少年と羊
「クウィント」
少年がそう呼ぶと群れの中から黒い羊がちょこちょことした足取りで出て来た。
そして、人懐っこそうに頭を少年の体にこすり付ける。
「くすぐったいよ、クウィント」
そう言って少年は笑うと一番の友達の頭を丁寧に何度も撫でる。
すると羊は嬉しそうに鳴き声をあげながら尚も体を擦りつけていた。
そんな光景を見ながら年上の羊飼いたちは不思議そうに言う。
「あいつ、本当に人間の言葉が分かっているんだな」
「あぁ。犬なら多少は声を知るって言うけど、羊が人の言葉を知るなんて聞いた事もねえ」
そう話しながら羊飼いたちは暖かな太陽の光を見上げて笑う。
「しかし、あいつの毛皮が黒であって本当に良かったな」
「あぁ、そうだな」
子供と戯れる黒羊を見つめながら羊飼いは言葉を結ぶ。
「あんだけはっきりしてりゃ、俺らも間違って食べちまうこともない」
「そうな。その通りだ」
冗談交じりに語られる言葉を知ってか知らずか黒羊と少年は今日も戯れていた。
友達と遊ぶ少年の耳に彼らの声は届いておらず、少年の友達は一つ鳴き声をあげて何度も何度も少年に頭をこすり付けるばかりだった。
まるで、会話の内容を知っているかのように。
太陽の光は今日も眩しく人間達を照らしていた。