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楽岩鳥の岩落とし③


 夜になってしまったが馬車でサンバーザに到着した。

 徒歩なら2日は掛かったから1日経たずに着くのはありがたい。まあ、馬車にはもう事情がない限り乗らないがね。今回は無料だし初めてだから乗ったが、移動に金を使うのは勿体ないと思う。


 ほお、サンバーザってのはかなり大きな町なんだな。エンドドールの5倍は広い。これだけ広ければ面白い出来事の1つや2つ転がっているだろう。期待が高まるなあ。


「あー、やっと着いたあ」


 馬車から疲れた顔の鳥型獣人が下りて来る。

 ラピリスだ。サンバーザ到着までの時間、彼女には薬学の知識を教えられるだけ教えてもらった。実に有意義な時間だったね。……とはいえ、休まず話していたから彼女を疲れさせてしまったか。申し訳ないな。昔から興味あることには夢中になるもんだから。


「お疲れですねラピリスさん」


 次に馬車から下りたのは銀髪の美女、リフレ。

 こいつは全く疲れていない。

 当然だな、途中から寝ていたし。

 こいつが長話をされても眠らないのは、きっと食べ物の話の時だけだ。


「ずっと喋ってたせいで喉痛いよー。リフレさん、いつもこんなに長話してるの? あの人と居て疲れない? 弱みでも握られてたりする?」


 喋っていただけで酷い言いようだな。


「いえ、私は長話されると寝ちゃうんで疲れません」


「そっかあ」


「――ああ! やっと着いたのか待ちくたびれたぞ!」


 僕達が乗った馬車とは別の馬車から男が下りて来た。

 マッシュルームヘアーの金髪で小太りな男だ。着ている服はいかにも高級そうで派手な服。身なりからしてあれが御者の言う凄い客か。確かこの町、サンバーザ付近で行方不明者が増えた原因の調査を国王直々に頼まれたんだったな。そんな凄い男には見えないが、見た目や雰囲気に反して有能な男なのかもしれない。


「ヘルゼスさん、あの男の人が例の凄い客ですかね?」


「だろうな。想像通り金持ちそうな奴だ」


「あれ、2人は何も知らないの? あの人のこと」


「残念ながらな。ラピリスは知っているのか?」


「もちろん。自己紹介させてもらったし」


 ああ、楽岩鳥から助けた時か。


「あの人、スタードール王国のノーム王子だよ」


 スタードール王国の、王子?

 ふーん、あれが王子ね。


 国王直々に調査を頼まれたのも息子なら納得出来る。王子よりも適任な者は居ると思うがな。王子なんて身分の奴が死んだり、行方不明になったら国が大変なことになる。国王は余程王子を信頼しているらしい。


 ん? なんかリフレが王子を凝視している。

 まさか一目惚れでもしたか?

 いやいや、まさかな。こいつは恋愛とは無縁だろ。短い付き合いだがこいつが恋するとか想像出来ない。恋するにしても食べ物か料理人だろ。


「……あれが王子様」


「どうした? 一目惚れでもしたのか?」


「いえ、噂とはかなり違うなと思いまして」


「噂? どういう噂だ?」


「高身長で人形のように美しい容姿。マスターランクの冒険者をモンスターから助けたこともある程強く、弱いモンスターは見ただけで逃走する。騎士団長を超える王国一の剣士。邪悪なドラゴンを単独で討ち取ったこともあるとか」


 確かに噂から想像した姿とは全く違う。

 王子は今年で17歳だったか。その歳の男性にしては低身長だ。顔も体も脂肪が多くて美しいとは言えない。人形というより子豚だ。戦闘力に関しての噂も真実か怪しいな。強い奴ってのは立っているだけでも強いと分かるが、王子を見ていても何も感じない。


「まあ、噂なんて余計な情報が付くもんだからな」


「ああー、その噂全部嘘だよ」


「分かるのか?」


 ラピリスだって今日会ったばかりだろうに。


「冒険者ギルドじゃ有名な話だよ。ノーム王子は王家の権力を笠に着て、他人の功績を横取りするクズだって。実際に王子と会った冒険者はみーんなそう言うの。2人も冒険者だし聞いたことない?」


「いいや。冒険者ギルドでは新人だからかな」


「私もです」


「そっか。なら自分の目で確かめてみなよ」


 王都に近い町では有名なんだろうな。

 王都から遠く離れた村や町には嘘塗れな噂だけが届き、空想上の王子が真実になってしまったんだろう。噂はそんなものだ。やはり実際に自分の目で確かめなければ真実を知ることは出来ない。


「……ヘルゼスさん。私、豚肉料理が食べたくなってきました」


 王子が豚にでも見えたのか君は。


「おい、そこの鳥娘!」


 王子が護衛を8人連れて僕達の方へ歩いて来る。

 鳥娘とは酷い呼び方だ。命の恩人だろうに。

 純人には偶に居る純人至上主義な人間かも。


「余を助けた礼だ。今から酒場に行くぞ! 好きなだけ飲んで騒ぐがいい! ついでに御者とそこの旅人も来い! 代金は全額余が支払ってやるぞ!」


「やったあ! ヘルゼスさん、行きましょう!」


 どうやら王子は断られると思っていないようだ。ここで断ったら今後面倒なことが起きる。権力者には従っておくのが賢い選択だろう。まあ、絶対嫌な時は適当な理由言って断るつもりだが。最悪〈神速〉で逃げればいいし。


「ああ。ありがとうございます王子」


「ありがとうございますノーム王子」


「うむ。心の広い余にもっと感謝せよ」


 上機嫌な王子と共に僕達は酒場へ行った。

 席は僕、リフレ、ラピリスで一緒に座る。他は王子と護衛8人、御者5人で適当に座っていた。代金は全額王子が払うから僕以外は上機嫌な様子だ。いや、僕も夕食代がゼロになるから少し嬉しいけど。


 全員が酒と料理を注文して、よく飲み、よく食べる。

 どれだけ食べても自分は金を払わなくていいと分かっているせいか、僕以外は遠慮なく高くて美味い物を注文する。特にリフレとラピリス。この2人、リフレは大食いだと知っているから驚かないが、ラピリスも大食いだったのには驚いた。僕達のテーブルはもう料理も酒も置けないぞ。僕の料理は1皿しか置かれていないのに。


「……君達、よく食べるなあ」


「ヘルゼスさんが小食なんですよ」


 リフレはそう言って骨付き肉に齧りつく。

 それ何個目の骨付き肉だっけ。

 骨と皿が山積みになってるよ。


「……貴様等、食べ過ぎではないか?」

「王子が小食なんですよ!」


 他の席から全く同じやり取りが聞こえてきた。

 金が心配になってきたのか王子の顔色が青い。


「おおいもっと酒持って来おおおい!」

「注文した酒まだ!?」

「えー、私、この度、このお酒を一気飲みしまーす」

「テメエ今何て言ったクソボケええ!」

「ああん!? テメエがクソボケええ!」


 うるさい。非常にうるさい。

 酒に酔った人間はうるさくなるからなあ。

 いっそ酔い潰れちまえば静かになるのに。


 僕は賑やかな場は嫌いじゃないんだが、物事には限度ってもんがある。幸いリフレもラピリスも料理に夢中で騒がしくないがね。他の人間がうるさすぎる。

 よし、店を出るか。


「僕は一旦外へ出る。君達は気にせず食べていろ」


「え、もうお腹限界なんですか?」

「小食だねー」


 店を出てみると騒音が一気に遠くなった。

 生温い夜風に1人で当たっていると少し落ち着く。やっぱり1人の時間ってのは素晴らしい。最近はリフレが傍に居たから特にそう思える。誰かと過ごすが嫌な訳ではないけど、偶には1人の時間を作ってリフレッシュしないとな。


 ん? 何か、音が聞こえたような……。

 酒場の横にある狭い路地からだ。

 誰かの声が聞こえる。


 狭く暗い路地を覗いてみると2人の男が居た。余計なことに巻き込まれないために覗きがバレるのは避けたい。男達にバレないよう様子を窺う。


「ありがとうよ。助かったぜ」


「気にするな。定価の2倍払ってもらったんだ。俺が礼を言いたくなるぜ」


 定価の2倍? 商売か?

 サングラスを掛けた男が何かを相手に渡す。

 あれは袋だな。白い粉が入った小さな袋だ。

 白い粉……砂糖や塩などの調味料か?


 おっと、男達がこっちへ歩いて来る。

 こっそり覗いていたと怪しまれたくないし酒場に戻ろう。気分転換になったし休憩は十分だ。


「お、居た居た」

「ラピリス?」


 酒場からリフレを背負うラピリスが出て来た。


「何かあったのか?」


「リフレさんが満腹で動けないって言うから」


 そう言ってラピリスはリフレを石の地面に下ろす。

 満腹でっていうか寝てるじゃないかこいつ。こいつは一応容姿だけなら美女だ。酒場で寝ていたら性欲高めの男が寄って来るかもしれない。連れ出してくれたラピリスには感謝しないとな。


「本当に迷惑な奴だな。荷物は?」


「ごめん、まだ中。取ってくるよ」


「いや、僕が取ってこよう。自分の荷物だしね」


 少し眠くなってきた。

 荷物持ったら宿屋を探して休もう。


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