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危険な部族①

今回の投稿予定

1/18 危険な部族①

1/19 危険な部族②









 学問都市スペルディオから南西の森。

 日の光があまり遮られないから明るい森だ。モンスターとの遭遇が少ない以外は特に珍しいことはない。ピクニックで森へ行くなら丁度いい場所だな。


「む、あれは」


 木陰に気になる物を見つけた。

 傍へ近寄って屈み、影の部分を注視する。

 やはり、小さな黒いキノコが生えている。

 この色、そして網目模様、あのキノコで間違いない。


 旅仲間のリフレもキノコに興味を持ったのか隣で屈む。


「キノコですね」


「ああ、デスダケという毒キノコだ。触れるなよ」


「知っているんですか?」


「ノレッジーンスクールで多くの知識を学んだからな。デスダケは触れただけで死ぬ猛毒を持つ。触れた場所から体が溶けていくらしいぞ」


 しかも不思議なことに、猛毒で溶けるのは動物だけなんだよな。植物や地面には一切影響がない。だから森に生えることが出来る。森にとっては安全を守る天然の罠になってくれる。


「怖いですって早く離れましょうよ! 何マジマジ見てるんですか!」


「本物見たのは初めてだからじっくり見たいだろ」


「触れたら死ぬのに!? 危険度マックスなのに!?」


 逆に言えば触らなきゃ死なないだろ。

 あ、言い忘れていたが、デスダケは傷付けたら動物だけに有効な毒ガスを出すんだよな。まあ言わなくてもいいか。リフレは怯えてデスダケから離れたし。


「よし、先へ進むか」


 十分にデスダケを見てから立ち上がる。


「しかし残念だ。毒キノコがあるということは」


「ええ、この森に森人族は居ませんね」


「また空振りか。代わりに何か面白いことが起きればいいんだが」


 リフレによれば森人族は毒キノコが生える森に住まない。清らかな森でのみ暮らし、清潔を維持する種族だかららしい。デスダケを発見した時点で、この森で森人族に出会える可能性はゼロになったわけだ。


「いやー、森って退屈ですねー。木しかないし」


「森人族の君が言っちゃいけない言葉だと思うぞ」


 しばらく森を歩いたが面白い物は何も見当たらない。

 ただ、今までに訪れた森とこの森は違う。

 見えないけど感じるんだよね、多くの気配を。


「いい加減隠れるのは止めろ。出て来いよ」


「急に何言ってるんですか?」


 リフレは何も気付いていなかったか。

 天能〈気配察知〉のおかげで僕には分かる。

 僕達が森を探索している途中から、樹や茂みを利用して尾行する者達の気配がな。何者かは知らないが人間の可能性が高い。


「まだ出て来ないのか? だったら」


 これでどうだ。

 苦手だが、全方位に殺気を叩きつける!


「ひっ、ごめんなさい!」


 リフレが腰を曲げて僕に謝った。

 いや、君に向けた殺気じゃないから。


「――ゴガ!」

「ようやくお出ましか」


 樹や茂みの裏から人間が10人も飛び出て来た。

 どんな奴等……なっ、何!? 裸!?


 こ、こいつ等、全員が褐色の肌を全て露出している。裸族ってやつだ。信じられない。いくら今が暖かい季節とはいえ、いくら森の中とはいえ、裸で行動する人間が居るとは。裸族なんて誰かの妄想かと思っていたのに。


「えっ、きゃあ! なんですかこの変態さん達は!?」


 全裸の男10人に囲まれ、槍を向けられた。

 リフレは男達を直視出来ず、咄嗟に両手で目を覆う……って指の隙間を広げて見ているじゃないか。もう手を下ろして堂々と見ろよ。


「僕達は尾行されていたのさ。裸なのは驚いたがね」


「どうするんですか。槍を向けられていますけど」


「いや、奴等の槍は下を向いている」


「へえー、私の気の所為ですかね。槍が真っ直ぐこっちに向けられているように見えるのは。いったいどこの槍の話をしているんですかねこの人! 状況的に笑えない下ネタなんですけど!」


 おかしいな。ノレッジーンスクールで読んだ『友達会話術』って本に、下ネタは全人類に通用して場を盛り上げる高等会話術だと書かれていたんだが。さすがは高等会話術。友人の少ない僕が挑戦するのはまだ早かったか。


 下ネタの話はさておき、裸族共について考えよう。

 彼等が持つ武器は全て槍だ。普通の鉄の槍だったり、木の棒に鋭利な石を付けた手作り槍だったり、武器の品質は統一されていない。


 手作り槍を見ると油断してしまいそうになるが、現れた時の動きから察するにかなり強い。冒険者ならおそらくBランク程度の力量を持っている。僕なら制圧は簡単だが戦闘は面倒だ。


 まずは対話をしよう。

 会話こそコミュニケーション。


「君達は何者だい? 僕達は怪しい者じゃない、各地を旅する旅人さ」

「オガ! ナガセガ! ワガノガ!」


 ……困った。何言ってるのか全っ然分からないぞ。

 現代では意思疎通を完璧に近付けるために言語が統一されている。昔は複数の言語が存在していたらしいが、それは数百年も前の話。現代で世界共通語以外を喋る利点が分からない。もしかして、世界共通語を知らないのか?


「ワガコガ、セガ!」


 だから何て?

 正面に居る男が険しい声を出すと、他の男達も同じ言葉を言い放つ。態度や表情からして友好的ではない。槍を向け続けられているし警戒されているのかも。


「ヘルゼスさん、なんて言ってるんですかね、この人達」


「さあな。とりあえず、彼等の言語に合わせてみよう」


 もちろん彼等の言語なんか知らないからテキトーに。


「ワガノガ」

「ノガア? ナガ! バガ! ホガバガ!」


 うおっ、興奮した様子で一歩距離を縮めて来た。

 よく分からないがワガノガはダメだったらしいな。


「ちょっとヘルゼスさん、怒ってませんかねこの人達」


「ああ、怒ってるな。たぶん罵倒されている」


「そうだ手を挙げましょうよ。敵じゃないことを示すんです」


「よし、やってみよう」


 僕とリフレは両手を挙げてみる。

 戦意はない、降参するという意味の仕草だ。

 言葉が通じないなら体の動きで意思を伝えればいい。


「タガノガ? ホガ?」


 どうする。何か訊かれているのは分かるが内容は一切不明。どんな仕草で返すのが正解なんだ。首を縦に振って肯定するか、横に振って否定するか? とりあえず……。


「ホガ」


 ホガ返しをしておこう。


「何言ってるんですかヘルゼスさん!」


「何を言っているのかは僕も知りたい」


「ホガ? ソガ」


 おっ、男達が槍を下ろしてくれたぞ。

 僕達が敵ではないと分かってくれたようだな。僕が何を言ったのかは全く分かっていないが、どうやらホガと返すのが正解だったらしい。何なんだよホガって。


「トガゴガ」


 僕の正面に居た男が背を向けて歩き出す。

 彼が裸族のリーダーだろう。1人だけ羽の装飾付きの槍を持っているし、あの槍が最も良い品質だ。それに僕との会話は彼がやっていた。代表者なんだろう。

 あれ、なんだ? 立ち止まってこちらに振り返ったぞ。


「ハガ!」


 リーダー裸族男が大声を出すと、他の男達も同じ言葉を叫ぶ。

 僕はホガと言うべきかハガと言うべきか悩み所だな。


「もしかして、付いて来いって言ってるんじゃないでしょうか」


「そうかもしれないな。じゃあ付いて行ってみるか」


 裸族の男達に囲まれながら先頭に付いて行く。

 まるで罪人の連行だな。これからどこへ連れて行かれるんだろうか。処刑台や牢屋にでも連れて行かれるのかね。やれやれ、言葉が通じないってのは人を不安にさせるな。言葉の偉大さを思い知るよ。



 裸族の男達に連行された先は小さな集落だった。

 彼等の集落で間違いない。彼等と同じく褐色肌の人間が50人は居る。何も身に付けていない男が30人程度。20人程度居る女は下腹部に動物の毛皮を巻き、大事な部分を隠している。まあ下腹部だけだから胸は丸出しなわけだが。


 文化の違いか、興味深い。

 普通の町村じゃあんな解放感溢れる恰好は出来ない。仮に女が胸丸出しにしたら騎士に捕縛される。そう考えると僕は珍しい光景を目にしているわけか。


「何見てるんですか。欲求不満ですか」


「その言葉は君にそのまま返したいよ」


「オガアアア! ニガツガアアアア!」


 裸族のリーダー、これからは裸リーダーと呼ぼう。

 裸リーダーが大声を出すと集落に居る者達が周囲に集まり、みんな揃って「ガアアアア!」と声を上げた。悲鳴ではないな。嬉しそうな顔から察するに喜びの雄叫び。


「ニーガ! ニーガ!」


 裸リーダーがまた叫ぶと周囲の者達も真似て叫ぶ。


「とりあえず僕達も叫んでおくか。ニーガ! ニーガ!」


「しょうがないですねえ。ニーガ! ニーガ!」


 ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ! ニーガ!

 ああ、頭と耳がおかしくなりそうだ。


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