2人の関係②
ノレッジーンスクール内にある図書館。
想像以上の広さだ。1つの町のような広い空間で本棚が隙間なく並んでいる。窓はなく日差しが入らないが、天井にある大型照明器具で時間に関係なく明るい。
まあノレッジーンスクールも城以上に大きいからな、納得の広さだ。これが1つの教育施設なんだから驚きだよ。生徒は寮に泊まれるらしく、それも図書館同様ノレッジーンスクール内部にあるため、この建物が学問都市とも言える。
「はわぁ、凄い広さですねー」
隣でリフレが目を丸くして驚いている。
彼女は試験に落ちて入学出来なかったが、奴隷は契約者の所有物扱いとなり建物へ入る許可は得られた。最初から知っていれば彼女が試験を受ける必要も、100点中36点なんて恥を晒すこともなかったな。
合格は80点以上。
僕は88点。マレットは92点だったっけ。
「僕は読みたい本を探して読む。君は好きに過ごせ」
「分かりました」
ノレッジーンスクールには図書館以外にも見るべき場所が多い。
特に豊富な数の研究所。薬品を作ったり、料理を作ったり、新たな計算式を作ったり、歴史の新たな解釈を生んだり、風呂の入浴剤を作ったり、その他にも多くの専門研究所が存在している。生徒は自由に見学出来るし、研究にも参加出来る。何年居ても退屈しないだろう。
本棚にある本を1冊ずつタイトルを見て、読みたければ手に取って読む。
モンスター図鑑の最新版。遺跡紹介の本。科学の本。料理人クッククの料理書……彼、本を出していたのか。
やはりこの場所は素晴らしい。
未知で溢れている。胸が高鳴る。
ん? 魔刃草原の向こう側?
本のタイトルからしてサイゴス大陸のことか。
魔刃草原のモンスターがなぜサイゴス大陸に向かうのか、理由が書かれているかもしれない。読んでみよう。
『魔刃草原の向こう側』。
著者、大賢者インテラ。
エライド大陸の最北端にある魔刃草原。
刃物のように強靱な草が生い茂り、凶暴なモンスターが多く生息する危険区域。しかしモンスター達は人間が住む場所を襲わず、モンスター同士で争いながら北へ向かう。
北のサイゴス大陸に攻め込むために、魔刃草原のモンスターは誕生したのだ。
遥か昔、古代と呼ばれた時代。
大きな罪を犯した人間に神は怒った。
何の罪かは今でも明らかになっていない。
ただ、神の怒りを買う程の罪だったのは間違いない。
神は罪人達をサイゴス大陸に送り、岩の壁で閉じ込めた。唯一の脱出方法は海上の橋を通り、エライド大陸にまで渡ること。しかし、それを魔刃草原のモンスターは許さない。
魔刃草原のモンスターは特別な存在だ。
言うなれば神の下僕。北へ向かい、罪人を始末する使命を果たすことだけを考えている。彼等が仲間内で争うのは、きっと自分が1番に罪人を殺すためだろう。
彼等を自らの都合で殺してはならない。
彼等は審判。神の代行者。
普通のモンスターではない。
戦うべきはサイゴス大陸の人間のみ。
時が経ち罪を忘れた人々は未だ彼等と戦い続けている。
人々が忘れようと、神が忘れない。
風化しない神の怒りと嫌悪。
他の大陸の人間が神の邪魔をすれば災いが降りかかるだろう。
罪のない人間や動植物を守るためにも、魔刃草原のモンスターを殺してはならない。彼等と戦うべきはサイゴス大陸の人間なのだから。我々はただ、見守るしかない。
「……おいおい」
魔刃草原のモンスターについては分かったが他の謎が増えた。
罪? 罪人がサイゴス大陸に閉じ込められた?
僕が住んでいた場所は神が用意した牢獄ってことになるぞ。あの大陸で、スタードール王国で出会った人々は、僕も含めて古代の罪人の子孫ということになる。
この本に書かれたことが真実なら、の話だが。
自分の目で見なければ完全には信じられない。
しかし確かめる術もない。古代の話だからな。
だいたい、僕は神の存在を信じていない。
神が目の前に現れてくれるなら信じるが、現れない限り僕は無神論者だ。天能は神が与えた説が一般的だがそれも信じていない。
「罪について、他の本も探すか。奴隷契約解除方法の本も」
1番読みたいのは奴隷契約解除方法の本なんだが、先に罪の本を見つけた。
古代の人間の罪ってのに関係があるかは読まなきゃ分からないな。
『五罪』。
著者、大賢者インテラ。
昔、罪人が居た。膨大な罪を抱えた5人の人間は強く、個でも国でもその罪を裁けなかった。
誰も忘れないように、ここで5人の異名と名前を記す。
傾国傾城。ラストラ。
純人族でも特に美しいとされた女性。異性を瞬く間に魅了する美貌を持つ彼女は、国王を誑かして1つの国を乗っ取った。さらに自分以外の同性を国から追放した。結局、彼女が乗っ取った国は5年も経たずに滅びを迎えている。
獅子奮迅。アトラゼオン。
獅子型の獣人族の男性。彼の心は悪ではない。純粋に力を求め、そして自らの全力を受け止めてくれる相手を捜し求めていた。彼は誰彼構わず戦いを挑み、敗者を力で自分に従わせ、弱者を殺してしまう。彼の通り道に転がる死体は数え切れない。
四百四病。オルシック。
タコの魚人族の男性。彼は医者だったが医療研究で病原菌、ウイルス、薬物を作ることに成功。一部地域では医療と厄災の悪神と呼ばれている。彼は作った病原菌やウイルスを自分の力と認識して、力に溺れた。身勝手に力を振るい、世界を病人で埋めようとした。五罪の中で最も人類に被害を与えた者である。
鯨飲馬食。グラトン。
純人族の女性であり小人。食べることを好み、膨大な量の食料を食べた。異常な食欲を持つ彼女のせいで複数の国が食糧難になった程だ。彼女の食事を邪魔しようとした人間は食い殺される。逆に、食事の邪魔さえしなければ人間に直接的な危害は加えない。しかし、食糧難に陥った国では多くの餓死者が出てしまっている。
「グラトン……この名前って」
料理人のクッククが連れていた少女と同じ名前だ。本に載っている肖像画と顔が似ている。髪色は同じ。
……まあ、本人なわけないか。
本には昔と書いてあるし、書かれた年代も800年以上前だ。そんな昔の人間が生きているわけがない。クッククの仲間が同じ名前なのは子孫だからか、あるいは全くの偶然か。今度会えたら訊いてみよう。
さて、続きだ。五罪最後の1人。
無限好奇。グリーディア。
純人族の女性。彼女は知識欲の化身。未知を探して各地を渡り歩いた。彼女は知らないことを知るためなら何でもする。王の気分を味わいたいからと玉座を乗っ取り、国が滅ぶ様を知りたければ滅ぼす。彼女には倫理観というものが全くなかった。
人類へ最も危害を与えたのはオルシックだが、厄介なのは間違いなくグリーディアだろう。彼女の天能は特殊だった。他の生物から天能を奪ったり、逆に与えたり、融合して上位の天能を生み出したりと様々なことが出来た。こんな天能を持ったのは私が調べた限り、彼女1人しか存在しない。
「……何?」
天能を奪い、与え、融合する天能?
これ、僕の天能、〈スキルドミネート〉だよな。
確定ではないが、僕の前にこの天能を持っていたのが五罪の1人。歴史に残る犯罪者ってわけか。
考えたくはないが天能は遺伝する場合がある。
グリーディアって奴が僕の先祖である可能性は否定出来ない。もし僕が犯罪者の子孫なら、神が牢獄として作ったサイゴス大陸に生まれたのも必然。……しかしなあ、時系列が合わないんだよなあ。
サイゴス大陸に罪人が閉じ込められたのは古代。
グリーディアが存在したのは800年以上前。古代はもっと昔。
残念だが、さっきの本の内容と五罪は関係がなさそうだ。古代の罪人について調べるのは長くなりそうだし後回しにしよう。優先して調べるべきはやはり、奴隷契約解除方法だ。




