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episode 5.-past Day5-

私は、…自分に自信がない。



物心付いたころから、4つ年上のお姉ちゃんは

可愛くて、何をしても完璧で。

周りから常に頼りにされている、そんな人だった。




お姉ちゃんの事が嫌いなわけじゃない。

周りに信頼されているお姉ちゃんを誇らしいとも思うし、お姉ちゃんのことを褒められるのだって、昔は純粋に嬉しいと思ってた。



でも、だんだんお姉ちゃんと一緒にいると勝手に比べられているような気持ちになって。

みんな、私といてもお姉ちゃんばかりを見ているような気持ちになって。



" 蘭ちゃんは凄いね "

" 花鈴ちゃんのお姉ちゃんは美人で羨ましい "



お姉ちゃんを褒める言葉が、私は大したことないって言われてるような気がして

心に棘のように突き刺さって、抜けないまま。




ピコンッ



「詩音くん…。」




昨日、" 帰って " なんて詩音くんに言ってしまったあと。

心配して詩音くんは連絡を何度もしてくれたけど

これ以上、自分の弱い心を詩音くんに知られたなくて、連絡も返せていない。



あぁもう、なんでかな。

こんな風になりたかったわけじゃないのに。

詩音くんだって、そんなつもりで言ったわけじゃないってわかってるのに。



自分に自信がないからこそ、勝手に傷ついて、怒って。

…詩音くんのことまで傷つけて。

そんな自分が嫌になる。




コンコンッ

「花鈴、ちょっといいかしら。お母さんお醤油切らしちゃって、花鈴買ってきてくれない?」

「…お醤油? それなら昨日お姉ちゃんが」

「も~、花鈴も春休みだからって、一日中部屋に籠っていたら怠け者になっちゃうわよ!! ほら、いいから行ってきて!!」




正直気持ちは乗らないけれど、気分転換にはなりそうだし。

頼まれたおつかいをしに、家から出る。



とはいえ、お醤油なら切れていないことくらい私も知っているし。

きっと、お母さんにも心配かけちゃったんだな。

どうして私はお姉ちゃんみたいに上手く出来ないんだろう、…って。

ネガティブな思考が、また頭の中でグルグルして…




「…花鈴ちゃん??」

「…っ、!、、詩音くんっ、、」

「え、あ、ちょっ、! 待って花鈴ちゃん…!!」




おつかいを終えて、住宅街の角を曲がれば、何故かそこには詩音くんがいて。

どんな顔をして詩音くんに会ったらいいのかわからず、とりあえず反対方向に向かって走り出す。



「花鈴ちゃん、! 」

「…っ、!!」

「…やっと捕まえた。少し、、話そ?」



だけど、私の足では到底逃げきれず

家から少し離れた公園まで走った所で、追いつかれてしまって。

詩音くんに言われるがまま、公園のベンチに並んで腰をかける。



「………」

「………」



しばらくの間続く沈黙。

ちゃんと謝らなきゃって、思うけど。

もし、呆れられていたら…?

別れようって言われたら…?

そう考えだしたら怖くて、自分からは言葉に出来なくて。




「ねぇ、花鈴ちゃん。」

「…ビクッ、、、」

「僕…」



沈黙を破る詩音くんの声に、体がビクっとする。

あぁ、ダメだ。きっと別れようって言われるんだ。

私はもう詩音くんとは…




「僕ね、花鈴ちゃんのこと大好きだよ。」

「…へっ、?」




別れ話を切り出されると思ったのに、詩音くんの予想外の言葉に思わず腑抜けた声が出る。





「僕ね、出会ったばかりだけど花鈴ちゃんのこと本当に好きなんだ。だから、無理に話して欲しいなんて言わないけど、花鈴ちゃんが困っていたり悲しんでいたら僕は力になりたい。」




…なんて。

真っ直ぐと私の目を見てそう言う詩音くん。

そんな詩音くんを見れば、今まで自分が抱えてきた不安がなんだかもう、バカみたいに思えてきて。


こんなに素敵な人なのに。

どうして詩音くんも、どうせ皆と一緒だろうなんて勝手に決めつけてしまったんだろう。



私は…

私だって詩音くんのことが、誰よりも好きなのに。




「…詩音くん、八つ当たりしてごめんっ。私の話、…聞いてくれる??」

「うん、もちろんだよ。」





それから詩音くんは、私の抱えていた不安や劣等感を打ち消すように

" 大丈夫だよ " "そんなことないよ " って。

私の話を、優しく最後まで聞いてくれた。




「花鈴ちゃん、話してくれてありがとう。」

「ううん、私の方こそ詩音くんが居てくれて良かった。」

「誰がなんて言おうと、僕が好きなのは花鈴ちゃんで、それ以上の人なんて居ないんだからね?」





優しく微笑む詩音くんを見て、なんだか心が軽くなったように感じて。

…やっぱり私、詩音くんのことが好きだなって。

そう実感する。





「私もっ、…詩音くんのこと大好きだよ。」

「~~っ、!! あぁもうほんとに、花鈴ちゃんずるいよ!!」

「…わっ!!」




ずるい、なんて言いながら

私を抱きしめる詩音くんは、耳まで真っ赤になっていて。




「花鈴ちゃんに自信がつくくらい、僕が毎日大好きって言おうかな?」

「それは…! 毎日だなんて私が緊張しちゃうから、!」

「うん、笑 でも、それくらい僕は花鈴ちゃんのこと大切だから。」

「…うんっ。」



詩音くんとなら、変われるような気がするから。

私が強くなれるのは、詩音くんがいるからだから。



「…花鈴。」

「…っ、!!、、」

「花鈴、好きだよ。」

「…私も、詩音くんが好きっ、」




夕焼け色の空の下。


私たちは、初めてのキスをした。







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