楽岩鳥の岩落とし①
さすがに投稿しなさすぎなので、1つの話作成が1ヶ月超えるようなら、途中まででも投稿することにしました。今回は4話分なので4日間連続投稿しておきます。
エンドドールの町を出た僕達は次の町へ向かっている。最寄りの町はサンバーザだ。草原の整備された道沿いに歩いていけば2日程度で着くだろう。
ん? あれは、前方に馬車が止まっている。
1、2、3、4、5。5台か。
強そうな男が4人降りて周囲を見ている。どうやら休憩中、モンスターや盗賊に襲われないか警戒しているようだな。当然のように僕達も警戒されている。
「ヘルゼスさん、あれ馬車ですよ馬車」
「見れば分かる」
「いやー、たまには馬車で移動してもいいんじゃないですかねえ。ほら、速いですし、座れますし」
要するに、歩くのが面倒になったから馬車で楽に移動したい。そういうわけか。気持ちは分からなくもないが馬車に乗るのは有料だ。徒歩でも行ける距離なのに、わざわざ金を使って馬車に乗る必要なんてない。
「楽をしたい気持ちは分かるがね。僕は疲れていないし、君が疲れているようにも見えない。馬車に乗る必要あるか?」
「町に早く着けるじゃないですか」
「金を使えばの話だろ」
「くっ、説得は無理か……はっ、待ってください。ヘルゼスさんって馬車に乗ったことあるんですか? 因みに私はありません」
君もないのかよ。
「僕も乗ったことはないが」
「ならいい機会ですし乗りましょう! 好奇心が疼くでしょ!」
ほう、僕の説得の仕方が分かってきたようだな。好奇心という言葉を出されたら僕は弱い。今まで馬車に乗ったことがないし、1度は乗ってもいいかなーと思っている。
「そうだな、乗ってもいいぞ」
リフレが笑顔になった。
「1度はな」
今度は真顔になった。
「当然だろう? 馬車に乗りたい好奇心ってのは乗ったことがないから生まれる。1度でも乗ったら君の説得は無意味になり、今後は使えない。そんなことも分からなかったのか」
「ぐぐぐ……はぁ、歩きましょうか」
賢い選択だ。馬車で僕の好奇心を煽る説得は1度しか使えない。今後必要になった時のために残しておくんだな。今は疲れていないんだから歩けばいいんだ。
僕達は最後尾の馬車の横を通り過ぎる。
「はあああ」
リフレが未練がましく馬車を見つめている。
我慢するんだな。金は無駄に使えない。
「――おう、お2人さんどこへ行くんだい?」
最後尾の馬車の御者が話しかけてきた。
わざわざ話しかけてくるなんて、乗れとでも言うつもりか?
「サンバーザの町に行くところだ」
「歩きじゃ大変だろ。乗っていきなよ」
「誘ってくれたのに悪いが、金の無駄遣いはしないんでね」
「ふっ、今ならタダで構いませんよ」
「なんだって?」
馬車へ乗るのが無料だと?
なぜだ、理由が分からない。
普通は距離によって料金を取るはずだが。
「実は今、前の馬車が凄い客を乗せていてね。腕自慢の護衛も前の4台に乗っている。だがな、最後尾を走る俺の馬車には誰も乗っていない。もし危険な状況になったら、他の馬車が逃げるための囮にされるらしい。酷い話だろ」
「じゃあ、タダで乗せる代わりに、その凄い客の護衛をすればいいんですか?」
「違うだろ。僕達が護衛するならこの御者だ」
凄い客とやらは既に護衛に守られているんだし僕達の出番はない。問題はこの御者。彼は他の馬車と客が逃げるための身代わり要因。つまり自分を守ってくれる人間が居ないわけだ。誰でも良いから守ってくれって聞こえるよ。
「そうそう。お前さん達は旅人っぽいし、戦いも慣れているんだろ? 頼む。俺を守ってくれよ。1人じゃ怖いんだよ」
「危険なことが起きるか分からないじゃないですか」
「逆に言えば起きるかもしれないじゃないか」
「いいさ。僕達を乗せてもらおう」
少し気になるしな、凄い客とやらが。
わざわざ護衛を用意している凄い客は確実に金持ちの権力者だろう。面白いことが起こりそうな予感がする。馬車に金持ちが乗っているならあの体験が出来るかもしれない。1度は体験してみたいんだよね、盗賊に馬車が襲われるやつ。
「えええ!? 乗るんですか!?」
「良かったじゃないか。乗りたかったんだろ」
「なんか、損した気分です」
なんでだよ、乗りたがっていたじゃないか。僕を煽ってまで馬車に乗ろうとしていたんだ。当然乗る準備は出来ているよな。いやー、リフレが乗るのに乗り気で良かった良かった。
「ありがとうな。約束通りタダでサンバーザまで連れて行くぜ」
「礼を言うのはこちらの方だよ。短い間だがよろしく頼む」
僕とリフレは馬車に乗り込む。
座る場所、硬いな……。
長時間座っていると尻が痛くなりそうだ。
馬車前側の小さな穴から御者の頭が見える。横に付いた窓とは役割が違うんだろう。景色は御者で遮られているし、御者といつでも会話が出来るよう開けられた穴かもな。
休憩が終わったようで5台の馬車が走り出す。
横の窓から景色が流れていく。これが馬車のスピードか、予想通り大したことない。まあ、足を使わなくても進むんだから便利なのは認めよう。
うーん、馬は何を考えているんだろうか。
なぜ車体を引く。なぜ人間に従う。気になる。馬だけでなく動物全般の頭の中を覗いてみたいものだ。心を読める天能なんてものがあれば欲しいね。
「ヘルゼスさん。凄い客ってどんな人なんでしょう?」
「ああ、前の馬車に乗っているという客か。護衛を多く雇える金持ちなのは確かだな。御者、教えてくれないか? 君は分かっているんだろう? その凄い客の身分が」
「凄い、としか言えませんねえ」
馬を操る御者の男は前を見ながら答える。
訊いても無駄だな。凄い客の正体を教えるつもりはないらしい。自分から凄いと話しておいて教えないとは酷い奴だ。いや、警戒しているのか? 凄い客の正体を知った人間が危害を加える可能性を考えている?
仕方ない。凄い客の正体を知るのは諦めよう。
「じゃあこれは教えてもらおうか。町までの道中、何が起こる可能性がある? 凄い客とやらが護衛を付けているのは危険があるからなんだろ? あるんだろ? あるよな?」
護衛を付けているだけなら疑問には思わなかった。危険な何かが起こるのではと疑問に思うきっかけは、今僕が乗っているこの馬車だ。この馬車はいざという時、凄い客とやらが逃げるための身代わり役である。しかし身代わり役なんて用意するのは異常だと思う。何かがあると分かっているからこその対策、そう思うね。
「……あー、実はサンバーザ付近で行方不明者が年々増えているんだ。何者かが人を攫っていると国王様は考えているみたいでな。凄い客は国王様から調査を命じられているんだよ」
「つまり、人攫いに襲われるかもってことか?」
「そう。そして凄い客が危険な時は俺が身代わりってわけ」
人攫いねえ。奴隷商に売るか、自分の奴隷にするか、目的として考えられるのはこの2つだな。本当に誰かに人間が攫われているのなら危険だ。そんな事件の調査を命じられる者で、凄いと言われる人間。いったいどんな人物なんだろうか。
「どうして身代わりなんて引き受けたんですか? 嫌なら引き受けなければ良かったのに」
「お前さんの単純な考え方が通用しないこともあるのさ」
嫌でも断れない事情があるんだな。
凄い客とやらが権力者なのは確実か。正体は気になるが、関わったら面倒なことになるかもしれない。行方不明者の多い理由は僕も少し興味あるけど、調査に加われと言われるのは面倒臭い。調べるなら気ままに1人で調べたいものだ。
――ズドンッ!
「うおっ!?」
「きゃっ!」
「なんだ?」
重い物が落ちたような音だった。
あるいは爆発のような、そんな音。
何の音だ。窓の外を眺めてみたが何も異常はないぞ。
「ひっ、ひっ、ひいいいい!」
御者の様子がおかしい。激しく動揺している。
「おいどうした! 何を怖がっている!」
「い、岩です! 巨大な岩が落ちて来たんですよ!」




