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好奇心の旅人  作者: 彼方
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奴隷という存在①


 奴隷。

 主人となった人間に逆らうことは許されず、最低限の権利しか持てない存在。本では奴隷の立場から解放されて幸せになるという成り上がり的な物語が多い。奴隷には悪いイメージがあるってことだ。


 僕は奴隷を買いに奴隷商店へと来ていた。

 物語の悪役のように奴隷を買って酷使するなんてことはしない。旅を続ける未来を想像した結果、荷物持ちの旅仲間が必要になると判断したのである。しかし、旅に同行して荷物まで持ってくれる人間なんて居ないと思う。居たとしても捜すのは苦労しそうだ。……まともな人間ならな。


 奴隷ってのはまともな人間じゃないと思う。主人の命令には逆らえないから、僕に買われたら荷物持ちになるしかないんだ。


 僕は仲間と語り合いたいわけでも、友情や愛情を深めたいわけでもない。求めることはたった1つ。荷物を持つ、それだけ。


「いらっしゃい。どんな奴隷をお捜しで?」


 路地裏にひっそりと建つ奴隷商店に入ると、汚く笑う小太りな男が僕を出迎えた。こう言っちゃ悪いがイメージ通りの奴隷商人だ。物語に出て来る悪役のようだ。……いや、この男が悪人であるかは分からないが。


 入口側の部屋には奴隷が居ない。

 店の奥に居るのか?


「荷物持ちをさせたいから、力が強ければ良い。荷物を持てるなら性別も年齢も種族も気にしないよ」


「なるほど。では、どうぞこちらへ」


 小太りな男に付いて行き、店の奥へと向かう。

 薄暗い通路が長く続いている。左右には鉄格子の檻がいくつも置かれており、檻の中には性別や種族関係なく奴隷が入れられていた。服は白いシャツとパンツ1枚か。……正直、見ていて良い気分はしないね。人間が家畜とでも言われているようだ。可哀想と思うのは普通だろう。

 奴隷達はなぜ奴隷になったのだろうか。


「なあ、純粋な好奇心で知りたい。人が奴隷になる理由ってなんなんだ?」


「大きく分ければ理由は2種類ですなあ。1つ目は売られる人間の意思関係なく、他人から我々奴隷商に売られること。これが最も多いです」


「人攫いか?」


「まあ、人攫いから人間を買い取る奴隷商も居ますがね。私からすればそのような輩は三流ですな。私は人攫いから人間を買い取りません。私が買い取るのは国のお偉いさんからです。主に重い罪を犯した犯罪者ですな」


「……なるほど。犯罪者への罰か」


 納得は出来るが、国の権力者が人身売買に関わっているとは意外だ。

 とりあえず、この奴隷商が人攫いから人間を買っていなくて良かったな。もし無理やり普通の人間が奴隷にされていたのなら、僕は奴隷を解放していたかもしれない。他人の人生とはいえ攫われて奴隷化と聞けば僕だって不愉快になる。犯罪者への罰が理由ならまあ……一応、許せる。


「2つ目は自分で奴隷になること」


「そんな奴が居るのか?」


 自分から奴隷になりたいなんてバカが居るとは(にわか)に信じ難い。


「主に貧困層の人間ですな。食べ物に困る彼等でも、奴隷という商品になれば生きられる。奴隷商が奴隷を死なせるわけにはいきませんからね。食事だって少ないですが3食与えますよ。奴隷になる前より健康になった人間も居ます」


「飢え死にするより奴隷になった方がマシだというわけか」


「借金返済のために自分を売る人間も居ますよ」


「おいおい……」


 自分を奴隷として売り、買い取ってくれた金で借金を返済しようって、バカな奴も居るものだな。真面目に働いて金を返せばいいものを。楽に返せるから奴隷になろうなんて奴隷を甘く見すぎている。……そういう奴って、もし自分を売っても返済額に届かなかったらどうするんだろう。


「人が奴隷になる理由は分かった。ついでにもう1つ質問していいかな」


「どうぞ」


「買われた奴隷が何をするのかを知りたい」


 スーツ姿の小太りな男が足を止めたので僕も止まる。

 何か、怒っているような……気のせいかな。

 男が立ち止まっていたのは本当に短い時間だった。


「どうかしたのか?」

「いえ、申し訳ありません。何もないのです」


 再び歩き出した僕達は力自慢な奴隷のもとへと向かう。


「奴隷が何をするのか知りたいと仰りましたね」


「ああ。もしかしたら想像と違うかもしれないし」


「奴隷を買った人間が何をさせるのか。人によって様々でしょう。基本は労働ですな。従者にして家事や身の回りの世話をさせたり、トンネル開通などの工事をやらせたり。買われる方の中には奴隷を結婚相手や養子にしたりする方も居ます」


 奴隷と結婚……つい昨日そんな奴も居たっけ。

 ふむ、想像よりも綺麗な話だ。綺麗すぎるくらいだよ。

 嘘は言っていないにしても隠し事はしている。

 そう僕の直感が告げている。


「奴隷を買う奴等の中には居るんじゃないか? 吐き気を催す程のクズ」


「……まあ、居ますねえ」


「そうか」


 男は語りたくなさそうだ。

 奴隷商なんて仕事をしているわりに優しいんだな。

 表情は見えないが声で分かる。必死に怒りを隠そうとしても隠しきれていない。奴隷を商品としてだけじゃなく、人間としても扱っている。商品だから物扱いする奴隷商も居るだろうし、この仕事はそういう善性が欠如したクズが多いと思う。目の前の男は良い奴だ。こういう人間が奴隷商売に適任なんじゃないかと勝手ながら思う。


「お客さん、ここから力自慢な奴隷が居ますよ」


 1つの狭い檻の中に1人ずつ奴隷が暮らしている。

 今まで話しながら見てはいたが奴隷の人数も種族数も多い。

 世界人口の大半を占める僕のような純人(じゅんじん)族だけじゃなく、獣人族やら魚人族、珍しい種族だと竜人族まで居る。さすがに森人(しんじん)族は居ないか。もし居るなら絶対買うんだが。


「お客さん、種族は気にしないと言っていましたよね」


「ああ。容姿も種族も気にしない。どんな人間でもいい。ただ、僕の要望に応えられる奴隷を一応全て見せてくれないか? 全て見てから誰を買うか決めるからさ」


「分かりました。紹介しながら見て回りましょう」


 狼の獣人。男。名はジャヴォ。値段140000エラ。

 全身の毛が切り揃えられているのは商品だからだろうか。値段が安いのか高いのか判断出来ないが、僕は今かなりの大金を所持している。虹の七色魔石を見つけたおかげで金銭面は余裕があるんだ。彼の値段は軽い気持ちで買える程度だし、全て見た後に悩むようなら彼を買おう。


 鮎の魚人。男。名はアユタ。値段350000エラ。

 魚の顔が純人にくっ付いてるって感じの容姿だ。細身に見えるが魚人の筋力は純人の3倍と本で読んだことがある。獣人が約5倍。竜人は約10倍だとか。純人を買うなら別種族の奴隷を買った方がいいだろう。しかし魚人は気が進まない。どんな種族でもいいと言っておいて悪いとは思うが、あの頭を見ていると小腹が空いてくる。魚の塩焼きが食べたくなっちまう。


 竜人。女。名はドリア。値段15000000エラ。

 竜人は小型のドラゴンが二足歩行しているみたいな見た目だ。

 初めて見た。くっ、あの鱗や尻尾を触ってどんな感触か確かめてみたい。女性と紹介されたが白いシャツから胸の膨らみは見えないな。竜人の女性は胸が膨らまないのか? それとも彼女が貧乳なだけか? 鱗に痛覚はあるのか? 彼女を買って竜人の生態や常識を聞くのもいいな。


 純人。男。名はスタン。値段3000エラ。

 筋肉がとても発達している強面な男。見た目通り筋力はありそうだな。


「……いや、ちょっと待て。他の奴隷に比べて安すぎないか?」


 3000エラって、少し高い料理店で腹一杯食べたらなくなるぞ。

 いくら純人が世界に多いからって安すぎるだろ。なぜこんなに安い。


「彼は犯罪奴隷。さっきお話した通り、国のお偉いさんから買い取った人間です。犯罪奴隷は安くせよというのが国の命令でしてね。しかも犯罪奴隷は法律で守られない。犯罪奴隷に何をしても罪には問われません」




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