生物の影響で崩壊した場所も多い。看板が読める程度に原型を保っていたのは運が良かったね。
荒れ果てた町に入ると、入口近くの家から長い体を持つ魚が出て来た。家は扉も屋根も崩壊し、壁だって半壊状態。どこからでも入れるし、どこからでも出られる。急に魚が出て来てもおかしくないな。
リフレにも言ったが、やはり黄金はない。
かつては建物すら黄金に塗られていたと本で読んだんだが、盗まれてしまったのか。
地上に残っていた頃は盗賊に盗まれ、海に沈んだ後は誰かにサルベージでもされたのかね。家の中も見たが家具すら残っていない。誰かに取り尽くされている。
半壊した建物しか残っていないんじゃ、僕が求める情報は手に入らないな。古代人の生活や技術、古代の情報でも見つかれば良かったんだがなあ。
残念だが仕方ないか。
時が流れすぎている。
町は見て回ったし地上へ戻ろう。
ハマイエの砂浜に上がってリフレを捜す。
彼女のことだから料理店に居るだろう。腹が空いたし僕も何か食べたくなってきた。
お、居た居た。飲食店のテラス席に。
あれ、妙だな。1人じゃないぞ。
対面座席に見たことのない女が座っている。桃色の長髪、スタイルは良く、豊満な胸が半分しか隠れない露出度の高い服を着ている。おまけに顔もリフレに負けず劣らず美しい。
笑顔でリフレと話しているが何者だいったい。
僕に気付いて軽く手を振って来る。
知り合いでもないのに馴れ馴れしいな。
「おい、その女は誰だリフレ。知り合いか?」
声に反応してリフレが振り返る。
「え、ヘルゼスさんの友達じゃないんですか?」
「何? 知らないぞ」
僕の友人を名乗ってリフレに接触した?
何が目的なんだ、この女。
僕に恨みを持つ誰かの差し金かもしれない。好き勝手に生きてきたからな、誰かの恨みや怒りを買っていてもおかしくない。そもそも人間なんて生きていれば誰かしらの怒りを買う生物だ。僕が他の人間より多いってだけで。




