BSMな撲殺魔っ
聞き出した情報を元に、セントリファリスの中心街へ急行します。
「…………あった、あれであーる」
リジーが指し示した先には「ブランドール商会」と書かれた看板が設置されている、小綺麗な三階建ての建物がありました。
「ブランドール商会……! ま、まさかですわね……」
「あれ、リファリス知ってるの?」
「む、無論ですわ。毎週必ず休息日には、お祈りにいらっしゃってますから」
「え、毎週? もしかして、私も知ってる人?」
「当然ですわ。いつぞや貴女に『養女にならない?』と声を掛けて下さった……」
「え、えーーっ!? あの時の!?」
「……二人とも、面識ありまくり?」
「ありまくり……ですわね。わたくしの説法にもよくいらっしゃってましたし、一般的な飲食店に例えるのでしたら『常連』という言葉が当てはまる方ですわ」
「そ、そうだね。私だけじゃなくリファリスにも色々としてくれるし、教会にも多額の寄付をしてくれてるし」
「……つまり、頭が上がらない相手?」
「そ、そうなるかも……」
「……いいえ」
「……リファリス?」
わたくしも思うところが無い訳ではありませんが、今回は心を鬼にします。
「尋問によって得られた情報は的確でしたし……何より、ブランドール商会を隠れ蓑としているのでしたら、露見する事はまずあり得ません。相当巧妙な手口ですわね」
そこまで社会的地位もある商会なのです。
「そうだね。私でもさっきの自供を聞いてなかったら、信用しないかも」
「むう……そこまで善良な商会なの」
善良かは分かりませんが、社会貢献に熱心ではありましたわね。
「ですが、それはそれ、これはこれ。追及の手を緩めるつもりはありませんわよ」
「だったら、まずは裏付けね。リジー、あの建物には忍び込めそう?」
「何とでもなる。お任せあれい鉄アレイ」
「はい?」
……リジーはたまに妙な事を口走りますわね。
「それよりも、そんな間怠っこしいのは今回必要ありませんわ」
「「……え?」」
「正面突破しますわよ」
そう言ってわたくしは、商会入口へスタスタと歩いていきました。
「え!?」
「ちょっと、リファリス!?」
入口近くに立っている警備兵さんに近寄り、深々と頭を下げて。
「お忙しい中お手数をおかけしますが、会長様にお会いできますでしょうか」
「これはこれは聖女様。会長でしたら先程戻ってきましたので、お取り次ぎできますよ。少々お待ち下さい」
「そうですか。宜しくお願い致します」
「な、成る程、正面突破……」
「感心してる場合じゃないわよ。行くよっ」
「あ、待って、リブラ」
豪奢な応接室に通され、秘書らしき方からお茶を頂きます。
「会長はもうすぐ来ますので、もう少しお待ち下さい」
「お構いなく」
さて……相手の懐には潜り込めましたわね。
「後はどこに奴隷印があるか、ですが……」
これだけ巧妙に正体を隠している方々ですもの、そう簡単には見つかりませんわよね。
「さて……まずは混乱を起こしましょう」
そう言ってわたくしは、聖女の杖に魔力を込めたのです。
ドガアアアアアン!
「な、何!?」
「何だぁ!?」
リファリスと違って顔パスという訳にはいかず、警備兵に対して身分証明を行っていた時、建物内部から爆発音が響いてきた。
「ま、まさかリファリス……!」
本当に強硬手段に訴えちゃったの!?
「せ、聖女様!? 聖女様はご無事か!?」
だけど、これはチャンスかも。騒ぎに紛れて、商会内に突入!
「あ、ちょっと待て!」
「これ以上待てない! 私達は聖女様をお守りする事が任務なの!」
リジーは自分の仕事を盾にして、合法的に中に入る。
なら、私は。
「聖女様ぁぁ! どうかご無事で!」
師匠を心配する弟子ポジションで、リジーに付いて行く。
「……よし、止められなかった。このまま中を探索するわよ!」
「聖女様、聖女様あああ」
白々しくリファリスを探しながら、あちこち家捜しする事も忘れない。
「お、お前ら、何をしてる!?」
「聖女様、聖女様はどちらに!?」
「え……し、知らねえよ!」
私達を怪しんで問い質してくる人も居たけど、やや極端に取り乱して「聖女様は何処~」と泣きついてやれば、大体は面倒臭がって逃げていく。
「……あ、これ。何かあるっぽい」
天井に違和感を覚えたリジーが、板を外して手を突っ込むと。
「あ、帳面みたいなのが」
帳面? もしかしたら!
「それ見せてっ」
「うい」
リジーの手からひったくるように奪い、内容を確認する。
「……多分、間違い無い。これ、ブランドール商会の裏帳簿だわ」
ラブリに見せてみれば、詳しい事も分かる。
「……つまり、確固たる証拠?」
「うーん……商会が不正をしていた証拠にはなるけど、奴隷売買に関わってた証拠としては弱いかな」
裏帳簿とはいえ、堂々と「奴隷がいくらでした」なんて書いてある筈が無い。何かしら隠語で記帳してあるだろうから、それを解き明かさないと。
「えーっと、これかな。『DRI、一体銀貨三枚』」
…………はい?
「このDRIってのが、奴隷の隠語と思われ」
奴隷……まさか、頭文字を並べただけ!?
「ええっと、MJSのDRI?」
……頭文字から考えてみれば……。
「……MJSか。ならSNSは……戦士みたいね」
「リブラ、これが隠語? これが暗号?」
……外面ばっか気にして、内部はユルユルだったみたいね……。
「もう一度聞く。これ、確固たる証拠になる?」
なります。ラブリに見せる必要も無いくらい、確固たる証拠です。