生きていた伝説⑤
……目が、開く。ゆっくりと開く。
どうやら僕は、生き延びられたようだな。
「あっ、ヘルゼスさん! 目覚めて良かった……本当に」
うわっ涙が落ちてきた。リフレの顔近すぎ、いやそれ以上に胸が近い。この近さと僕の体勢からして、膝枕をしながら顔を近付けているな。うーん、なんか首が痛いぞ。思えば膝枕されたのは初めてだ。首いった……もう2度と膝枕なんかやらせない。
「リフレ。起きるから姿勢を正せ」
「あっ、はい」
リフレが背筋を伸ばしてから僕は上体を起こす。
場所は、ラドスと戦った場所か。時間経過はどれ程だろう。
「僕が気絶してからどれくらい時間が経った」
「たぶん、1時間くらいですかね」
「……そうか。心配かけたな」
1時間も目覚めなかったら心配するだろう。
傷はまだ完治していないか。裂けた肩は一応所々繋がっているが、動かせばまた裂けそうだ。今日は右腕を使わない方が良いな。腹の傷も内部まで治りきっていないのが分かる。しばらく安静にしていなければ傷が開き、今度こそ死にかねない。
「本当に、心配、したんですよ。死んじゃうんじゃないかと思って」
「まあ、僕が死ねば君は困るもんな」
「当たり前でしょう! 友達なんですから!」
「……いや、君と僕は奴隷と主の関係なんだが」
「これまで旅をして、一緒に過ごして、好きな物も嫌いな物も分かっています。私にとってヘルゼスさんは旅仲間で、大切な存在なんです! 死ぬのなんて見たくない。2度と、死にかけないでください」
死ぬなじゃなく、死にかけるな、ね。
難しいこと言ってくれるな本当に。
「はぁ、分かったよ。もう死にかけないさ」
「はい。約束ですからね」
所詮口約束。守れるかは分からないがな。
「そういえば、ヘルゼスさんは何者なんですか?」
「急になんだ?」
何者って、僕はどう答えればいいんだ。
「以前からおかしいとは思っていましたけど、今日で確信しました。ヘルゼスさんは天能をいくつ持っているんですか? 速く走れるし、鉱石は食べるし、傷も治っています。旅仲間なんですし、私には隠し事しないでくださいよ。誰にも言いませんから本当のことを教えてください」
本当のことを、ね。
確かに僕も自分の力を話そうと思ったことはあった。共に旅を続けていく過程でバレたらリフレが混乱するし、最初に話しておいた方がいいのではと。
しかし、話せないまま今に至る。
天能を奪う力を知ったら恐怖するんじゃないかと、気楽に話せる関係じゃなくなってしまうんじゃないかと、そう思ったからだ。
時間が経つごとに話したくなくなる。
もし拒絶されたらと思うと恐ろしい。
今まで通りに接せなくなるのが嫌なんだ。
……それでも、本当は嫌でも、話さなくちゃならない時は来る。今がその時だ。いつまでも隠しきれるものじゃないからな。強く疑問を持たれた時点で話した方がお互いの為だろう。
「僕の天能は〈スキルドミネート〉。簡単に言えば他人から天能を奪ったり、逆に与えたりする能力だ。君からすればラドスと変わらない怪物だろう。多くの人間にバレたら大騒ぎになるから絶対誰にも言うなよ」
背を向けたまま僕の秘密を告げた。
彼女は、どんな顔をしているんだろうか。
彼女は、何を思っているんだろうか。
「……天能を、奪う? なるほど、だから強いんですねヘルゼスさんは。納得しました」
「怖くないのか? 君の天能を奪うかもしれないぞ」
「やるならとっくにやってるでしょ。怖がったりしませんよ。友達を怖がる人は居ませんから」
……そうか。友達は、怖がらないか。
最初はただの案内人のつもりだった。趣味は合わない。面倒臭がりで、食欲が膨大で、気に入らない点も多々ある。それでも、僕達の関係は奴隷と主人ってだけじゃないのかもな。
「因みに、知っているのは私だけですか?」
「いや。君で4人目」
「ええー、2人だけの秘密ってやつ憧れてたのにー」
「旅を続けていればそんな秘密もできるかもな」
友達に隠し事は、しないから。
「ほら立て。王子を救出して王都へ行くぞ」
「はーい」
ふっ、面白いものだ。
初めてだな。人間関係を面白いと思ったのは。
この2人旅は楽しい。終わってほしくない。
森人族の国へ行きたいのに、行きたくない気持ちも生まれた。
それでも旅は続ける。足は止めない。
好奇心のままに僕は……旅をする。
次回更新 1ヶ月以内予定




